第6話 デタラメの英雄譚 その6
さて、この大陸最強の剣聖(っていう設定の)その生涯を語るにあたり、まず留意して置かなければならない点が一つある。
確かに俺はその生涯を、余すとこなく妹に語った。時に繊細に、時に大袈裟に。もちろんそれは、八歳の妹が興味を引きやすくするために脚色した作り話なんだけど……。
ぶっちゃけそれって俺が考えた設定ってわけじゃないんだよね。
はい。もう分かってると思いますが、その設定パクリです。むっちゃパクってます。
なので、この場でそれを発表しちゃうのがどうも気恥ずかしくて……。もちろん版権的にどうなのって事もありますし……
なんて――
一瞬、ちょっと不安になった俺だけど。
つまりです。結局のところ俺が何が言いたかったかって言うと……。そんなこと気にするな。妹にバレなきゃ何の問題も無いんだから。
そう。怖気づいてどうする。ここは自身と威厳をもって言うべき時なのだ。
「レイラ。お前には分かっておいてもらいたいことがある。これからの道は孤独だぞ。この東方不敗……」
あっヤバっ、出だしからモロじゃん。えっと、なんだったけかな……。
ごめん。今の忘れて下さい。もう一度やり直します。
もとい――
「心して聞くのだぞレイラ。お前は肝に銘じ無ければならない。これからの道は孤独だぞ。何故ならこの千年救敗という人物こそが千年もの間、自らただひたすら負けを求め続け、生涯その願いが叶う事無かった
ヨシ!出だしちょっとつまずいたけど、なんとか決まったな。
俺は、ただひたすら満足であった。だって超格好いいじゃんこの剣聖の生涯。負けを求め続けるなんて最強の設定だよ。妹の反応も分かりやすい。設定聞いたらむっちゃワクワクしちゃってるじゃん。
でも、一応釘は刺しておかないとな。もちろんこれから教える修行方法は全てデタラメだ。だから強くなる可能性なんて1ミリも無い。だから凡人には修得出来ないって設定を前もって言っておかなくちゃ。
やんわりと、凡人のお前には無理なんだよ〜って。
俺は、あえて最上級の厳しい顔を作りながら、妹の目を見据える。そしてその声色を極端に低く変えて威厳を演出する。
「どうだ?お前はできるか?」
俺は妹に問いただす。
妹はと言うと……。よしよしノッてるノッてる。大きな声で「ハイッ」だって。
「道は孤独で過酷だぞ?」
「頑張ります。お兄ちゃんがいれば絶対に耐えれます!」
可愛いこというねぇ〜まったく。でもここはデレるタイミングではない。
「道は成らぬかも知れんのだぞ」
「それでも構いません」
「ならば、以後修行の際は私のことをお兄ちゃんとは呼んではならぬ。
「師兄って?」
「共に学ぶ兄弟子のことだ。俺もまだまだ修行の身。救敗先生の足下にも及ばないんだ。だから、これからは共に励もう」
「ハイ。おに……じゃなかった……。師兄!」
この時の妹は、今思えば一生涯俺と共に剣法を学びながら、時に二人で剣術修行の旅に出て、時に共にドラゴンを退治して……。そんな未来を夢見ていたに違いない。
妹の夢の傍らには、いつだって唯一の肉親の俺がいて……。
でも、そんな妹の小さな望みなんか大きくなればすぐに消えてしまうさ。
もう数年もすれば、きっと「もう、下着は一緒に洗わないでって言ったでしょ!」とか「そのシャツむっちゃ臭いんですけど……」とか「お兄ちゃんなに私の胸をジロジロ見てるの?」言ってくるんだぜ。
まぁ、結局のところ兄妹なんてそんなもんだろ?
だから妹が俺という存在に飽きてしまうまでは、どうにかして騙していたいんだ。思春期が来れば兄貴なんか邪魔もの扱いするに決まっている。
俺の前世での苦い思い出が、ふと頭の中をよぎった。
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