一章エピローグ サルネ・テンサンス
私の名前はサルネ・テンサンス。私は四大貴族生まれの6歳の令嬢ですわ。
私は生まれつき人の感情が色で見えるの。だから周りの人が酷い考えをしていたらそれが全て伝わってとても怖いの。
ー最初これがなんなのかわからずお母様たちに聞いたら、最初は驚いたけどすぐに教えてくれたわ。
『それはね、我が家で特別な人だけがもらえる女神の祝福なのよ』
私はそれを聞いた時とても嬉しかったの。
それを聞いた時、マオもハナもすごいと喜んでくれたわ。
ーでも、それは地獄の始まりだった。
周りの感情がわかると知った私はどの色がどの感情なのか確かめるようにしたわ。
本からの情報やハナやマオにその感情になるようにやってもらったりして…
お陰で私はある程度人の感情がわかるようになったの。
…そして私は気づいてしまったの。屋敷のメイドから向けられている感情は嫉妬や妬みといった類のものが多く、私に優しくしてくれていた人が野望の色をつけていたりとみんながみんな嘘でできていた。
「みんな、あの優しそうな表情は嘘だったの?」
私はその日から人のことが信用できなくなってしまった。最初優しい人でもいつか失望したり野心を見せたりする。それが怖くて前まではよくいっていたお茶会にも行けなくなってしまった。
たまにお茶会に行った時も唯一信頼できる、ハナちゃんやマオちゃん、両親の後ろに隠れてないとお話もできなくなってしまった。
そんな日々を過ごしているといつからか私は「社交辞令もできない落ちこぼれ」となってしまった。
「サルちゃんの事情も知らないで…!なんですか、この呼び名は!」
その後、それを聞いたマオちゃんがそれを聞いた時珍しくブチギレて抑えるのに大人が5人ほど出撃して3人が気絶させられたのちようやく落ち着かせたという大事件が起きた。
そこから、私を嫌っている人だけじゃない、ということが私の支えになっていた。
もし彼女らがいなかったら私は壊れていたのかもしれない。
そう思うと私は彼女たちには感謝しかない。
***
それからも私は他人に関わることができなかった。世の中、悪い人だけではないのは知っていたがそれでも私は怖かった。
それでもお父様もお母様もこんな落ちこぼれと言われた私を愛して続けてくれている。だから、私はいつも思うのだ。
ーどうして私にこの能力を与えたのか
これがなかったらこんなに愛してくれている家族にもっと恩返しができるのにどうしても周りが怖い。
家族の愛が深いからどうしても罪悪感が無くならないのだ。
「マリー様、お手紙でございます。」
「ありがとう。ええと…誕生日パーティー?」
そんなある日私の元に一通の手紙が届いた。それはお父様の40歳記念の誕生日パーティーだそうだ。
いくらそういうことが苦手な私でもそういうパーティーには出席している。
とはいえ、いつもハナかマオの後ろにずっといるのだが、
***
ー当日ー
「すみません、サルネ様。どうしても外せない用事がありまして、パーティーについていけないんです」
「いいのよ、マオ。貴方の仕事を優先するのが当然ですわ」
「そうです、マオさん。ここは自分がきちんと守るであります」
「くれぐれも逸れないようによろしくね、ハナ」
「はい、であります」
その日マオはどうやら外せない用事があったらしくそのパーティーを休むことになった。
しかし、元はと言えば私が一人で入れないのが悪いのでここまで気を遣わせるわけにはいかない。
そうして私はハナと二人で会場にやってきた。
私はハナの後ろにピッタリとくっついて歩いている。
「うわー、今日は特段と人が多いですね。」
「……そうね。」
「サルネ様、どうか無理をなさらないように」
私が弱々しく答えると彼女は私を心配してくる。私はそれに罪悪感を感じる、私のせいでせっかくのパーティーが楽しめなくなってしまうからだ。
そう思った私は少しだけ移動してハナの隣を歩くことにした。
…でも、それは間違いだった。
あまりにも多い人混みに小さい私たちは簡単に流されてしまった。そのせいで私はハナを見失いひとりぼっちになってしまう。
そうなると私はさっきまで気にしないようにしていた周りの目に反応してしまう。
その色は疑問や妬み、嫉妬、野心、そのほとんどが暗い色だった。
そんな私はあまりにも恐怖で思わずその場から逃げ出してしまった。
「はぁ、はぁ。…う、どうして私はこんな力があるの。きっと今頃ハナにたくさん心配をかけている。もっと私が、強ければみんなに…みんなに迷惑を…」
私は木の木陰まで走った後いろんなものが込み上げてきて泣いてしまった。
私の中で貯めていた弱音が溢れて止まらない。この世界に対する恨みや家族に対する申し訳なさいろんなものが出てきてやまない。
「大丈夫?何かあったの?」
そんな私をあの一人の少女。クラメル・エレクトロは心配してくれた。
私の視界は涙でいっぱいで彼女の顔はよく見えない。ーただ、初めて家族以外に言われた『大丈夫?』に甘えるように私は溢れる悩みを話してしまった。
***
話を終えてまだ涙は止まらないがそれでも少し私は冷静になる。
ー私は今、自分の秘密を話してしまった。
この話を昔屋敷でやった時屋敷の人のほとんどが恐れの色を示したり私を避けるようになってしまった。
それを思い出した私は目の前の人が恐れるのか、逃げるのか、何をするかわからず怖くなってしまう?次、何を言われるのかと…
……しかし、次に彼女が話したのは拒絶でも、恐れでもなかった。
「なるほど、確かにそれは大変だね。…でも考えてみて。私たちは人間、常に変化していっている。そこに永遠なんてない。」
彼女は突然わけのわからないことを言い出した。それが何か理解できないがそれは間違えなく拒絶でもなく、恐れでもない別の感情だ。
すると、彼女は私の頭を撫でる。その手は今まで感じたもののない温かみを感じる。
私の視界が明るくなり彼女と目が合う。
「いい?人の感情はね、一時的なものなのよ。あなたが変わればそれも変わる。大事なのは自分がどう見られているのかじゃなくて、自分がどう見られたいかでしょう。きっと貴方が笑えば、優しくなれば、明るくなれば、みんなの心も明るくなるわ。」
「こう考えればいいのよ。周りの暗い色を私が明るくしてしまおう。ってね」
彼女は明るく私に微笑む。その瞳は優しさに溢れている。私の瞳は彼女の色を写す。そのどこまでも澄んだこの色はどこまでも慈愛に満ち、どこまでも悲しみに溢れていた。
「うん。もう大丈夫そうだね。そろそろ私はこの辺で…」
「まって!」
「うん?」
彼女がそういってこの場をさろうとした時、私は思わず叫んでしまった。ここで繋がりを持たないと何故か後悔する気がしたから。
「な…名前を教えてください」
「ふふ、いいわよ。私はクラメル、クラメル・エレクトロ。貴方の名前は?」
「私は、サルネ・テンサンス。ありがとうクラメル」
そう私がお礼を言うと彼女はまた私に微笑見かけてくれた。そして彼女は私に手を振ってそこから去っていくのであった。
「あっ、サルネ様ー。」
後ろからハナの声がした。私は笑顔で彼女をみて手を振る。心配してくれている彼女に感謝を伝えるたえるためにも
「…サルネ様?何かありました?」
「いいえ、何もなかったわ。さぁ、行きましょう」
「えっ、サルネ様大丈夫なんですか?」
「ええ、きっともう大丈夫だわ」
彼女の言葉の通り私は周りの心を明るくできるようにしてみることにした。すると、前まで嫉妬や妬みだった感情はやがて畏怖や好意の明るい色になっていった。
感情は変わる。私が変わればみんな明るくなる。ーあれは嘘じゃなかった。
そうして私はそのうち、彼女に憧れへを持つようになった。そしてより自分を磨くようになった。いづれ彼女に恩返しするために。
***
「今日は入学式ね」
「はい、お嬢様。大丈夫ですか?」
「ええ、今からとても楽しみだわ」
あれから10年経ち私は令嬢学園の高校部に通うことになった。そこには四大貴族も普通に通うようなのでもしかしたらまた会えるかも、と私はワクワクしていた。その日の天気は昨日と打って変わりとても晴れていた。
ーガラガラー
扉を開けて周りを見る。いろんな人が私に好奇心や畏怖の色を出している。それを気にしつつ私はようやく見つける。
「あっいた。」
私は思わず声が出てしまう。それもそのはず、そこにはずっと夢で見ていた彼女がいたのだから。
私はすぐに声をかけようとした。しかし、私はよくマオから言われることを思い出す。
私は四大貴族の一人、簡単に近づいたら変な噂になる可能性がある。ここまできて彼女に迷惑をかけたいとは思わない。
ーだから私は初めて会うように挨拶をすることにした。きっと10年前の少女の記憶なんてわからないだろう。だから一から彼女と友達になりたい。
そう思って私は彼女に声をかけた。
「ご機嫌ようクラメル様。わたくしサルネ・テンサンスと申します。以後お見知り置きを」
「あら、ご機嫌よう。よろしくお願いしますわねサルネさん」
そう挨拶をすると彼女は私に笑みを浮かべてくれた。その笑みは昔と何も変わらない笑みだった。だから、お話をしましょうと言おうと思っていた。
しかし、私はその先の言葉が出てこなかった。私の瞳はあの時のように彼女の色を写す。だが、その色はあの時とは違う色のない無の感情だった。
あまりにおかしな感情に驚き彼女の顔を見つめ直す。すると私は彼女の笑みに大きな違和感を覚える。その正体はわからないが私は関わってはいけないとそう心が告げた。
…その後、私は再び彼女に話しかけることはできなかった。
***
あれから1ヶ月、私は何かしてあげたいと言う思いに駆られるもののいろんな観点からうまく関われないでいた。
このまま、私を変えてくれた彼女に何もできないままなのか、とそう思っていたあの日、また別の少女がやってきた。
「どうもみなさん、こんにちわ。グランヒル家のマリー・グランヒルです。どうぞよろしくお願いします。」
最初はいつもの転校生だと思った。明るいとは思ったが私はそこまで関心がなかった。
その後クラメルの隣の席になっていて私はクラメルを見て怯えるようになってしまう未来が見え、それでクラメルがまた悪くなってしまうというところに少し悪感情が生まれてしまった。
(また何もしてあげられない)
私は先の展開がなんとなくわかるのに何もできない罪悪感が出て悲しくなっていた。
見ると彼女は隣のメリーさんと話している。メリーさんは私にすごい好意の色を出しながら、クラメルには他の人よりも大きい恐怖を抱いていた子だった。
このまま二人は友達になりそうだ、そう思い少なくともクラメルが何かされるのとはなさそうだ。と思っていた。
ーしかし、次の瞬間私は思いがけない展開を目にした。
「ねぇ、クラメル様お話ししましょ」
彼女はクラメルに話しかけたのだ。その時私は彼女の色を見た。その色は明るく、優しく綺麗な色だった。そして…
「間違えない、あの子ならきっと救えるわ」
彼女からは人に与えれるほどの濃い愛の色を感じとったのだった。そしてそれは私がどうしても与えられないものだった。
***
その後私は機会を見つけてマリーさんと仲良くなることにした。
その後の体育で運良く彼女たちとチームを組むことができ、友人関係になることができた。
マリーさんはもちろんのことメリーさんもとてもいい人だった。私は私の望みのために彼女たちを利用することに罪悪感を覚えたが彼女に恩を返すためにはこれしかないのだ。
私はマリーさんに頼み事をするためにお茶会に呼ぼうと思った。なので二人がお茶会の話をしている時、それはとても都合が良かった。
****
お茶会当日、お茶会自体はとても楽しく、もっとやっていたいと思っていた。
だからこそ、騙していることに対しての申し訳なさが多かった。
勉強会を受けたのもそう言う罪滅ぼしと楽しそうと思ったからだ。
そして、私はマリーさんを招き話を始めた。
結果として話し合いはうまくいき、彼女は私の願いを聞き入れてくれた。
受けてもらった時の彼女の優しさの色はとても暖かく私は少し泣いてしまった。
***
彼女を家に帰した後、私はマオやハナに怒られた。
「お嬢様、私だってお嬢様様の力になるんです…どうか、私も頼ってください」
「そうですサルネ様。私たちはいつでもサルネ様の味方なんであります」
しかし、マオやハナの怒りの中には大きな悲しみがあった。思えば私はこの悩みを二人に話していない。もしかしたら、私の悩みに二人は気づいていたのかもしれない。
私はやはり愛されているのを実感し、彼女らを見て微笑む。
「ごめんね二人とも。いつもありがとう」
私が謝り二人を見ると二人は私に泣きついてきた。どうやら本当に心配をかけていたらしい。
そんな二人の頭を撫でながら空を見る。
その空はいつものように綺麗だった。
***
私が、似ているといった時。彼女の瞳にはあり得ないものが写っていた。
人の感情の色はその気持ちが大きいほど色が濃くなる。
その時の彼女の色はいつもの明るい色でも不快の色でもない、
……その色はあまりにも濃い悲しみと恐怖を表していた。
次の更新予定
マリー・グランヒルは愛を教えたい kこう @kwkou
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