~ 始まりの章 ~


 それは少しずつ、人々が気づかない内に表れていた。

 既に月日は重なり、誰もが気づきの遅れに戸惑った。もっとも、電気保守の技師たちですら、日々天候を確認出来ていた訳ではない。

 屋外の作業では、簡易宇宙服の様な気密防護服が、汚染大気を完全に遮断し、文字通り、気候変化を肌で感じる事はなかった。

 人々の気付きの遅れは仕方なかった。


 発端は、屋外点検の技師が「あれ?」と不思議がった事からだ。

― ある電気保守技師 ―

「この10年の内に18回ほど好天に恵まれて発電機の総点検ができたよ。最初の内は3日も晴れて『ラッキー』と思ってたが、晴れる日が年ごとに増え続けて、流石に10日も青空を見た時は『どうしちまったんだ?』って、とても不安になったよ」


 変化に気づいた保守技師たちは、老齢の元技師に相談した。

すると

「晴れの日が10日以上も続く事など有りえない!」と、腰を抜かして上層部を起こす騒ぎにまでなった。


 屋外での保守作業では、太陽はいつも黄色い大気に隠され、生暖かく湿った強風が常に吹き荒れている事が、彼らにとって〝通常の天候〟だったからだ。


 1年から数年の内に数回ほど現れる晴れの日は、膨大な数の発電装置群を総点検できる好機だ。だが晴天は長くても数日で去り、完璧な全点検など夢の中の奇跡の様なものだった。

 人類が閉ざされたシェルターで忍び生きる様になった時から、それが常識であり、それが彼らの日常だ。


 生き残る世界各地のシェルターも気候異変を確認した。

 各々おのおののシェルターでも上層部が目覚める事態となり、数少ない気象研究者が蓄積されていた気象データーの分析を行った。 その結果、


〝氷期の到来〟 は、ほぼ間違いないとの結論が導き出された。


 僅かな数の人類がシェルターに逃れてより、1万5000年が過ぎた頃の事だ。






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