第6話 団結

 全員が食事を終えると、ここで野営をして寝るために交代でメンバーを決める。ちょうど六人だから二手に分かれるだろうと思っていたのだが、恭子ちゃんはもう横になっていびきをかきつつ寝ている。


「「「……」」」


 全員が白い目をしつつ無言で恭子ちゃんを見つめる。


「しゃ~ない! 2、3に分かれよう。うちと花鈴が最初に見張るわ」

「うん、そうだね」


 みんなも同意した。


「わかりました。お願いしますね」


 有森さんがそういうと二条さんと芹澤さんも納得して頷いていた。

 そしてあたしと佳那子ちゃん以外の三人は寝るはず……だった。しかし野営など初めてのことで寝付けないようだ。

 恭子ちゃんはなかなか豪胆である。


「いつものベッドと違う感触なので、眠りづらいですわね」


 二条さんが寝ているベッドを想像する。お嬢様なのでクィーンサイズでしかも天蓋付きのふかふかベッドで寝ていそうだ。そんな日常を過ごしている二条さんには、直に地面にごろ寝はきついかもしれない。


「そうですね。……まさか野営をする羽目になるとは夢にも思いませんでした」


 芹澤さんも同じ意見のようだ。少し興奮しているのか現実世界よりは口数が多い。興奮して寝れないのかもしれない。

 現実世界より口数が多いと思ったが、あまり芹澤さんと接したことがないので本当の所は知らない。


「あ! じゃあさ。眠くなった人が寝たらいいんじゃない? 起きてる人たちはおしゃべりしながら監視すれば」

「いいですねそれ」


 あたしの意見に有森さんが賛成してくれた。


「最後に眠くなった人はババを引くことになるな。眠気と戦いながら起きていないといけない」


 佳那子ちゃんが楽しそうに言う。まるでゲームをするかのように。


「じゃあ、何か話題ある?」

「ああ、そういえば恭子さんが言っていたけど、わたくしのことも綾乃と呼んでほしいですわ。今までクラスではあまり接点がなかったかもしれませんが、今後はもっと仲良くなりたいですわ」

「あ! 私も真夕って呼ばれる方がいい」

「あ、ぼ、僕も梓って呼んでほしい」

「あたしも花鈴で!」

「うちも佳那子でいいで」


 団結した瞬間であった。青春だな~って感じる。約一名の青春を過ぎたのか謎なおっさん幼女を除いて……。


「じゃあ早速ですけど真夕さん。異世界知識で何か面白そうな情報ないですか?」


 綾乃ちゃんが提案した。確かにそれは面白そうな話題である。


「ちょっと待って下さいね」


 目を閉じて異世界知識のスキルと思われるものを発動している。集中しないといけないのか少し不便さを感じる。

 目を閉じたまま真夕ちゃんが答える。


「えっと……私達のアーマー部分のカラーリングを変えることが出来るみたいですね?」

「アーマー?この鎧のような装甲ですか?」

「そうです。頭の中でステータスウィンドウを開いて下さい。メニューの所を探すとカラーリングの変更という所があります」


 早速みんなでやってみることにした。あたしは目を閉じてステータスウィンドウを頭の中に浮かべた。

 確かにメニューにカラーリングの変更があった。何色にしようか迷う。色はかなりある。デジタルコードだと確か赤、青、緑がそれぞれ256色くらいあって、それを組み合わせるんだっけ? そのくらいありそうだ。

 だが名前がついている物もある。意識をその色に集中すると吹き出しにその名前が表示される。

 あたしは可愛いピンクにすることにした。チェリーブロッサムと書いてある。

 選択すると料理の時と同じように、決定とキャンセルを選ぶダイアログが出て来た。あたしは迷わず決定を押す。

 そして恐る恐るそっと目を開いてみる。腕や足の装甲に目を向けると、無骨なグレーから可愛らしいチェリーブロッサムになっている。

 他の皆を見てみる。

 佳那子ちゃんは燃えるような赤。綾乃ちゃんはラベンダー色。真夕ちゃんはコバルトブルー。梓ちゃんはパステルイエローだった。髪の毛の色も同じになっている。よくよく見たら瞳の色も。多分、あたしの瞳の色もチェリーブロッサムになっているのだろう。


「みんな違う色になったね」


 あたしが嬉しそうに言うと綾乃ちゃんが疑問を口にする。


「でもこれって敵から見たら目立ちますわね?」


 その言葉に真夕ちゃんがこの世界のことを補足説明する。


「いえいえ、敵は先ほどと同じように機械の敵ばかり。色で私達を判断しているのではなく熱源探知ですよ。だからカラーリングは関係なしに、私達の熱源でバレます」

「なるほどですわ」


 綾乃ちゃんが納得して、あたしを含めた他の二人もふむふむと頷く。

 そこへ佳那子ちゃんが次の雑談ネタを言い出した。


「そういえば、花鈴がドロップした設計図ってなんや?」

「花鈴さんだけがドロップしていましたわね?」


 真夕ちゃんがまた異世界知識にアクセスしている。その間にあたしは脳内ステータスウィンドウのメニューリストから、設計図の所を開いてみる。

 そこにもまたリストがあり、ほとんどの部分が空白となっている。ただ一つ、《片手剣》とだけ表示されている。

 そしてその片手剣の設計図を選択する。黒い画面に緑色の線で片手剣の図画が表示されている。そこにパズルのピースがはまったかのように、同じタイミングでドロップをした部品がはまっており、赤く表示されている。

 異世界知識にアクセスしていた真夕ちゃんが言葉を紡ぐ。その言葉を聞くためにあたしは脳内ステータスウィンドウを閉じた。


「設計図で武器や防具を作ることが出来ます。武器というよりは《兵器》というべきかもしれませんが……。武装ごとに設計図があり、それぞれの設計図に対して必要な部品があります。それを全部集めるとその設計図の装備品が使えるようになります。私たちの内部で作られて、完成するとアイテムボックスから取り出して使用することが出来ます」


 そこにあたしも自分で確認したことを補足する。


「あたしのは片手剣の設計図だったよ。それでメニュー画面から設計図を見ると、一緒にドロップした部品がはまってた。部品がまだ揃っていない所は赤く表示されてた」


 その話をすると更に真夕ちゃんが付け加える。


「兵器の強さによって設計図を完成させるために必要な部品の量が増えます。またドロップした時は『部品』としかわかりませんが、設計図を持っているとそれに必要な部品があればはめ込まれるようです」

「あ! あたしの片手剣はあと二つくらいだった!」

「剣と言うとシンプルな物だから部品数も少ないかもしれませんわね」


 梓ちゃんがおずおずと手を上げて質問する。


「あ、あの、設計図のドロップ率ってどのくらいとか分かるんですか?」

「いえ、そこまではわかりません」


 残念なことに分からないようだ。そこへ綾乃ちゃんが割り込む。


「私達六人でドロップしたものを考えますと、レーションと部品はドロップ率がいいように思えますわね。まあ部品に関してはその時点で使えるかどうか分からない部品もドロップするので、ドロップ率がいいと言えるかは分かりませんですわね」


 言われて見ればその通りかもしれない。まあ、確率なんてものはあってないようなものでもある気がする。だって当たる時は当たるけど、当たらない時は当たらない。これを人に言うと『花鈴はリアルラックが高いやろうが!』と誰かから突っ込みが入りそうなのでお口はチャック。


 そしてお眠になった人が眠り始めて、とうとう当初の見張りの予定であった、あたしと佳那子ちゃんになった。

 あたしは夜空を見上げる。


「星は綺麗だし、夜風も気持ちいいよね。とても異世界とは思えないよ~」

「そやな。この平和が続けばいいんやけどな……」

「あ~、うん、まあそうだけど……それだと美味しいレーションが食べれなくなっちゃうしな~?」


 あたしは腕を組み、うんうんと悩む。佳那子ちゃんはその様子をみて、ぷっと吹き出す。


「花鈴は食いしん坊だな」


 あたしは思わず頭を手で掻き照れる。


「えへへ~」

「いや、褒めたわけではないんやけど……」


 がっくりとうな垂れるが、すぐに気持ちを切り替える。こぶしを握り熱く語る。


「大丈夫! 敵が現われてもあたしが佳那子ちゃんを守るから!」

「いやいやいや、逆やろ? うちが花鈴を守る羽目になると思うんやけど」


 二人で顔を合わせて笑う。

 笑い声に反応したのか、恭子ちゃんが叫んだ。


「おまえら、うっさいぞ!」


 あたしたちはびっくりした。慌てて二人で恭子ちゃんの方に視線を向ける。だがムニャムニャと寝ている。どうやら寝言らしい。今度は声を出すのを我慢しつつ二人で笑った。

 しばらくすると、綾乃ちゃんが起きてきた。随分早いお目覚めだ。佳那子ちゃんが問いかける。


「あれ? 綾乃もう起きたんや?」

「ええ……寝心地が悪くてあまり眠れませんわ。見張りを交代しますから二人は寝て下さい」

「いいの? 一人で大丈夫?」

「見張りくらい、わたくしには簡単なことですわ」


 胸を張って誇らしげに言う。まあ簡単なお仕事ではあるが。


「それじゃあ遠慮なく寝るね~。おやすみ~」

「ほな、よろしく」

「ええ、おやすみなさい」

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