第2話 幼馴染の遊び相手

 ごめんなさいねぇ~、まだ開店準備終わってないんですよぉ。うちのパン屋の営業時間は……あら!


 まあ、ほんとに来てくれたのぉ~!? 入って入って!


 まぁ、十数年ぶりなのにあいっかわらず細っこいんだから! ちゃんともの食べてるの?!

 かつてはみんなのおまめ扱いだったのに背は私を越えたのね、生意気ぃ。

 ……でも笑顔は変わんないわね。


 わぁ、あなたが書いた本、ほんとに持ってきてくれたのぉ? 娘が喜ぶわぁ。

 座って座って、お茶でも出そうか?

 ああ、本ほん。どこに置いとこう。

 あ、待っててくれるの? じゃ待ってて。えっと、ポットポット……。


 お待たせ~。お茶の用意できたわよ~。

 これ、うちの亭主。

 ほらあんた、こちらこの前言ってた幼馴染の。ほんとあのころ小さかったのよぉ? 今じゃ小説家なんですって。うちの子に本持ってきてくれたの。


 処女作なの? 「小さな王子と空飛ぶ船」ねえ。


 ……ほんとに立派になったのねぇ。

 いきなり学校に行くことになったって聞いたときにはびっくりしたけど、先生様になるとは思わなかったわぁ。

 うちの子に読んであげるわね、まだ文字読めないもんだから……。


 なにいってんの、「最初だから運がよかっただけ」なんて。うまくいかないときなんていつだってあるわよ。

 とにかくもっと食べなさいな。バケット持ってく? うちの店のバケット、人気あるのよ?


 旦那?

 奉公先で一緒だったんだけど、昔っからまじめな人で、手ぇ抜くなんてできない人だからどんどん上達して、だから一緒になったんだけどね、いやもう、なに言ってんだろ。


 あら、失礼ね! いくらなんでも私だってかなり変わったでしょお?! ちっちゃなころの毎日『怪盗紳士』ごっこやってた時とは雲泥の差でしょうにぃ!


 ねぇ、覚えてる? 紙の筒にぼろ布のマントでみんなで『怪盗紳士』ごっこしてたの。

 近所の人を『怪盗紳士』と間違えて、『アジトを突き止めて子分してもらうんだ~』ってみんなで後つけた。

 あれ、いまだに言われるのよぉ! 子供のかわいい勘違いじゃないのぉ!


 あ、そうだ。


 アンタ、『怪盗紳士』書きなさい。

 次の作品困ってるんでしょ? あんときのいろんなこといろいろ書きなさい。そしたらさ。


 うちの子にあのころのこと、話してやれるじゃん。

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