【犯人は渡辺】推理小説・ホトトギスの館

東西無駄無駄

第1話 集いし者達

夜の闇に包まれた首都高速道路を、一台の霊柩車が走る。

霊柩車は高速を降り、火葬場を通り過ぎて一軒の家の前に泊まる。

霊柩車とはまるでミスマッチな普通の家。


バタムッ


霊柩車の運転席の扉を開け出てきた、黒い背広に黒いズボン、つまり喪服に身を包んだ男は、背広のポケットから一枚の手紙を出した。

ハガキじゃない。スマブラ参戦の時の手紙のような、漫画でよく見る形の手紙だ。


運転手は音もなく歩き、手紙を家のポストに入れた。


運転手は再び音もなく歩き、霊柩車に乗りどこかへ行ってしまった。


ブロロロロ…

住宅街を包み込む痛いほどの静寂を切り裂くようにエンジンの音がコダマする。



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瑞希「え!うっそ!やったー!」


某月某日、今井瑞希は上機嫌だった。

応募していた高級ディナーの招待状が届いたのだ。


瑞希「やっぱりやってみるものよね。抽選枠は1人なのにまさか当たるなんて〜〜!高級料理がおかわりまで無料だなんて夢みたい!」


24歳独身、コネもなく美貌もないパート勤務の瑞希にとって、高級料理をたらふく食べられるなんていうディナーへの参加は、またとない幸福であろう。


瑞希「えっと…明後日の9時にホトトギスの館で始める。遅刻は厳禁。おかわりは無料。アレルギーは事前に連絡。別の参加者も居る…。私にアレルギーなんてないし、遅刻もしないし大丈夫ね!…あ、でも、ホトトギスの館は結構山奥ね…。レンタカー借りなくっちゃ」


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太郎「ふーん。謎解きツアーか…。面白そうじゃないか」


某日、38歳管理職の山下太郎は妻が渡したチケットをまじまじと眺めていた。

近所の人から妻が貰ってきたのだという。


太郎「でもこれ、『友人と一緒は禁止』って書いてあるぜ。1人で来いってことだ。じゃ、俺は行けないな」


太郎の妻「うぅん、私は良いの。あなたが行って。あなたは最近休日も出勤ばかりで休めてないでしょう?ちょっとくらい羽を伸ばしなさいよ」


太郎「しっかし、謎解きなんて余計に疲れそうだが…。わかった。俺行くよ。あとで譲って〜とか言うなよな」


太郎の妻「言わないわよっ!あと、優勝者には景品があるからね」


太郎「へぇ、良いねぇ燃えてきた」


太郎はその次の日の謎解きツアーに参加し、見事優勝を果たした。


太郎「結局、謎解きっていうか引っ掛けクイズだったな。でも景品は結構良いじゃないか。明日、ホトトギスの館ってとこで高級ディナー!妻め、これ知ってたな。帰りにアイスでも買って帰らないとな」




二朗「へ?俺っすか?」


某日、20歳学生の木下二朗はいきなり高級ディナーへ行くことが決まった。


二朗の先輩「あぁ、高級ディナーの参加券、高ぇ〜金出して買ったのに親父が病気で実家帰んなきゃいけなくてよ。行けなくなっちまったんだ」


二朗「え!?親父さん大丈夫ですか?…でも、俺ァディナーってガラじゃないっすよ。どっちかっつーと晩飯って感じっつ〜か…」


二朗の友人「オメーなぁ。高級料理がじゃんじゃんじゃかじゃか食べ放題!だぜ?遠慮するこたァ無ェって!なんなら俺が」


二朗の先輩「オメーはダメだ」


二朗の友人「なんでっすか〜〜ッ!!」


ギャハハハハ


二朗「ギャハハハハ!!わかりゃした!漢・木下!高級ディナーで食いまくって来るであります!」


二朗の先輩「おう、これチケットな。会場はちっと遠いけどオメーのカッケーバイクならビュン!って行ってすぐだぜ」


二朗は、チケットをしっかりと握り、先輩と友人にジュースを奢った。

しかし、不幸なことにそれのせいで二朗の持ち金は無くなってしまったのだった。




ディナーの日、誕生日に彼氏から招待状を貰った27歳の岸本由香子は、山道で迷っていた。


由香子「ウーーンここを左折かしら?いや、こっち?うわ!木の枝が引っ掻いた!ん?うわ!人!?」


木の枝に気を取られていた由香子は前に立っていた人に気づかず、人の目と鼻の先で急停車をした。


人「あのぅ、あなたはホトトギスの館に行く人ですか?」


由香子「うわー怖すぎ。怪我はなさそうですね、ごめんなさい。え?ホトトギスの館?あぁディナーのことね。そうですよ」


由香子は招待状を取り出して、人に見せた。


人「悪いですが、その招待状、売ってくれませんか?」


人は、持っていたアタッシュケースを開き、中の現金を見せた。


由香子「え!?良いんですか!?売ります!売りますよ!!」


由香子は招待状を渡り、アタッシュケースを受け取るとそそくさと急いで道を引き返した。

アタッシュケースの中の大金で招待状を買った人…渡辺吉影は、木々の中へと入っていった。


続く

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