読みバイトを脱出せよ〜埋もれずに読まれるために〜
雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐
読みバイトを脱出せよ〜埋もれずに、読まれるために〜
私はひたすら読んでいる。これは生きていくために必要な行為なのだ。政府が「文章を読まれた量に応じてお金を支給する」なんて馬鹿げた法律を作ったがために。なんでも、国民の読解力をあげるためとの理由だそうだ。もちろん、もとから売れっ子の小説家は苦労しない。しかし、私のような者は「読みバイト」をしなければならない。
「読みバイト」とは、文字通り「読むことを生業としているバイト」だ。「読みバイト」をすれば、最低限の賃金が払われる。そこそこしか売れていない小説家から。つまり、中堅作家の作品を読み、彼らを売れっ子への道を切り開くのが私の役割なのだ。ただ、中堅作家の本はテンプレばかりだ。「異世界に転生して、無双する」これがほとんどだ。ついでに、ハーレムを作るまでがワンセット。読んでいると同じ展開で飽きてくる。それでも、読まなければ稼げない。たとえ読んで目が痛くなり、文字を読むことが苦行になるとしても。私の周りに本が積み立てられているのは、読書が好きだからではない。「読みバイト」のためだ。個人的には法律制定前の本の方が好みだが、時間がそれを許さない。
私は常々、この法律はおかしいと思っていた。読まれるために書くのでは、作品に魂が込められていないからだ。しかし、世間はそれを受け入れている。たとえ、国民の9割が「読みバイト」をしなくては生きていけないほどに貧困で苦しんでいても。おそらく、「読みバイト」をするのが当たり前になっているのだろう。感覚が麻痺してしまったのだ。そもそも、文章を読めば、読解力が上がるという政府の方針が短絡的なのだ。他国と比べて読解力が落ちたから制定したはずなのにデータによると、この法律を制定してからさらに読解力が落ちたらしい。なんとも、皮肉な話だ。
私の両親は小説家だった。売れっ子ではなかった。しかし、彼らは幸福だったに違いない。読まれるだけがために書くという法律制定前に他界したのだから。私は彼らが命を削るように小説を書いていたのを忘れたことはない。本当なら、私も両親のようにありたかった。両親がいなくなってから、しばらくは遺産でやりくりできたが、それも尽き果て私は「読みバイト」をせざるを得なくなった。
この前、ある作家の講演会を聞いた。なんでも、「創作論を書けば儲けられます。需要が多いからです!」とのことだった。「読まれたい人の感情を煽ればいいのです」と。「段落の冒頭は一文字あける」「改行を適度にはさむ」など。なるほど、読まれて楽に稼ぎたい層をターゲットにすればいいのだ。これほど楽な方法はない。
そこで、「初心者のための創作論」という本を書いた。読者からは「これを読んでから売れっ子になりました!」という感想が寄せられた。そして、SNSでバズった。内容は「異世界に転生させて、ハーレムを作れば売れます」というありきたりな内容を羅列しただけなのに。それも、「読みバイト」をしながら分析して気づいたことだ。数日間、私の本は書店の創作論ランキングで上位を維持していた。この本がバズってから、追随するように似た内容の本が世に出回った。違う点があるとすれば、「タイトルとキャッチコピーが内容と乖離していると読まれません」と書かれていることだ。もしかしたら、こちらの方が実用的かもしれないが、私の創作論が読まれれば、それでいいのだ。
これなら私も売れっ子になれると思ったが、数週間後には「デタラメばかりだ」だとか「他人の受け売りだ」と批判され、結果的に読まれなくなってしまった。私の創作論が先駆けであるにも関わらず。私の作戦は見事に崩れ去った。これでは、「読みバイト」を続けるしかない。
なんとかして、売れっ子になれないか。そこで、私は思いついた。「読みバイト」から脱したい人をターゲットにした本を書けばいいのだ。私はタイトルを決めた。それは『読みバイトを脱出せよ〜埋もれずに、読まれるために〜』だ。そして、この本を閉じた瞬間、あなたも気づくだろう。そうだ、この本が『読みバイトを脱出せよ』そのものだったのだと。このまま読み続けるかはあなた次第だ。
読みバイトを脱出せよ〜埋もれずに読まれるために〜 雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐 @AmemiyaTooru1993
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