弱者へ贈る
灰槻
抑
事、此処に至るまで、自身の弱さと向き合う事から逃げ続けている人間を見て、僕は思う。
仕方のない事だと人々は言う。口々にその弱さを撫で、口当たりの良い慰めの言葉を用意し――しかし、決してそれを赦す事は無い。
弱い人間には、弱さに見合った権利しか与えられない。
其れを散々と見てきた。人々が口々に語る言葉は、その全てが欺瞞だった。誰もが其れから目を背けているように見えて――しかし、その誰もが其れを理解している。
だから、努力する。強い人間であろうとする努力を。技術を身に着け、コミュニケーションを重ね、人間社会で生きていけるだけの力を手に入れようとする。
けれどどうも、多くの人間は、そんなことを意識してはいないようで。
意識しなくとも出来るから、その過程などどうでもいいようで。
その事実に不満は無いけれど、無理解など欠片も無いけれど。
だからこそ、僕は思う。
其れが出来ない人間に、慰めの言葉を掛けるなど。
余りにも、残酷なのではないだろうかと。
何故か?
慰め。ああ、それは強い人間にとっては重要だ。
自分の弱さを認め、それに対して適切な努力を出来るのであれば。
自身の弱さを慰める誰かが居ることは、とても良い事だ。
けれど、弱者にとっては違う。
弱者は慰めによって弱さを認め、諦める。そう、諦めてしまうのだ。
其れから目を逸らし、まるで弱さなど初めから無かったかのように振る舞い始める。
信じがたいが、事実だ。彼らにとって弱さとは、克服不能な欠陥であるのだから。
根本的な強者には、それが分からない。だから慰め、立ち上がる事を促す。
結果的にその言葉が、相手を致命的な奈落へと突き落とす事も知らずに。
勝手に死ね、と言っているようなものだ。
直接言った方がまだ人道的だろうに、強者はそれを口にする事は無い。
事実として、それは勝手に死ねと言っているのだ。
慰めで立ち上がれない、弱い人間は要らないと言っているのだ。
全ての優しき強者に警告する。
弱者に必要なのはハードルの認識と、それを乗り越えることに対する報酬だ。
ハードルから逃げる心を叱り、ハードルを越えた未来で褒められる事こそが、弱者に必要なガイドライン。そこに慰めなど必要ない。
決して彼らの弱さを肯定してはならない。それは彼等を、諦めという甘美な罠へと誘導する。
全ての儚き弱者に警告する。
強者の言葉は須らく強者の常識の下で正しいものだ。
"力"も"常識"も持っていない、"強い行動"を知らない君には毒でしかない。
現実に逃げ場など無い。正面から向き合うしかない。
しかし、ここまで言っても。
弱者の君達は、「そんなことできない」と否定するだろう。
そう思ってしまうから、君達は弱者にカテゴライズされている。
旧くから普遍の事実だが。
"其れ"に正面から向き合おうとする、
その心こそが強さの正体だ。
君が、君自身の為に、強く生きられる事を祈る。
弱者へ贈る 灰槻 @nonsugertea
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