自分という名の星
一閃
第1話 愛なんて…
いつの頃からか結婚なんてあきらめてた。恋人が未来の話を口にする度に希望や期待より、哀しみに襲われた。自ら「さよなら」を伝えたり、嫌われるようなことをしてみたり…。今、振り返れば、自分で自分を
なぜ、恋人を信じられなかったのか。
なぜ、恋人に心を打ち明けなかったのか。
あの頃はそれすらも『愛』だと思いこんでいたんだ。
恋人の育って来た背景が見えると、自分がいかに淋しい存在なのかを目の当たりにした。 裕福な家庭、裕福ではなくとも家族が家族として居られる。幼い時分のあたたかい思い出がある。褒めてもらったり、叱られたり、そんなありきたりな事ですら自分には羨ましく思えた。
ひとつひとつを挙げてみても仕方ないが、自分が「独り」を実感した夜があった。
まだ小学校低学年だった。両親と自分と年子の弟との家族4人は父が勤めていた会社の狭い社宅にいた。川の字に布団を敷き寝ていた。夜中に目がさめると、誰も居なかった。豆球の黄色い灯りがついていた。両親の布団も弟の布団もたたまれている。何があったかも想像もできなかった。誰も居ない黄色い灯りの部屋には自分だけ。『怖い』とも思わなかったし、不安もなかった。ただ呆然とするしかなかったが、涙がこぼれた瞬間『捨てられた』と感じ、すすり泣きは子どもらしい号泣に変わった。泣き声に気がついた隣人のおばさんが来てくれた。
「お父さんお腹が痛くなってね、救急車で病院に行ったのよ」と教えてくれた。
「なんで、弟を連れて行って、自分が置いていかれたのか」と訊くことすらもできない程、『絶望』した。その夜は隣人の娘さんの横で寝た。父は重症な腹膜炎だった。
後に「なんで自分を置いて行ったのか」と母に訊くと「2人を連れて救急車には乗れなかったし、ぐっすりと寝てたから起きないと思ったのよ」と笑って言った。
母は病弱だった自分より弟を溺愛していた。弟が学校を休むと母は仕事を休みお米からお粥を作った。自分が学校を休むと、母は仕事に行き、昼には近くの店から店屋物が届いた。店屋物が食べられるくらいなら登校して給食を食べる方がいいにきまってるのに。これも後に「自分もお粥食べたい」と言ってみたら「あんた、お粥嫌いじゃない」と言っていたが、自分は母が作ったお粥を食べたことがない。だから、「嫌い」なんて言ったこともなかった。
弟を溺愛した母と子育てには無関心な父…真っ直ぐな心を持った子どもになんか育つわけもない。
自分は、自分のおこずかいで小さなケーキを買ったクリスマスを忘れない。
結婚を考える恋もあった。
恋人の家族にも会い、良くしてもらった。だけど、自分は恋人を家族に紹介できずにいた。いや、紹介したくなかったし、家族を見られたくなかった。恋人も自分の育成歴を知っていた。それでも自分を大切にしてくれた。そんな恋人も結婚には二の足を踏んでいた。自分の育成歴を知ったらご両親は反対するだろうとわかっていたからだ。しかも病弱だった自分は子どもを授かるかどうかも危うかった。
ご両親を説得することもできず、かと言って反対されても自分と居ることを決心することもできずにいた。『自分と居ても幸せにはならない』と思ってしまった。なんやかんやあった末の恋人の最後の言葉は「男女の友情だってなりたつ」だった。
別れてからも男女の友情で続いていると思いこんでいた元恋人は違う人と結婚式を挙げ自分を招待した。結婚してからも人づてに自分を心配してると聞いたり、季節の贈り物が届けられたり、一方的な友情ごっこが数年続いた。「いい加減にやめてほしい」と自分から終止符を打った。元恋人の優しさでも友情でもない「自分と居ないことを選び幸せですよ」アピールにしか見えなかった。心が苦しかった。そこには友情なんてなかった。
今振り返ってもその思いは変わらない。本当に自分を想ってくれるなら…放っておいて欲しかった。自分も元恋人を想う夜はあったが誰にも言わなかったし、独り抱えていた。なんで…思い出にすらさせてくれないのか、なんで…忘れさせようとしないのか…。それは愛でも友情でもない。『執着』にも似た偏愛だ。
だけど、1度人の体温を知ってしまうと、独りで朝を待つのが怖くて、あの一瞬の温もりを
きっと…明日が楽しみになるのが愛なのかな…なんて思ったりもした。
『愛』と言う言葉に囚われ、こうあるべきとか考えすぎず、愛なんて…気がついたら明日が楽しみになっていた。また会いたいと思った。一緒に笑って、一緒に泣きたいと思っていた。ずっと隣を歩きたいと思った。それぞれがそれぞれの想いや実感や体感で感じれば良いんだと思う。
こんな事をグダグダ言う自分も…いつかは…なんて少しは期待してもいいかな。
『それも愛だろ』と自分に言ってみた。
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