第5話 犯人風間忠雄②
「いえ、私は犯人ではありません。」
しばらくの沈黙の後、私は社長の鋭い目を正面から見据えて言った。
「当時は私も警察の事情聴取を何度も受けてはいましたが…木下の部屋から物証である凶器の包丁と靴が見つかった事によって、警察も木下が犯人だと断定したではないですか? お忘れですか社長?」
「もちろん覚えておるよ。私も何回も警察に事情を聴かれていたからな。」
そう言うと社長は後ろのソファーにドサッと音をたてて体を預け、深いため息を吐いた。
「しかし何で今更…30年も昔の事件の事を聞かれるのですか? それも私が犯人だなんて妄言を…。」
社長は目を閉じてしばらく沈黙の後、口を開いた。
「実は昨日から当社に、苦情電話が何件もかかってきていてな、役員の風間忠雄は加藤一家三人殺人事件の真犯人だ! そんな殺人犯をお前の会社は雇い続けているのか!という電話が何件もな。」
そんな電話が会社に…だからか、今朝の部内がいつもと違う雰囲気だったのは。
あの部下の疑うような、こちらを窺うような目は…そういう理由だったのか。
「だけどどうしていきなり…私が犯人だと決めつけるような苦情電話があったのでしょうか?」
そう問いかけた俺に社長は机の上に置いてあるノートパソコンを開き、あらかじめ用意していたであろう画面をこちらに向けた。
「このサイトにお前が犯人だという書き込みがあったみたいだ。そこから調べてうちのホームページにたどり着いたみたいだな。」
そのサイトにはヴェルギーナの門と書かれたホームページに高階位者カナメと名乗る頭のおかしい奴があの事件について、俺を犯人だと断定して罰を与えると書いてあった。
「な、何ですか…これは一体。こんな虚言のせいで…私が犯人扱いされているだなんて…。」
私は感情の怒りのままに、怒鳴り散らかし暴れてしまいたい衝動にかられたが、社長の前という事もあって何とか感情を抑え込んだ。
「こんな誹謗中傷は許されない…根も葉もない噂話を一方的に信じるだなんて。」
私は立ち上がってすぐに警察と相談したいから失礼しますと社長に告げて部屋を出ようとすると、背中から社長に声を掛けられる。
「風間…本当に、お前は殺していないのだな。」
「私は殺していません。」
そうハッキリと答えて急いで部屋を出た。
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ワシは目の前のヴェルギーナの門のサイトを閉じて、わが社のホームページを開いた。そこにある役員紹介の名前と写真があるのを確認して内線をかけた。
「もしもし、当社のホームページ担当は内藤さんだったかな。今すぐに我が社のホームページを閉鎖するように。それと役員名簿から風間を消しておいてくれ。ああ、そうだ今すぐだ。それと総務の高橋くんにも風間くんの懲戒解雇の準備をしておいてくれと伝えておくように。」
ワシは受話器を音をたてて置き、1か月前から禁煙していたため封をしていた煙草を引き出しの奥から引っ張り出した。
妻と海外旅行に行ったときに買ったお気に入りのライターで煙草に火をつけ、大きく吸い込んで久しぶりに肺を煙で満たした。
「ふぅーーーーーーー。」
目の前が真っ白で見えなくなってしまうぐらいの灰を吐き出して思案に暮れる。
しばらくビルの合間から差し込む朝日を全身に浴びながら思案し…つぶやいた。
「……クロだな。」
あの忌々しい事件の時のように、またこの会社が世間の喧騒に呑まれ慌ただしくなることを危惧して苦々しく思った。
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