第24話
離れに閉じ込められたエスティラは唯一自由である足を使って立ち上がろうと奮闘していた。
足にドレスの裾がまとわりついて立ち上がろうとしてはつんのめり、なかなか立ち上がれずにいた。
あぁ、もうっ! どうせ誰も見てないわ!
ドレスをはしたなく脚で払うと脚が玄関の扉前に積み上がった家具にぶつかり、その拍子に積み上がっていた本が雪崩を起こして埃を立てる。
本当に物置状態ね。
ここは生前祖父母がよく過ごしていた場所だ。
二人が亡くなってからも父と母が管理をしていてエスティラとウォレストもよくこの場所で遊んでいた。
しかし今は人の手が入らず、老朽化が進み、母屋から運ばれた不用品置き場になっている。
玄関扉の前には動かすのが大変な衣装箱やクローゼット、机や椅子、本棚などが乱雑に置かれていた。
どれもこれも見覚えがあるその家具は父や母が愛用していたものもあるし、歴代当主が執務室で使っていたものもある。
家門の歴史が詰まった執務室にあった机は埃を被り、父や祖父が繋いできた大切なものが今のこの家にはないことを知らしめる。
切なくなった胸を押さえたくとも、手は後ろで縛られているし、口は布を噛ませられて頭の後ろで縛られて声も出せない。
酷すぎるのではないか。
公爵様に会わせるのがよっぽど不都合なのね。
そりゃそうだ。
何せ、エスティラがミシェルを助けたという大きな手柄を横取りするつもりなのだから。
あの公爵様のことはよく分からない。だけど、馬鹿じゃないだろうし、そう簡単に騙されたりしないはずだ。
怖いのは助けたのがエスティラでもリーナでも彼にとってどちらでも構わないこと。
真実は大して重要じゃない、面倒事は避けたいとミシェルが判断した場合、ロマーニオの思惑通りに事が運んでしまうだろう。
そんなの絶対に許せない―――!
そう叫びたいのに布が邪魔で『ふご―――!』と呻くような声しか出せない。
こんなに腹立たしいのに声を出すこともできないとは。
エスティラは悔しくて目頭に涙を浮かべた。
しかしここで悲しんでいても良いことはない。
どうにか公爵様に会わないと。
とにかくここを出なければ始まらない。
エスティラは何とか立ち上がり、脱出できそうな場所を探すが両手を縛られている状態では何もできない。しかし障害となるのは手の縄だけじゃない。
何で窓が全部塞がれてるのよ⁉
窓が外側から板と釘で塞がれ、使用人の出入り口も塞がれていた。
道理で暗いと思ったわ。
明かりは板と板から零れる光だけ。
窓が塞がっている以上、窓から脱出は出来ない。
とにかく、この手だけでもどうにかしないと。
エスティラは何か手を自由にできるものはないかと期待して二階へと続く階段を上る。
二階は一回よりも明るい。流石に二階の窓は塞がれていなかったが別の意味で酷かった。
家具や取っ手、手摺に積もった埃の厚さが違う。
蜘蛛の巣が我が物顔で家具から家具へと広げられ、灰色の布のようになっていた。
しかし、ふと扉の取っ手に埃が積もっていない部屋があった。
しかも少しだけ開いている。
爪先で扉を広げるように開けてその部屋の中に入ると、その他の部屋とは違い、綺麗に整えられていた。
壁に沿って並べられたガラス棚には高そうなグラスや花瓶、ガラス細工がいくつも飾られ、部屋の中央のケースには歴史を感じる金の皿やカップが並んでいる。
部屋の両端には鎧の兵士。しっかり武器も持っている。
そう言えばあの男、収集が好きだったわね。
流石に宝石なんかはなさそうだが、母屋に置き切れないコレクションをここに置いているのかもしれない。
嫌がらせに片っ端から壊してやろうかしら。
そしてピンときた。
気付けばエスティラはガラス棚の足元を思いっきり蹴り上げていた。
ガシャーンとガラスの割れる音が静かな離れに響き渡る。
ガラス棚の足元に大きな穴が開き、エスティラはそれに背を向け、手を切らないように鋭利なガラスに縄が触れるようにして手首に巻きついた縄を解こうと奮闘する。
『お嬢さん、お嬢さん、危ないよ』
突然聞こえてきた声に周りをキョロキョロと見渡す。
確かに声が聞こえたのに、誰も見当たらない。
『ここだよ、ここ』
視線を床に落とすとそこにいたのは丸々と太った鼠である。
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