第21話
「どうぞ、お掛けになって下さい」
客間に案内され、ミシェルは椅子に座るよう促される。
どうにも部屋の雰囲気が落ち着かないのは部屋と家具のデザインが合っていないからかもしれない。
部屋にはロマーニオとその妻、その娘のリーナしかいない。
エスティラがいないのだ。
遅れては部屋に入ってくる気配もなく、出されたティーセットも移動式のワゴンにもこの場にいる四人分しかない。
リーナの何かを期待するようなねっとりとした視線が鬱陶しく、ミシェルは本題に入る。
「この度はエスティラ嬢に命を救われた。とても感謝している。彼女にお礼を言いたいのだけど、彼女はどこに?」
「それに関してこちらも謝罪をしなければなりません」
「謝罪?」
ロマーニオの言葉を疑問に思い、ミシェルは聞き返す。
「ディブラード公爵様の危機をいち早く察知したのはエスティラではなく娘のリーナなのです」
聞き間違いかな?
ロマーニオに肩を抱かれたリーナは照れたようにミシェルを見つめた。
ゾワっと二の腕に鳥肌が立つ。
それを悟られないようミシェルは平生を装って問う。
「僕の恩人はエスティラ嬢ではなく君だと?」
「怪しげな者達の会話を聞いてしまい、すぐにミシェル様に知らせなければと父を探しました。父を見つけてそのことを話しているとエスティラが勝手に飛び出してあの騒ぎに……」
俯き、怖がるフリをしてリーナは言う。
「エスティラは我が儘で見立ちたがりな性格なので、自分がミシェル様を助けて恩を売ろうとしたのだと思います」
本当は私が助けたかった、とでも言いたそうな顔でリーナが言う。
我が儘で目立ちたがり…………ね。
自分のことは棚に上げてよくいう。
ミシェルは呆れて溜息をつく。
「それならあの場で君が見聞きしたことを証言してくれば良かったんじゃない? そうすればエスティラ嬢が容疑者になることも、君の父に頬を叩かれることもなかったのに」
冷たい視線をリーナに送る。
「そ……それは……」
「それは私も動揺しておりまして……突然のことでしたし、エスティラはあのように騒ぎを起こすのは初めてではないのです」
上手く答えられないリーナの代わりにロマーニオが答えた。
ここで自分が矛盾した発言をしていることに気付かないとは。
「リーナ嬢があなたに怪しい輩が僕を貶めようとしていると報告をした。それを聞いたエスティラ嬢が僕を助けるために飛び出して騒ぎになった……エスティラ嬢が騒ぎを起こした原因じゃない。それを知っているはずなのに、彼女を叩いた理由は何?」
ミシェルはロマーニオを睨みつける。
「それは…………」
口ごもるロマーニオを無視してミシェルはリーナに視線を向ける。
「君は不審者の会話を聞いたと言ったけど、それはいつ?」
「国王のご挨拶が終わった後です」
「場所は?」
「どこかの休憩室の前です。慌てていたのでどのお部屋かまでは思い出せませんが」
そこは口裏を合わせているらしい。
だけど、それは有り得ない。
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