第15話

「驚きました……まさか、アーニャが……聖獣自ら人間の治療をするとは……」


 青い髪の騎士が途切れ途切れに言う。


 え、そんなにびっくりすること?


「それだけじゃない。一人の人間にこんな沢山の聖獣が集まるなんて……。それも、彼らには既に契約した主がいる」


 確かに、改めて見ればエスティラ一人を竜、鷲、犬、兎が取り囲んでいる状態である。


 鬼でも退治しに行けそうだ。行かないけど。


「ご令嬢は聖獣士なのかな?」


 ミシェルの探るような視線を振り切るようにエスティラは首を横に振る。


「動物に好かれやすい質でして……」


 エスティラはミシェルから目を逸らしたまま答えた。

 視線も痛いのだが、あの美しい顔に見つめられていると思うと変に緊張してしまう。


「先ほどの件はどうなりましたか?」


 エスティラは話しを逸らしたくて話題を変える。

 というか、この場で真っ先にしなければならない話はそれだ。


「結論から言うと君の言う通り、僕のグラスにだけ毒が入っていた」


 その言葉に驚きつつも、安心する。


『だから言っただろ? 俺の鼻は確かなんだ』

「うん、流石だわ」


 エスティラはクルードルの頭を撫でる。

 何の躊躇いもなくクルードルを撫で回すエスティラに三人は目が点になっている。


 え、一体その驚きようは何なのよ。


「犯人は捜査中だけど、目星は付いている。あとは共犯者を炙り出すだけなんだけど」


 ミシェルの言葉にエスティラは息を読む。


「君が共犯者でない証拠はあるかな?」


 何だか不思議な問われ方だなとエスティラは思った。


「……ありませんが、私があなたに毒を盛る動機もありません」

「君は何故、僕のグラスに毒が入っていると分かったの?」


 ですよね。


 絶対に聞かれると思ってました。


「立ち聞きしました」


 エスティラは堂々と答える。


「どこで?」


 膝の上にいるロンバートに視線で訴える。


『客室だ』

「客室です」


「どこの?」


『よく覚えてない』

「すみません、慌てて正確に思い出せません」


「いつ聞いたの?」


『国王が長話したすぐ後だ』

「国王陛下のご挨拶が終わった後ぐらいでしょうか」


 エスティラはロンバートから聞いた言葉を補正してミシェルの質問に答えた。


「一人で抱えるには大きすぎる話でした。誰かに伝えなければと思いましたが、私の言葉を信じてくれる人はほぼいません。期待できるとすれば弟です。弟を探しに会場へ戻りましたが、見つからなかったので自分で行動に移しました」


 バレるわけにはいかない。しかし濡れ衣を着るわけにもいかない。


「なるほどね。ありがとう」

「へ?」


 あまりにも取り調べがあっさりしていたのでエスティラは拍子抜けする。


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