第8話
国王の挨拶が終わり、グラスを掲げて乾杯すると本格的に宴が始まった。
「あんたは行かなくて良いの?」
会場に着いてからずっと側からウォレストが離れないのだ。
ウォレストがいるからか、エスティラに直接的に嫌がらせをしてくる者はいないが、監視されているようで息が詰まる。
「仕方がないでしょう。あんたが家門の恥にならないように見張る必要がある。頼むから大人しくしててください」
そして実の姉を『あんた』呼ばわりだ。
「あんた、本当に可愛くなくなったわね」
心底迷惑そうに言う弟にエスティラは腹立たしさを覚える。
それと同時に自分と弟の間には大きな心の距離があるのだと思い知らせれ、エスティラは凹む。
「これからどうするつもり? あんたがどれだけ良い子を演じてもあの男はあんたに家の権利は渡さないわよ」
ウォレストは先日十八歳なり、この春から王宮へ文官就職が決まっている。
十八歳になった時点で成人とみなされ、成人になった時点でロマーニオが握っていた家門の実権も本来ならウォレストに戻る。
「強欲なあの男があんたに権利を返すはずない。あんたが力をつけるようなら殺すでしょうね。せいぜい、従順なフリをして自分の身を守りなさい」
エスティラがそう言うとウォレストは無言で眉を顰める。
「どこに行くんです?」
背中を向けて歩き出したエスティラの腕を掴んだウォレストは言う。
「お腹空いたの。食べれる時に食べておかないといつ食事ができるか分からないからね」
その言葉に驚いたように目を見開き、眉根を寄せる。
「なら、俺が適当に取ってきます。ここにいて下さい」
さっきから向けられる好奇の視線、声を潜めていても聞こえてくる『魔女』という言葉……。
当然エスティラへの誹謗中傷はウォレストにも聞こえているはずだ。
邸では散々、『子爵家の恥部を人前に出すなんて』と舞踏会への参加を反対していたからすぐに自分から離れると予想していた弟は自分から離れる気配がない。
これ以上一緒にいるのはこの子の為にならないわね。
「結構よ。毒でも入れられたらたまったもんじゃない」
エスティラは冷たくウォレストの言葉を跳ねのけて、豪華な料理を目指して歩き出した。
一瞬、ウォレストが傷付いたような表情を見せたがおそらく気のせいに違いない。
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