閑話 エリザベス様

 閣下が目を覚まされた。

 その知らせをエリザベス様に送りました。その直後エリザベス様から面会のご依頼があった私はほっと致しました。しかし……。


「閣下。本当にエリザベス様の面会を断ってしまってもよろしいのですか?」

 閣下は「ああ。すぐに断るように」とベッドボートに寄りかかるように座りました。


 私はマカレナに渡すためのメモを書きました。


「閣下。理由を伺うことを許していただけますか?」

 閣下はため息を吐いたのち「私が体裁を整えられるようになった後だ。彼女の面会を許すのは」と自身の手のひらを見ていらっしゃいます。


 呆れ、ため息が出そうになりました。


 閣下はふと「エリザベスはこの屋敷でどう過ごしていたのだ?」と尋ねられました。その眼差しからは熱が感じられる。

 私は「母に寄りますと、包帯を縫い続けていたようです」と己も確認した事実を述べました。


 閣下はなぜ?、と言いたげに目を大きく開きました。退出しました。エリザベス様の文官であるマカレナに閣下からの言伝を伝えました。踵を返しかけたマカレナは足を止め「お父様」と小声で私を呼び止めました。


 マカレナは「なぜ閣下はエリザベス様に面会を許可してくださらないのですか? まだ危険な状態なのでしょうか?」と探るような目つきでこちらを見ました。

「詮索するでない、マカレナ」と追い払いました。


 珍しくマカレナは追求せずエリザベス様の部屋へ向かいました。

 一人の男として閣下のお気持ちは分かります。女性の前で、恋慕を寄せる女性に情けない姿を見せたくはない。閣下は21歳の青年ですから尚更……。かつては私もそうでしたから。尤も私の時は危うくオデットを何度も怒らせた挙げ句、結婚できなくなる所でした。

 マカレナの後ろ姿に軽く目を向けました。過去に色々あったことを踏まえると、じゃじゃ馬のマカレナですら愛おしく見えます。

 

 ここ数日、何度かエリザベス様と顔を合わせていました。人とよく話す方で、とても親しみやすい印象を与える方です。不思議と懐に入れてしまいたくなる魅力をお持ちです。また人並外れた美貌を持っており、あと5年か10年経てば更に美しくなるでしょう。更に多くの言語を操るそうで、素晴らしい努力家だと考えております。しかし、領主の第一夫人として、いえそれどころか伯爵の第一夫人としては心もとない方です。閣下は彼女1人を妻にしたい、と望んでおられるそうですが、執務用にマカレナを第一夫人として入れた方が……。

 こちらの少し複雑な気持ちは知らず、エリザベス様はお辞儀をされました。閣下は頷きました。



 数日経過。閣下はようやくエリザベス様からの面会を許されました。ノック音と母上の声が響きました。


「エルサ様が到着いたしました」

「入りなさい」と閣下。


 ドアが開きました。エリザベス様が入室され静かにお辞儀なさいました。星のような微笑みが美しいです。


 閣下は「こちらに来なさい」と手招きなさいました。

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