夜の縁に立つ者たち

砂庭 ねる

#00 プロローグ

ミーン、ミーン、ミーン、ミーン。

高いけやきに囲まれた高校の図書室は、かまびすしい蝉の声に覆われていた。


時折ときおりが図書室へ行くというので、僕も何となくついて来たが、やることが無かった。時折の方を見ると、新刊図書の棚の前でしゃがみ込んでいた。


「ほれ、邪魔んなるから机の方に行こうぜ」

僕は時折を引っ張って行った。もうヤツは本の方に没頭して、されるがままになっていた。


「新しい本じゃんか」

「そう。俺が購入希望出して買ってもらった」

「なんて本?」

時折は僕に見えるように表紙を立て、もう読む方に戻っていた。


『縁界図録:秘匿された叡智の記録』

何のことだかわからないが、時折がこれだけはまり込んでいるのは、見ていて面白かった。


新しい本の印刷の匂いがふっと漂った。にしても、表装は古びた魔導書っぽくデザインしてある。時折のような神秘学オタクを喜ばせるためだろう。何かの紋章が刻印してあり、高価なそうだ。時折が自分では買えそうにはない。


・・・・・・ん? この紋章、確か・・・・・・。


僕は型押ししてある、円く囲まれた部分をじっと見た。それは、鳥をかたどっているようで、今、僕の目の前にいる伊佐時折いさときおりの実家、旅館・鷺影屋さぎかげやの紋とよく似ていた。


なぁ、その本さ、と時折に聞こうと思った時、多田くーん、ちょっと手伝ってくれる? と司書の先生に声を掛けられた。はーい、今行きます、と図書委員でもある僕は今日はカウンターの担当だったことを思い出し、急いでそっちへ回ったので、その魔導書の件はそれっきりになった。


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