第2話 ただただ避ける日々

エイラとなったことによって私の方針は変化せざるを得なかった。

魔法だけを気にしていては行けなくなった。


なにせ、レオン王子はエイラが優秀でも、バカでも興味を示してくる。

入試の段階で全体1位なら「凄いやつがいるな」。トップ10なら「子爵家の令嬢が頑張ったじゃないか」。最下位なら「これから頑張ればいい」、だ。優しすぎるけど、その優しさは今いらないのよ。


どうにかしてレオン王子の興味をひかない、適切な順位を入試の段階から取っていく必要がある。

それには運に任せてはいけない。

意図して微妙な成績を収めてやる。


私が取った方法は簡単だ。

入試会場で魔力を使って全員の得点を把握しつつ、ちょうど真ん中よりもちょっと下の点数を取るの。

そうすれば間違っても興味はひかないだろう。


私は最初の5分で試験を終え、あとはひたすら全体の探索を行い、半分以下の点数を予想し、その点数になるように調整する。

簡単よね。途中から回答をずらして書けば、その範囲は0点のはずだ。

それを全ての科目で行った。


なぜなら1科目でも優秀だったら王子が食いついてくるかもしれないから。

全てが平均やや下。誰にも興味を惹かない完ぺきなポジションね。


この学院には点数が悪いから不合格なんて制度はない。貴族は全員通う学校であり、何点でも入れてしまう。

そしてクラス分けにも使われない。本当にただただ試験するためだけの試験だった。


次の関門は入学初日ね。


私は少しだけ早起きして馬車で移動し、校門前で降りて学院に入る。

このゲームには意味が分からない仕様が3つある。


その1つが、この第一学年のクラス分けだ。

なにせロレイヌ様がよい点数の場合は成績順、よくない点数の場合はランダムだ。

そして必ずロレイヌ様とエイラは似たような成績を取る。つまりレオン王子、ロレイヌ様、エイラが同じクラスになるように最初から定められているのだ。

マジふざけんな。


そして今回私は単独で微妙な点数を取った。これなら調整はできないはずだ、なにせ、試験会場で探れたロレイヌ様の点数はほぼ満点。神様、私はレオン王子やロレイヌ様と同じクラスになりたくないの……。


さらに念のため、私は魔法で前日に教職員室に忍び込んでクラス分けの紙を書き換えた。これで完璧だ。なんで同じクラスにされてるのか分かんないけど、もういいでしょう?


なんて危ない橋まで渡ったのに、なぜか同じクラスだった。

どうしてよ!? 私書き換えたでしょ!!? なんで同じクラスなのよ!?


しかし何度見ても校門の前に張り出されたクラス分けの紙にしっかり書いてある。

最悪だ。


ここで馬車にでも轢かれて大ケガでもしたら留年させてもらえないかしら?


そんな現実逃避をしてしまいそうになるが、そんなわけにはいかなかった。


くそう、同じクラスか……。

そんな風に思考に気を取られた瞬間、つい油断してしまった。


やって来たのはとても豪華な馬車。これは間違いなくレオン王子の乗っているものだ。


私が冷静だったらただすっとよければ良いだけ、

なのに足がもつれる。


そんなにレオン王子と私を出会わせたいのかしら。

ふざけないでよ!?

この日のために修行してきた魔法を見せつけ……たら気を引いてしまうから、すぅっとそのまま自分の身体を浮遊魔法でスライドさせる。

そもそもあんな馬車に轢かれたら最悪死ぬじゃないのよ!!!


次に降りて来たレオン王子の凛々しさ、そして後続の馬車から降りて来たロレイヌ様の美しさに皆の視線が集まる中、私はそそくさと学院内に避難しようと走り出す。


「いたっ、お前!」

しかし、運悪く誰かとぶつかってしまった。


「てめぇ、待て! おい! そこの女!!! お……」

ぶつかった相手は大柄な男の子で同級生のようだった。ここで騒がれてしまったらレオン王子やロレイヌ様に気付かれてしまう。

そう思った私は瞬時に魔法を起動し、大柄な男の口をふさいだ。


「むごぅ、もご! ぐわぁ、もぐぅ!」

その男は手を振り回して怒っているが、いかんせん何も聞こえない。

彼の口から発せられたのは小さなささやきのような音だけだったので、レオン王子とロレイヌ様に贈られた歓声にかき消されて誰も気付かなかった。


そしてみんなが王子たちに気を取られている間にしれっと教室に入って確認したら、席順に目を疑った。


中央の列の前から順番に、ロレイヌ様、レオン王子様、私……。ちょっとぉぉおおお!!! 王子の後ろに不審者がいますよ! 誰ですかこんな席順を考えたのは!!!?


当然誰も答えてはくれないから、私はしれっと席順を変えておいた。


ロレイヌ様とレオン王子は隣通しで一番前。私は廊下側の列の前から3番目だ。ここが一番目立たないはず……。



さらに、食事の席を隣にされそうだったから、同じクラス内でそこそこ可愛らしくて真面目そうな子に変わってあげたら、とても喜ばれた。

レオン王子様大好きっ娘だったらしい、へ~よかったね。

涙を流して感謝されたから、そういうのいらないからって言っておいた。


ようやく今日という日が終わる。今日はある意味記念日だった。私の心にがっちりと刻むべき忌まわしい日。


土日祝日はしっかり休むとして、あと500日くらいこうやって耐えないといけないんだろうな。


しかし理不尽な話だった。

私は前世では寝たきりで、今生ではこうして悪役令嬢をやっている。神はどこだ?


なんとか3年間隠れないといけない。

しかしそんなにもつだろうか?


もしかしたらあの手この手で出会わせようとしてくるかもしれない。

なにせゲームだ。ある程度は想定されたルートを通るように仕向けられるだろう。


その全てを折らないといけない。

接近はダメ、接触なんて絶対ダメ。手が届く範囲に入ったが最後、どんな手段でレオン王子と触れ合ってしまうかわからない。


そしてたまに感じる視線。

巧妙に隠されているし、なぜか敵意なんかは感じないんだけど不気味よね。


それからはただただ避ける日々だった。

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