結婚を断罪される公爵令嬢は、もう放っておいてほしい
蒼井星空
第1話 悲惨な未来が待つ悪役令嬢になってしまった
光? 光が見えるわ。
暖かい。
なんだろう、このイメージは。
おかしいわね。私は死んだはず。この柔らかな光はきっとそんな私を迎えに来た天使様。そして私は次なる生を生きることになる。
そう思ったのに、どうも見覚えのある光景ばかりです……。
あの大きなお城、あっちの緑が美しい山、あの幻想的な2つの月……これは寝食だけはきっちりしたけどそれ以外の全てを費やしてやりこんだゲーム"リベンジロード "のはず。
これはもしやゲーム世界転生なの?
そう思ったらなぜか人の顔が見えてきた。あのキュートとは正反対の太った豚は国王陛下ね。その隣にいる昔は美しかった女性は王妃。そんな人たちが見えるってことは王族に転生するってこと?
いやよ。このゲームの王族はロクな人がいないのよ。
どうか主人公である凛々しくも儚い公爵令嬢ロレイヌ様になれますように。
決してロレイヌ様から王子を寝取るエイラじゃありませんように。
そこから私は突然加速して大地に落ちて行った。
途中で何か見えた気がしたけど判別はできなかった。
落ちた場所すら認識できなかったけど、身に宿った大きな力を感じる。
よくわからないけど、これはきっとロレイヌ様のはず。
彼女は王国で最も高い魔力量を誇り、えん罪で国外追放となったものの、持ち前の明るさで逆境を跳ね返し、最後は魔王を倒してしまう勇者なんだから!
どうか……
っていうか、普通こういう転生って、どこかで頭をぶつけたとか、何かの衝撃で思い出すものじゃないの?
転生前からばっちり覚えてるってどうなの?
とりあえず、誰に産まれたとしても魔力だけは絶対に高い方がいいから、生まれる前から鍛えておきましょう……。
そして私は生まれ、しばらくの月日が流れた。
私はすくすくと大きくなり、やがて全てを理解し……
悲嘆に暮れた。
「どうして……どうしてエイラなのよぉ!!!?」
「どっ、どうされたのですか、エイラ様!?」
「あっ、なんでもない。なんでもないわ」
改めて人生の悲哀を感じていたら、ついつい口から声が漏れていたようだ。
隣の部屋にいるはずのメイドがやってきてしまったので、慌てて誤魔化した。
しかし、どうしよう。
まさか転生したのがこのゲームの中で最も嫌われ、最も惨たらしい目に会う、見た目だけは美しい女・エイラだったなんて……。
天使様のバカ~!! あの時感じた暖かさは何だったのよぉ……。ぐすん。
酷い……酷いよ。
私が何をしたって言うのよ。
前世も病弱でずっとベッドの上だったし、今生は嫌われ女で略奪愛を成功させて敵であるロレイヌ様を追放するまではいいけど、そこからは理想的な転落人生。
最後はボロボロにされた状態で魔法の火に燃やされながら串刺しにされるなんて、嫌よ~~~~~~。
もう少し大きくなった。
私は10歳になるくらいまで悲嘆に暮れていたが、そろそろ現実を見なければならない。
あと5年したら王立学院に入る。
そこで王子様であるレオン様と出会ってしまい、ロレイヌ様から彼を奪ってしまう。
ロレイヌ様は婚約破棄され、国外追放になる。
レオン様と私は素晴らしい結婚式を挙げたあと、贅沢な暮らしをし、圧政、腐敗、増税のトリプルコンボを決めた頃に事態は大きく変わる。
世界には魔王が現れ、人々を恐怖に陥れる。
そんな時、隣国が勇者として持ち上げるのがロレイヌ様だ。
そう。彼女は神に認められし聖なる戦士だったの。
そんなロレイヌ様を追放した私たちはあっという間に貴族と民衆にクーデターを起こされて万事休す。
レオン様はサクッと処刑され、私は牢獄に閉じ込められてしまう。
そして魔王討伐の旅の中で我が国を訪れたロレイヌ様一行への余興として火にあぶられ、処刑されるの。
酷すぎない?
パーティーの余興でいかに恨みがあるとはいえ、美女を処刑って……。
さすがにロレイヌ様のお気には召さず、以降、ロレイヌ様はこの王国に寄り付かなくなるんだけど、当たり前じゃない!
ちなみに、このゲームではプレイヤーが乗り移ったロレイヌ様が様々な選択肢を選びながらストーリーを進めていきます。
信じられないくらいの時間をこのゲームに費やした私は、普通ならやらないようなプレイもたくさんしました。
あっ、エッチなやつじゃないわよ? わかってるわよね?
そう、例えばレオン王子がエイラに気付く前に既成事実を作るとか、エイラがわざとらしくレオン王子の馬車の前で転んだのを魔法で吹っ飛ばすとか、エイラに魔法を叩きつけて気絶させてイベントをスキップする、なんてこともできるの。
開発した人たちは頭がおかしいんじゃないかしら。
でも、なにをしても運命は変わらない。
どんなルートを選んだとしても、しれっとレオン王子はエイラを見つけ、ロレイヌ様に婚約破棄と国外追放を言い渡し、エイラを娶り、死ぬ。何百回とクリアした私が言うんだから間違いない。
逃げ道は存在しない。
でも、そうも言っていられない。
私はやり遂げないといけない。できなければ待っているのは死だ。
この世界が現実になったことによって新しい選択肢、そして未来が待っているかもしれない。
それを……いや、それだけを信じて生き抜かなければならない。さもないとただただ惨たらしく死ぬだけだ。
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