カサブランカ

@Johanna

第1話 出国

「鬼の子だ!」


広場にいた子供たちが走って私の方に来る。

鬼の子とは私のことだ。

黒髪黒目が多いこの国で、髪が白くて赤い瞳を持った私は忌み嫌われていた。

両親とも違うこの容姿から町の人はおろか両親からも疎まれていた。

町の子たちは大人の真似をしているにすぎないが、それでも不快に変わりない。


「女のくせに読書かよ!」


「文字読めるのか?」


この国では女は学ぶべきではないとされている。

だから私は寺子屋に行けなかったが、本を読んで独自に学んだ。そんな私を町の人々は眉をひそめ、子供たちはからかってくるのである。

私が何を言っても聞き入れないとわかっているので、何も言わずに立ち上がって無視して去ることにした。

いつもの流れだ。

ひどいと物を投げつけられることもあるから長居は禁物だ。

普通なら両親に訴えるという手段もあるが、うちの場合は言っても「そんなみすぼらしい姿を見せるからだ!家にいなさい」と言われて終わるから両親には相談しない。



 この国、東神国トウシンコクは現在、島国という立地を活かして国を閉ざして国交を絶っている。

十年前は町の港に海外からの船がたくさん来ていてにぎわっていた。

港の商人たちと話して読み書きや海外の基準を学んだ。

男女平等、命は等しいという教えは彼らから学んだ。

遠い北の国ではこの考えが一般的で男女ともに働いているという。

そんな国に行ってみたいと思っている。

計画は一応考えている。

国交を絶ったといえ密入して国に入ってくる者たちがいる。

彼らの船に乗り込んで秘密裏に国を出るつもりだ。

問題はタイミングだ。



 私は港で船の様子を見ていた。

主に夜のことなので家に帰るのが遅くなって怒られることもあったが、外に出るためだと懲りずに観察を続けていた。

パターンもわかってきたしそろそろ出国の時だ。

荷物を持って宵闇に紛れて家を出る。

無駄に広い家なので家族と鉢合わせることもない。この時間なら、うちの家族はそれぞれの部屋で過ごしている。

私は足音を忍ばせて港を目指す。



 港に着くと目星をつけていた船に近寄って人の目を盗んで乗り込む。

人目のつかない船の倉庫に身を縮めて隠れる。

程なくすると船が動き出した。

あとは船がどこかの国に着くのを待つだけだ。

待っている間に持ってきた食糧で腹を満たす。

倉庫は暗いし、どれだけの時間が経ったかわからないが、船が止まって人々が動く気配がした。ここからは強行突破だ!

私は素早く動いて倉庫から出た。

船員たちは驚いていたが、動転と私のすばしっこさから捕まえられずに私は海に飛び込むに至る。

私は泳いで陸を目指した。

海から上がるとずぶぬれで街の中を歩くにしても目立ってしまう。

そこでひとまず山の中に逃げ込むことにした。

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