第12話 旅立ち
リヒテルが
リヒテルは市役所の窓口に両親と共に訪れていた。
各書類はそれほど多くは無く、小一時間ほどで処理は終わった。
そしてリヒテルの手には、一通の手紙が握られていた。
〝
ついにリヒテルは、例外の切符を手に入れたのだ。
これで念願の
喜びが爆発し、今にも飛び出さんばかりだ。
さすがのリヒテルの行動が目に余ったのか、父親から注意を受けることとなった。
「リヒテル。その資格を得たから終わりじゃないんだ。お前はこれまでの遅れを取り戻すためにも、頑張らなくてはいけない事がたくさんあるんだから。浮かれてばかりはいられないぞ?」
「はい!!」
リヒテルのテンションはMAXまで上り詰めており、父親の話があまり頭に入っては来ていないようだった。
これには母親も諦めた表情を浮かべて、父親と目を合わせ大きなため息をついていたのだった。
それからリヒテルたちは次の目的地である
市役所ではあくまで職業認定の書類を作成したに過ぎないのだ。
いつも入っている入り口を改めて入るリヒテル。
その瞳には涙があふれていた。
いつもいつも眺めていた憧れのカウンター。
いつもならすぐに左手に曲がり、酒場兼食堂の事務所へと向かっていた。
その度に、憧れを抱き、自身の
しかし今は違う。
リヒテルはその足を一歩踏み出した。
「あれ?リヒテルさん?今日はこっちに用事なんですね?」
リヒテルに声をかけたのは、ここの受付担当を取り仕切る主任責任者のキャロル・幸田だった。
「キャロルさんこんにちは。そうですね、今日はこっちに用事できました。」
そう言うとリヒテルは、カウンターに一枚の用紙を差し出した。
その用紙をまじまじと眺めると、キャロルは涙していた。
キャロルもまた、リヒテルがこのために努力を重ねていた事を知っていたからだ。
「リヒテルさん……おめでとうございます。そしてようこそ
涙を讃えた瞳と、満面の笑顔でリヒテルを向かい入れるキャロル。
リヒテルもまたつられて涙を流していた。
その様子を見ていた両親は、リヒテルがいかに愛されているのか改めて感じ取っていたのだった。
「そうだリヒテルさん。
そう言うと慌てて席を立ったキャロルは、一目散に事務室へ入っていた。
中からガタガタドカンと激しい音が聞こえてきたこともあり、どれだけ慌てているかが伺い知れた。
しばらくすると、一人の青年が事務室から顔を出してきた。
リヒテルも見知っている人物……そう、マルコだ。
「おめでとうリヒテル君!!」
マルコもまた、リヒテルを応援していた一人だ。
リヒテルの
しかし、リヒテルが別の方法で
それでもなお、リヒテルが夢を叶えた事がとても嬉しかった様だ。
「ありがとうございますマルコさん。やっとスタートに立てました。」
そう言うとリヒテルは、マルコに向かって深々と頭を下げていたのだった。
マルコはそんなリヒテルの手を取り、改めて挨拶を行った。
「ようこそリヒテル君。私がこの
そしてマルコはリヒテルの手を放すと、リヒテルの両親に向き直り改めて頭を下げていた。
「蒔苗さん。改めてリヒテル君をお預かりします。蒔苗さんにはいつもお世話になっていますから分かっているとは思いますが……大成するかしないかはリヒテル君次第です。ですが、我々も彼のサポートを万全に行ってまいります。ですので、今一度リヒテル君を信じてあげてください。」
「
リヒテルの父親はマルコに視線を合わせると、強くその手を握りしめた。
マルコもそれに応えるように強く握り返した。
リヒテルはその様子に、いかに自分が周りに愛されているのかを再認識していたのだった。
一通り挨拶を終えた両親は、リヒテルを
それを見送ったリヒテルとマルコは、改めて挨拶を交わす。
「リヒテル君。改めておめでとう。そしていらっしゃい。」
「マルコさん、よろしくお願いします。」
リヒテルはマルコに軽く会釈をすると、その頭をマルコはぐりぐりと撫でまわした。
照れ隠しともとれる行動にリヒテルは少しだけ嬉しく思っていた。
「それじゃあまずは訓練場に行こうか。リヒテル君の実力を知りたいからね。」
「はい!!」
マルコからの提案に、リヒテルは期待で胸いっぱいだった。
今から行く場所は、
スキルを試すために建てられた施設で、至る所から激しい音が聞こえてくる。
マルコに案内されて向かった先には、一つの闘技場のような場所だった。
石造りの闘技場で、周囲には何か光の壁の様な物が設置されていた。
「驚いたかい?ここは昇格試験専用の闘技場だよ。新人のチェックから、ベテランの昇格試験まですべてここで行われるんだ。」
「……」
リヒテルは既に気おされていた。
闘技場から流れ出る闘気に、足を進める事が出来ないでいるのだ。
「おや?なんだか嬉しそうだね。」
マルコはその闘気の持ち主が分かっているようで、少しだけ微笑んでいるが、どこか困惑した色も見受けられた。
そんなマルコを見る事すら出来ずに、リヒテルは空気に飲まれていったのだった。
何とか中に入ると、闘技場の中央で一人の男性が待ち構えていた。
年は30を過ぎたくらいで、見た目はリヒテルの父親とあまり変わらない感じだ。
強いて言えば、その背中には大きな大剣を背負っているという事だろうか。
体つきは筋骨隆々。
身長もそれほど高いわけではない。
だが、そこから溢れ出る闘気のせいもあり、リヒテルには何倍にも大きく膨らんで見えていた。
リヒテルの足は一歩踏み出すごとに震えを増していく。
緊張からなのか……恐怖からなのか……
その様子にその男性は一つため息をついていた。
「
「そうだね。」
もう一度男性はリヒテルを睨み付けると、興味を失ったかのようにマルコに向き直っていた。
「これくらいでヘタレるようだったら見込みないぞ?」
「ん?なら大丈夫。リヒテル君、彼が君の試験官だ。君はいったいこれまで何のために努力してきたんだい?」
マルコの言葉がリヒテルに刺さる。
リヒテルの魂に火が灯った瞬間だった。
パチパチと爆ぜるに様に強くなるリヒテルの闘気に、その男性はニヤリと笑みを浮かべていた。
「
そう言うと男性はおもむろに背にした大剣を抜き、構えもせず切っ先をリヒテルに向けた。
「俺はガルラ・グリゴール。さあ、試験を始めるぞ!!」
ガルラがそう宣言すると、その闘気はさらに厚みを増して大きな壁に変わっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます