からし

その鏡は何を映す?

ある静かな町の片隅に、古びたアパートがあった。

外壁は剥がれ、ドアの塗装は色あせ、まるで長い間放置されているかのようだった。住人はまばらで、特に一階の奥の部屋は誰も近寄らない場所となっていた。

その部屋には、かつて若い女性が住んでいたという噂があったが、彼女がどうなったのかは誰も知らない。


そのアパートに引っ越してきたのは、大学生のユウだった。

彼は新しい生活に胸を躍らせていたが、どうしても引っかかるものがあった。

例の部屋の、薄暗い雰囲気。

何かが潜んでいるのではないかという不安が、彼の心を締めつけた。


ある日、ユウは、ふとその部屋の前を通りかかった。

ドアはわずかに開いていて、中からかすかな音が聞こえてきた。

まるで誰かが何かをしているような、不気味な音だった。


「ちょっと見てみよう」

ユウの身体は躊躇していたが、好奇心に勝てず、ユウは中に入ることにした。

部屋の中は薄暗く、埃が積もっていた。

家具は古びており、まるで時が止まったかのようだった。

しかし、一番目を引いたのは、部屋の中央に置かれた大きな鏡だった。


その鏡は、ユウが今まで見た中で最も不気味なもので、周囲には黒い模様が描かれていた。まるで、何かがその鏡に封じ込められているかのようだった。

ユウは思わずその鏡に近づき、自分の姿を映した。


「うーん、特に変わったところはないけど…」

しばらく考えた後、首を傾げた。

映った自分の姿が異様に見えた。

鏡の中の彼は、どこか冷たく、暗い目をしていたからだ。


「なんか…嫌な感じがする。早く出よう」

そそくさと部屋を後にした。

しかし、ユウの心には不安が残った。

彼はその日以来、何度もその鏡が頭から離れなかった。


ある夜、ユウは夢を見た。夢の中で彼は、あの鏡の前に立っていた。

周囲は真っ暗で、ただ鏡だけが光を放っていた。

鏡の中には、彼の姿の他に、誰かの顔が映っていた。それは見覚えのない、しかしどこか哀れな表情をした女性だった。

彼女は何かを訴えかけているようだったが、口は動かず、ただ涙を流していた。


目が覚めたユウは、心臓がバクバクしていた。

彼はその夢が何を意味しているのか理解できなかったが、何かを感じ取った気がした。そうして数日が過ぎ、彼は再びあの部屋に足を運ぶことにした。


恐る恐るその部屋に入った。

鏡は静かに佇んでいた。

ユウは思い切って鏡の前に立ち、再度自分の姿を映した。

しかし、今度はその中に女性の顔が見えなかった。

代わりに、彼の後ろに立っている自分の姿が映り込んでいた。

首を傾げたユウは、振り返ったが誰もいなかった。


その瞬間、ユウは背筋に寒気が走った。

何かが彼に近づいている。

彼は急いで部屋を出ようとしたが、ドアは開かなくなっていた。

次第に部屋の温度が下がり、彼の吐く息が白くなる。


何かが彼に近づいている。


彼は急いで部屋を出ようとしたが、ドアは開かない。

さらに部屋の温度が下がる、彼は寒さなのか恐怖なのかわからないが震える。

ユウは恐怖心に駆られ、必死にドアを開けようとするが、どうしても開かない。

部屋の中はますます暗くなり、足元には何か冷たいものが触れる。

彼はスマホを取り出し、ライトで周りを照らすが、そこには誰もいなかった。

しかし、不気味な気配はますます強くなり、ユウは背後から何かが迫っていることを感じた。

恐怖に駆られた彼は、鏡を見つめると、そこには自分の姿が映っていた。

しかし、その姿はユウ自身ではなく、何か他の存在が乗り移ったような異様な表情をしていた。

ガンッ ガンッ ガンッ

ユウは鏡に向かって叫び声を上げ、必死に鏡を叩き割ろうとするが、鏡は一向に割れない。

彼の声は誰にも届かず、絶望感に苛まれる。


そして、意識が遠のいていく中、最後にユウは鏡に映る自分の姿の笑みを見た。

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からし @KARSHI

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