パンク・オブ・アウトローズ

星野道雄

『ある少年の話』

第一話 「ある少年の話」

 俺の母は、いわゆる名家のお嬢様というやつだったらしい。産まれた時からの勝ち組。なんと中学に上がるまで卵の殻を破ったことが無かったというのだから驚きだ。厳しくも優しい両親に愛されて育ち、容姿も良く異性からのお誘いは引くて数多、縁談の話も後を絶たない。賢く、慈愛に満ちていて困っている人は放って置けない。誰かの悪口など言ったこともない。唯一の欠点は箱入りで世間知らずのやや根性無しというところ。しかし、世の男たちにとっては大してマイナスにはならない要素だろう? 知らないけど。

 そして父は、そんな母とは対照的な人生を送ってきた。病で母を亡くし、そのショックで後を追うように父親は急死した。それは父が高校生のころだったという。それから一気に天涯孤独となった父は親戚の筋を厄介者として転々とたらい回された。辛く苦しい青春時代だったそうだ。だが父はめげなかった。むしろ、挑んだ。

 社会に出た父は何とか大企業の下っ端として滑り込むことができたのだ。そしてすぐに頭角を現す。持ち前の根性と身体のタフさ、半生を研鑽に費やした精神的成熟度は同期入社したボンボン若手社員たちを圧倒した。無茶なスケジュールの外回り営業や使いっ走りばかりの仕事でも必ず成果を上げてきたそうだ。そして生来の真面目さは揺らぐことはない。周りが日本の好景気に浮かれて遊んでいる中、父だけは未来を見据えて働き続けた。

 

 

 ──そして、ついに両親は出会った。

 父の勤めている会社の重役の娘、それが母だった。父の産まれは平凡だ、それどころか社会的には決して高くない地位だろう。だが父の働きぶりと生真面目さが会社の上層部の目に止まり、縁談の話となったらしい。因みにその時の母は、本当は頭も良くて仕事もそつなくできたはずのに愛想や顔が良いものだから役員たちのお茶汲みやご機嫌伺いをやらされていた。退屈な仕事に飽きっぽい性分から母は本気で思っていたそうだ。

 

「このおっさんたちを殴って辞めちゃおうかしら」

 

しかし、そうはならない。父と出会うからだ。対照的な二人、だが妙に噛み合った。まるで歯車、くっつけば回り出して大きなものを動かし始める。

 

 

 そうして産まれたのが俺だ。父のアイデアで名前は“ぜん”と名付けられた。意味が分からない。

 父の頭の固さと頑固さを継ぎ、母の根性無しと潔癖さを継いだ。つまり、悪いところだけを総取りした。顔も多分……あまりよくなさそうだ。

 

 

 俺は裕福な家に生まれた。そしてなんとなく不自由なく生きてきて、とりあえず高校生になった。


 流されて楽に生きていけると思ってた。

 でも違った。あいつに出会ったからだ。

 

 

 

──第二話に続く 

 

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