第33話 術中


 奥の事務所に入ったにしま・・・・。



 あの人も、結局はソウマの餌食なんだろう・・・・。




初老男性「生活費をお借りしたくてですね・・・・・。」




ソウマ「またですか、チャガミさん。」



初老男性「はい・・・・・」



ソウマ「でもまぁ、いつもちゃんと返してくれているし、チャガミさんはお得意様だ。書類なんかどうでもいい・・・おい、持ってこい。」



部下「はい。」



ソウマ「大口ではお貸しできませんので、今日も・・・とりあえず4000円です。手数料と1か月分の利息は先に引かせてもらいましたよ。」



初老男性「ありがとうございます・・・・。」




 この初老男性は分かっていない・・・。麻痺してしまっている・・・。1割は利息だとしても、トータルで6割もピンハネされたんだぞ・・・。わかってないのかな・・・・。



 初老男性は部屋から出ていきました。



 会話を済ませて、ソウマは戻ってきました。



ソウマ「家まで送りますよ。にしまさんの次の職場まで送ります。」



にしま「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 外に出ると、黒色のメルセデスベンツのSクラスが停まっていました。




 広い後部座席の乗り込み、ソウマは再び話始めました。



ソウマ「あの人ね、公務員なんですよ。」



にしま「は??・・・さっきの初老男性が??」



ソウマ「ええ、なので退職金を充てにしていつもお金をうちに借りに来ます。そろそろ首が回らなくなるので、貸すのを断ってもいいんですけどね。」



にしま「生活費って・・・一体どういう生活してんだか・・・・。俺にはわからないね。」



ソウマ「他の金融会社から借金をすれば、経歴に傷が入る。私の会社から借りれば、白いままです。・・・・・にしません、一件だけ寄っても良いですか?時間はかかりませんので。」



 ソウマは、事務所からすぐ近くのパチンコ屋さんに車を停めました。




にしま「・・・・・・・!!!!・・・・・・・」



 先程ソウマの事務所にお金を借りに来た初老男性が、肩を落として出てきました。




にしま「さ・・・さっきの男性じゃねぇか!!なんでパチンコなんかしてるんだ!!」



ソウマ「チャガミさんは20回に一回くらい、胸を張って出てきます。今日は肩を落としてる、きっと負けたんでしょう。」



 ガチャ・・・・



 運転席のソウマの部下が車から降りて、チャガミに近づきます。少し話し込んだ後、再び金を渡していました。




 再び店内に向かうチャガミさん・・・・・。




にしま「あの人・・・さっき生活費だと・・・言ってなかったか?何故パチンコを?」



ソウマ「詭弁ですよ、バカに嘘をつかれるのは慣れています。というか・・・・・・勝てないんだけどなぁ・・・・そろそろ気付かんかなぁあの人も。」




 自分の顎に手を置くソウマ・・・・・。



にしま「・・・・は??」




ソウマ「この店は私が台の打ち子を雇ってます。設定が良い台に打ち子は座っているので、チャガミさんは勝てない事になってるんですよ。」



にしま「な・・・・なんてこと・・・・」




 このパチンコ店もソウマのテリトリーでした。あの初老男性は勝てないのです。設定が悪い台に座らざる負えない環境に仕立て上げられていました。




ソウマ「自分の給与内で遊べば、こんな気晴らしになるゲーム他に無いんですけどね。当然たまに勝つこともありますし。今日はここに張っていればいればまた数人借りに来ると思います。」




にしま「悪魔だ・・・地獄に落ちるぜそんな事してたら。まぁあんたの仕事内容は良く分かったよ。仕事だから今日は帰る。」



ソウマ「にしまさん・・・一緒にやりませんか?この仕事。今やっているお仕事より稼ぐことが出来るし、遥か簡単でしょう。もしかしたら頭を使う事はあるかもしれませんが、体を動かす事もありませんし。」



にしま「・・・いや、性に合わない。そろそろ時間だ、仕事行くわ。」



ソウマ「また気が変わったら、来てください。どういう仕事でも高みを目指してやる事に関して否定はしません。・・・・あっこれ、きたの社長からです。就職祝いだそうです。気持ちです。社長がまたこっち来たら食事に行こうと言って居られましたよ。」



 ソウマはおもむろに10000円を渡してきました。



 チャガミさんのような、そういう人たちから巻き上げたお金なのできっぱりと断りましたが、これは社長から言われた私の仕事なのでと言って半ば無理矢理渡されました。渡した後はその辺のドブに捨ててもらっても構わないと言われました。



 そのまま夜のバイト先である配送センターの近くまで送ってもらい、仕事先に向かいました。




にしま(・・・・とんでもない奴が地元に現れた・・・・。きたの・・・きっと分かってないんだろう自分の部下がこんなアコギな事しているなんて・・・・。)




 職場に到着し、同僚たちに挨拶を済ませて、本日の仕事量によりますがこれから2~3時間配送先の荷物を纏めるお仕事です。



 工場勤務を終えてから更にもう一仕事・・・・大変です・・・・。



 ベイジにこの夜の仕事の話をした時に、自分もやりたいと言っていましたが、どうしても勧める気にはなりませんでした。



 もうひと頑張り・・・・・。とにかくみなみと一緒の仕事が始まるまで、前向きにやっていきたい。体は当然ながら疲れていましたが、その気持ちだけで動いていました。その気持ちがあれば少し心が晴れてスッキリしていました。自分の体内で作りだす、麻薬のようなものです。

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