第32話 仕事


にしま(なんなんだこいつらは・・・・・。)




 地元を仕切っていると言われているソウマという男・・・・。




 目の前に居ます。タバコを吸っています。




 今までにない不気味な集団の登場に驚かざるおえません。




 こんな奴らが・・・地元に・・・・・。




ソウマ「・・・暑いでしょう。よければうちでアイスコーヒーでも飲みましょう。・・・私も好きで良く飲むんですよ。」



にしま「・・・・・・・」




 ソウマは前を歩き目の前の雑居ビル内へと入っていきました。





にしま(仕切っている・・・・どういう生業をして地元を仕切っているんだろう・・・・。調べてみる価値はあるな・・・・・。)




 みなみからはソウマと絡むなと言われていましたが、いずれみなみと一緒に仕事をするのです。度胸、そして情報が必要です。どういうわけか私は、どのような男が自分の地元を仕切っているのか確認する必要性を感じました。




 エレベーターを昇り3Fの鉄扉を開け、殺風景な事務所に案内されると手前のソファーがある部屋に案内されました。




ソウマ「どうぞ・・・・。」




 氷の入ったキンキンに冷えたアイスコーヒーが目の前に出てきます。




ソウマ「・・・私、ソウマ金融のソウマと申します。宜しくお願い致します。・・・もし良ければお名前を教えて頂きたく思いますが、差し支えなければよろしいでしょうか。」




にしま「にしまです。」



ソウマ「にしまさん・・・と仰るんですね。宜しくお願い致します。」



 第一印象とは違い、やけに物静かな感じの男でした。しかし・・・・彼の周りから放たれる異様なオーラは掻き消す事が出来ません・・・。



にしま(危ない感じが消せてないな・・・・。怪しすぎる・・・。)



ソウマ「・・・・こちらの町にお住まいですか??」



にしま「・・・仮にここでお金を借りるとなると、どうなるんでしょう??」




ソウマ「ご融資の相談ですね。・・・残念ながら初見の方にお貸しする事は出来ないんですよ。」



にしま「はぁ・・・・・。」




 暫く、遠くを見て、それから上を見上げるソウマ・・・・・・。



にしま「駄目なんですね・・・。」



ソウマ「・・・・ですが・・・ここで会ったのも何かの縁です。そうですね・・・・10000円であればお貸ししましょう・・・・。私とにしまさんの縁です。」



 きっと最初だけ腰が低いタイプの人間なのでしょう。



にしま「では、その10000円を借りるとするとどのような返済プランになりますか??」



ソウマ「10000円のうち・・・5000円は事務手数料です。」




にしま「は・・・半分も手数料取るのか??」



ソウマ「そうです。1ヵ月10%ですので、最初の利息を1000円、それも引いてお渡しします。」



にしま「・・・・・・・・・」



 10000円(借入金)ー5000円(事務手数料)-1000円(利息)=4000円




にしま「??10000円借りてるのに、手元には4000円しか・・・・・。」



ソウマ「そうです。担保も何もない状況でお貸しするのですから、その金額になります。・・・しかし、よくよく考えて見て下さい。4000円あれば結構なんでも出来ますよ、居酒屋や明瞭会計のスナックにお酒を飲みに行く事が出来ます。スロットであれば機種によりますが100回転回りますし。競馬や競輪、オートレースや競艇では100円を40通りまで賭ける事が出来ますよ。今日私と出会った豪運のあなたであればきっと当たりますよ。当たればその足でここに返しに来て貰っても全然問題ないですよ。いつまでもこのお店は開いていますからね。」




 ソウマ・・・・


 詐欺みたいな話じゃねぇか・・・・誰がこんな話に乗ると思ってんだ。




にしま「・・・うー--ん・・・・・そういう事をしろと言われてるの??」



ソウマ「はい?・・・・」


にしま「・・・あんたさ・・・『きたの』のとこの人間だろ???俺の友人のきたのにそういう商売をやれと言われてるのか?って聞いてるんだ。」



ソウマ「・・・・・・・・」



 『きたの』というワードを出したら、ソウマは黙りました。先程迄、流暢にシステムを説明していたのに急に静かになりました。



にしま「・・・きたのがそんな事望んでるのか?どうなんだ?」



 沈黙の後、奥から若い男性がソウマに耳打ちをしました。




 ・・・・・・・・・



 ・・・・・・・・・



ソウマ「・・・そうですか、社長のご友人でしたか。」



にしま「あの事務所の奥にある家紋のようなエンブレム・・・・。きたのの家にあるものと一緒だ。俺は子どもの頃から何度も遊びに行ったことがある。あんたもあそこの人間なんだな。俺の地元を仕切ってるという事はきっと幹部だな。そんなやり方で金貸しをして、俺の地元を滅茶苦茶にするのはもうやめてくれないか。」




 ソウマは少し考えたのちに、ゆっくりと話し始めました。



 ・・・・・・・・・・・



 ・・・・・・・・・・・



ソウマ「きたの社長から望まれているかどうか、そうではなく親を守るのが私の役目なのです。それ以上でもこれ以下でもない。これはもう息をする事と同じだ。私達にとって当たり前の事なんですよ・・・・皮膚呼吸くらい自然に備わっていて、出来ていて当たり前なんですよ、にしまさん。大前提、金貸しが金を貸す。これはもうどういう形であっても当たり前の事です。にしまさんも現在、工場で働いていればご自身のセクションの仕事をするのが当たり前。捉え方は違っても、仕事への責任感があるかどうか、これがその当たり前という言葉に行きついていると思っていただければ幸い。」




 ・・・・なんなんだこの男は・・・・。こいつは・・・・。決してわけがわからないことはないが、その感覚は一体・・・・・。




ソウマ「貴方にこのような話をしても理解は難しいですし、それは仕方ないとは思うんですがね。・・・これでも私は他の連中と違って穏健派ですからね。優しいほうだと思いますよ。」




 ブチっ!!!



にしま「はぁ???・・・何が穏健派だよこの野郎!!極悪非道じゃねぇかこんなもん!!こんな事で社会貢献してると思ったらどんでもない勘違いだぞ!!困ってる人を更に困らせてるだけじゃねぇか!!・・・ソウマ!!あんたそれでも由緒正しい、きたののとこの人間なのかよ!!恥だぞ恥!きたのの親父さんはそんな小手先で人を騙すような人間ではなかった!!誰よりも真っすぐな男だぞ!!俺は知ってんだぞ!!」



ソウマ「騙してはいません、了承を得た上でお貸ししています。」



 いよいよ堪忍袋の緒が切れました。暫く地元を留守にしていた間、こんな連中が蔓延っている事が許せませんでした。こいつは・・・このソウマという男は・・・見えない所で何人もの人間を闇に葬っているのです。


 そして、きたのの会社の社員がこのような事をしている事に対して許すことが出来ませんでした。



 後ろに立っていた男が俺の肩を強くつかみました。



 ガシッ!!



にしま「・・・!!!!」




ソウマ「お前コラぁ!!何考えてんだこの野郎!!」



 ソウマの罵声が事務所内で響き渡りました・・・・。



 肩を掴まれた事よりも、ソウマの罵声に反応してしまいました。



にしま「く・・・」



 立ち上がり・・・・



 そして・・・躊躇なく目の前の灰皿で自分の部下を思い切り殴りました。



ソウマ「金貸しの仕事じゃねぇだろうが!!」




 ゴッ!!!



 鮮血が地面に飛び散りました。



部下「うあぁぁぁ!!!・・・・」



にしま「・・・おい!!・・・な・・・何してんだ!!やめろ!!」



ソウマ「だれが社長の友人に手を出していいと言ったんだ?お前みたいなザコが決める立場じゃあねぇーんだよ!!」




 凄まじい形相で部下を睨みつけます・・・・。




 ・・・・・・・・・・





 ・・・・・・・・・・




 先程座って話している時と様子が違います。別人です・・・。




 「怖い」など、それは遥か通り越しています。




にしま「これ以上はやめとけ!!彼には彼の考えがあったんだろう!!・・・おい、大丈夫か!?あんたやりすぎじゃねぇのか、俺はまだ何もされてないぞ!!」





ソウマ「にしまさん、これはこっちの話です。いつも・・・いつもね・・・いつ死ぬか分からない状況で全員仕事をやってます。私もそういう考え方をすれば、恐らくもう長くないでしょう。しかしこれもまた当たり前。だからこそ高い金利や手数料をとるのも当たり前、こういう仕事をしているからこそ当たり前の話なんですよ。分かって貰えなくても問題ありません。様々な人間が居るという気持ちを持って穏便に私の話を聞いてもらう事は出来ませんか。」



 事務所が静まり返ります・・・・。




 なんなんだこいつは・・・・・全然穏健派なんかじゃねぇ・・・よくもそんな言葉が言えたもんだな・・・・。



 気持ちは少しわかったが・・・・でもこれは・・・はっきり言って部下を殺そうとしてるじゃねぇか・・・・。




 ・・・・・・・



 ・・・・・・・




 ガチャ・・・・・




「すいませー-ん・・・・・」




 初老の気の弱そうな男性が事務所の入り口から顔を覗かせました。




にしま「おい・・・・・やめてくれソウマ、これ以上善人を巻き込むのは。」



ソウマ「にしまさん、奥の事務所で待っていて貰えませんか??」



 言われるがまま、奥側の事務所に引き込まれました。



 私の地元には所謂悪い人間が大勢居ましたが、それを遥かに凌駕していました。



 また一人・・・・このソウマの描くアリジゴクのような罠に、今宵もまた一人・・・一人と、次々と人間達が吸い込まれて行くのでした・・。

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