第18話 市街地


 私達は海岸を通り抜けて、道路を横切り、海岸付近にある森に入りました。



 このまま森を抜ければ市街地に入ります。



 服や靴が海水でずぶ濡れになっており、上手く走る事が出来ません。




 私はどうしても走りにくいので、靴を脱ごうとしました。



ノブハラ「ハク!!靴だけは脱ぐな!!落としたら場所がバレるし、森の中は何が落ちてるか分からない!!」




ハク「・・・!!」




ノブハラ「ガラスなんか踏んづけたら大怪我だぞ!!病院も行けない!!」




 先頭のハネダが草を掻き分けていきます。




ハネダ「・・・ハクが言ってる場所ってのがこっちかわからないけれど、一旦森に入ろう!!」




ハク「うん、いいよ!!森を抜けて一度市街地に出よう!!」



 どこまでもどこまでもやつらは追いかけてきます。私達の会社とは違って、相手は何人も何人も居るのです。島に居たスーツ姿の5人はほんの一部に過ぎません。その気になれば100人くらいの人員を呼ぶことも可能かもしれません。



 先程上陸した海岸で遠目で敵の姿が見えましたが、少なくとも私が見た限りで、4人は居ました。



 森の中をひたすら走り続けます。



 途中、突然の崖で3人共転げ落ちてしまいます。



ハク「きゃあああああ!!!!」





ゴロゴロゴロ・・・・



ドン!!




・・・・・・





・・・・・・・・




 ぶにゅうううー---!!!!!




 ハクの顔面がハネダのポッコリお腹に突き刺さります。




ハク「むー---!!・・・・・は・・・ハネダが太ってて助かった・・・・・。」





ハネダ「・・し・・・失礼な!!お前を助けてやったのに!!」




ハク「・・・初めてハネダが太ってて良かったと思ったわ・・・。」



 ハネダは少し私を睨みました。




ノブハラ「おい!!市街地が見えたぞ!!もうすぐだ!!」




 辺りが徐々に明るくなってきていました。周りがほぼ見えなかった島の森とは大違いでした。



 ・・・3人は力の限り走り続けます。何かを信じて走り続けます。




 もう誰も行動を止める者はいません。父や辺見、ダマテの意志が受け継がれているのです。アリタのリュックを背負い、3人の代わりとなって私達は戦っているのです。



ハネダ「はー・・・・はー・・・・はー・・・・・」




ノブハラ「はー・・・はー・・・・はー・・・・」




 皆の息が聞こえてきます。疲れているのは全員一緒です。私達が生き残るかどうかは私達自身の行動に託されています。




ノブハラ「道路だ!!」





 ・・・森から道路に転がり込むように私達は着地します。



 着地と同時に再び全力で走り続けます。




 前を走っているハネダの嘔吐物が私に降りかかります。




ハク「・・・・・・・・・」




 もうそんなものにも、何も・・・気にする事はありませんでした・・・。




ノブハラ「ハク!こっちでいいのか!?」




ハク「うん!!市街地を抜けたらまた更に山に差し掛かると思う!!そこまで頑張ろう!!」




ノブハラ「おーし!!わかった!!」




ハネダ「・・・・そんなに走るのかよぉ!!!タクシー使おう!!」




ハク・ノブハラ「駄目に決まってんだろ!!」




 ハネダは半泣きです。私の予測ではここから更に・・・最低でも15kmは走る必要がありました。



 誰も居ない市街地を走ります・・・・。朝焼けが私達を照らします・・・・。




 ・・・まぶしい・・・・なんてまぶしいの・・・・。




 朝を迎える事ができるなんて・・・思いませんでした・・・。




 市街地には、人の気配がしています。




 人々が生活しているのです。




 生活の匂いがします。朝ごはんの支度をしている音も聞こえます。




 いいなぁ・・・昨日までは私だって普通に生活していたのに・・・。




 ペンちゃんの店で焼うどんを食べてから、途中の水分補給以外はほぼ飲まず食わずでしたので、かなりお腹も減っていました。でもそんな状況であるとしてもコンビニなどに寄るわけにはいきません。





 逃げるのが優先。完全に超優先事項なのでした。




・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・




ハク「・・・・・ノベタン!!・・この先に廃校があったよね?!」



ノブハラ「・・・・あ・・・あったな!!昔の小学校だと思う!!」




ハク「・・・廃校の直ぐ近くにお父ちゃんのアトリエがあるのよ!!昔は仕事場として使ってたみたいだけど、今は趣味の小屋みたいな感じ!!」




ノブハラ「・・・おやっさんの?・・・・・そこは大丈夫なのか?!」




ハク「・・・・絶対に誰も知らない、私とお父ちゃんと・・・もしかしたらお母ちゃんくらいしか知らない場所のはず!!私は子どもの頃一度だけ行ったきりで暫く行ってないけどね!!」



ノブハラ「まだあるのか?その小屋・・・・・」




ハク「もう取り壊されてるかもしれない・・・・・でも行こう!!もう私達にはそこしかないじゃない!!無くなっていればまた他を探そっ!!」



ノブハラ「・・・・よし・・・わかった!」




ハネダ「・・・・もう走れない・・・・・・」




 私達はハネダの背中を押しながら市街地から更に山間部に向けて走っていました。





・・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・・





ハク「・・・・・・・・・・・・・・」





ノブハラ「・・・・・・・・・・・・・」






ハネダ「・・・・・・・・・・・・・・」














 ありました・・・・・・・・・・。





 フェンスに覆われた・・・・生えっぱなしの草木に囲まれた小屋が・・・・・ありました・・・・・・・・。




ノブハラ「あったぞ・・・。・・でもここ鍵がかかってる・・・・。」



ハク「ノベタン・・・・待って・・・・。」


 私をノベタンが背負っているリュックの上部のジッパーを開けました。




・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・



 そのポケット内に入っている、折り畳みボートをくくりつけていた南京錠鍵のキーリングを見ました。



 ボートの南京錠鍵と同じブランドの南京錠がフェンスに設置されていました・・・・。



ハク「もしかして・・・・・。」



・・・・・・・




・・ググッ・・・カチャ!!・・・・・




 フェンスの南京錠は少しだけ錆びていましたが、なんとか開きました・・・・。



ハク「・・・・開いた・・・・・・。」




ノブハラ「・・・あのボートの南京錠と同一鍵だったか!・・・・・・・」




 私達は今一度ハイバラやイツキの部下が周りに居ないことを確認し、注意深くフェンス内に入りました。



 懐かしい感じがする・・・確かこんな小屋だった・・・・・。覚えがある・・・。



 それは間違いなく子どもの頃に来た父のアトリエでした。



 子どもの頃に行った時は草木もしっかりと手入れがしてあって、小屋ももう少しだけ綺麗だった思います。



 でも、それでもわかるのです・・・・。ここは父の匂いがします・・・・。



 匂いを嗅いだだけでも涙が出そうになります・・・・・。



 父は予想していたのでしょう・・・もし何かあれば、私がここに来ることを・・・・。



 ボートの南京錠鍵と同一の鍵にしていたことで、なんとなく父の考えが分かりました。




ハク「お父ちゃん・・・・。」




ノブハラ「・・・・行こう・・・・。」



ハク・ハネダ「うん・・・・・・。」




 先頭のノブハラが、恐る恐る父のアトリエ扉を開きました。

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