第19話 生家


 ギギィィィ・・・・



 何かが擦れるような音でゆっくりとその扉は開きました。



 私達3人は、到着した海岸から遠く離れた山間部にある父のアトリエにようやく到着したのです。




 昼間なのにうす少し暗く、少しノスタルジックな室内・・・。父がここで作業していた風景が浮かんできます・・・・。



ハク「ここだ・・・・ここがお父ちゃんのアトリエだわ・・・・。間違いないわ。」



ノブハラ「やっと・・・休憩できる・・・・。」




ハネダ「あーもう俺は寝転ぶ!!」




 疲労困憊でその場に倒れ込む3人・・・・。



 私はそばにあったソファーを見つけて寝ころびました・・・お風呂に入りたいのですが、気を抜くと疲労でこのまま寝てしまいそうです・・・・。




ハネダ「腹減ったぁ・・・・。なんかないかな・・・・。」



 ハネダが小屋内を物色し始めます。



 缶詰や非常食やお酒、水、つまみ、煙草等があったようです。




ノブハラ「ここがおやっさんのアトリエなんだな・・・・。」




 ノブハラは不思議そうな顔で小屋内を見回してしました。こんな場所があった事に対して驚いていたのです。




 これから暫くの間、このアトリエに隠れないといけません・・・。




ノブハラ「これな・・・・専務(ペンちゃん)から貰ったお金だ。」



 おもむろにカーゴパンツのポケットからジップロックに入れた札束を取り出しました。



ハク「そうなんだ・・・・。もしもの時は使わせてもらおう・・・。」



ハネダ「これだけあれば暫く暮らせそうだな・・・・。」




ノブハラ「そうだな、でも言うまでもないが無駄遣いは禁止だぞ。今奴らから逃げている事を忘れてはいけない。」



 私はどうしてもやりたいことがありました・・・・。




 お風呂です・・・・・どうしてもシャワーを浴びたいのです・・・・。




ハク「確か・・そうだ!・・・奥の部屋に簡易的なシャワーがあったような!!・・・。」



ノブハラ「マジ?!あるんだ!やったな!!」



 人1人が入れるようなスペースにシャワーがついていました。




 いつの物なのか分かりませんが、シャンプーも石鹼もありました。



ハク「・・・・水出るかな!!」



 私は勢いよく蛇口を捻りました。






・・・・ゴロゴロ・・・・




 ブシュ・・ブシュ・・・・・・シャー!!!!




ハク・ノブハラ「・・・・出た!!」




 やったぁ・・・・・やっと・・・・やっとお風呂入れる・・・・。




 お湯は出ませんでしたが、水はしっかりと出るようでした。




ハク「水が出るだけでも・・・・もぉ贅沢は言わない!」




ノブハラ「だな!ハク、お前先シャワー浴びろよ。俺はハネダと小屋の外周りを見て来るから。」




ハク「いいの?ノベタン!!♪ありがとう!♪」




 まだまだ安心は出来ません。



 ノブハラとハネダは内部だけではなく、一度小屋の外に出て、外周を確認する事にしました。



 小屋の奥にもう一つ小さな小屋がある事を確認しました・・・・。




ノブハラ「なんだ?・・・あの小屋は・・・・。」



 その小屋には南京錠がかかっていました。先程の南京錠鍵を使用し、扉を開ける事ができました。



 そこには・・・・・。


ノブハラ「・・・し・・・CB400じゃあねぇか・・・・。」




ハネダ「かっこいバイクだな!!!おやっさんのかな?・・これ・・・」



ノブハラ「コレクションだろうな・・・最悪の場合これに乗って逃げろって事か・・・。」




ハネダ「3人乗りってできるかな?・・・」




ノブハラ「・・・それはやつらに追われていなくても、警察に捕まる。」




 シャーーーーー・・・・



 冷たくても文句は言えません・・・・。



 これこそ恵みの雨だぁ・・・・・・。




 島民の体液を山ほど浴びたので入念に洗う事にしました。




 島民に犯されかけた事を思い出すともう自分が嫌になるので、あまり思い出さないようにしているのですが、どうしても未だにあの光景が脳裏に焼き付いているのです。



 トラウマです。今でもフラッシュバックのように光景が浮かんでくることがあります。



 指は草を掻き分けた際に傷だらけ、体も所々傷ができておりました。



ハク「・・・ああ・・・・なんか嫌だな・・・。」




 シャワーからあがり、2人を呼びました。



ノブハラ「なぁハク、おやっさんってバイク乗るの??」



ハク「・・・バイク?・・・・なんで?」



ノブハラ「いや、奥にも小屋があってさ。そこにバイクがあったよ。」


ハク「ペンちゃんかダマテじゃないかな?・・・・いや・・・・2人がこの場所を知る筈がないかぁ・・・」



 不思議そうな顔をしている3人。



 父がバイクを持っている事を知りませんし、なんだったら今まで父と車や船の話はしたことがありましたが、バイクの話などしたことがありませんでした。3人共同じ意見です。



ノブハラ「俺一応免許持ってるから、最悪これ乗って逃げよう。鍵もついてた。」



 チャリンチャリン・・・。



 ノブハラは鍵を指にかけて回していました。頃合いを見てメンテナンスをするそうです。


 ここまで来れば安心・・・・・完全に安心とは思えないのでそう思ってはいませんが、暫くはここで身を隠す必要があります。


 フェンスに囲まれていますので、もしここで追い詰められたら逃げ場がほぼないと思っていいと思います。



ノブハラ「・・・交代で休もう。8時間おきに交代して見張りだな。」


 ノブハラの案で1人は先程の南京錠を開けて入って来た出入り口が見える位置で見張り。残りの2人は休憩、いざという時の為に動けるように準備をしておこうという話になりました。


 最悪の場合、奥の小屋にあった父のCB400で突破して逃げるという頭がありました。


 小屋にあったサバの缶詰を開けて3人で食べていました。



ハク「うまっ・・・・お腹が減りすぎてて何食べても美味しいかも・・・。」



ハネダ「何個でも食えるぜ。」



ハク・ノブハラ「絶対一人で全部食べるなよ」



ノブハラ「ハク、ハネダ。食ったら早く先に休めよ。追手が来る可能性がある。俺が最初見張りをするよ。」


ハク「いいの?」




ノブハラ「いいさ。ハクはソファー、ハネダはその辺で。」




ハネダ「待遇悪いな、俺も女に産まれたかったぜ。」



ノブハラ「いや、ここはおやっさんのアトリエだろ。俺達はハクに便乗させて貰っているだけだ。」



・・・・・・・・



・・・・・・・・



・・・・・・・・




ハク(そういえば・・・リュックの中身まだちゃんと確認してなかった・・・・。)





 私はリュックを開けてみました。二重になっているビニールをあけると、中にはお金と水、乾パン、1日分の着替えと生理用品、懐中電灯、父に買って貰ったウォークマン・・・それと化粧ポーチ・・・・・化粧品??・・・




 こんな時に化粧などしている場合ではないのに父は・・・・・最後まで私に女で居て欲しいと、そう思ったのかもしれません・・・。



 余裕が出てくれば・・・・普通の生活に戻れるようなら、この化粧道具でしっかりお化粧をして出かけよう。



ハク「お父ちゃん・・・・・。ありがとね・・・・。」



 ハネダは奥の部屋で寝袋を見つけたようで、埃を払って寝袋に入るなり2秒で寝息を立てていました。




ハク「はやっ・・・・どこでも寝れるタイプ・・・・。」



 ハネダと違って、疲れているはずなのに私はなかなか眠ることが出来ず、じっと外を眺めているノブハラを見ていました。



ノブハラ「・・・ん?なんだよ。」





ハク(あー・・・・・そうだ・・・・。ノベタンが見張っていてくれるんだ、ちゃんと休まなきゃ・・・・。そうだ、音楽を聴きながら寝よう・・・・。)



 私はリュックの中からウォークマンを取り出して、イヤホンを耳に入れました。父の防水対策で壊れておらず、使用できる状態でした。




私は何を普段聴いていたかな・・・・。



ハク「・・・・・・」



 目を瞑って頭の後ろに腕を組んで寝転んで音楽を聴いている私の姿を見て、ノブハラは微笑みました。



ノブハラ(・・・・ハク。・・・・絶対にお前を悪者にはしないからな。)


 ノブハラは再び外に目線を戻しました。

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