第2話 運命のダイスに導かれて

[ダイス]

ふむ……なぜこんな酷い組み合わせをわざわざ確認などさせるのだ?

そんなことをするまでもなく不幸になるに決まっている。

国王陛下が貴族のバランスに配慮して決定した相手であるシンシアとは比べるまでもなく却下だ。

2人が豚の餌になりたいというなら止めはせぬが。


「はっ?」

「えっ?」

「はぁ」

「あ~っはっはっは」

順番に、リューナという女性の驚き、レオン王子の呟き、私のため息、ランス様の嘲笑です。

勘弁してほしいのですが、ランス様はただの愉快犯でした。二度と笑えなくなるほどの恐怖を味合わせてやりたいですわ。


「では、続いて婚約破棄の方は!?」

もう、賑やかしの実況解説みたいになっていますよ?

もう少しくらい取り繕ってください。恨みますよ?


私は少々力を込めてランス様を睨みつけますが、彼は一切こちらを見ずにダイスに集中しています。

蹴り飛ばしてもいいでしょうか?


 

[ダイス]

婚約破棄したいのか?

あぁ、なるほど。シンシア嬢がバカ王子に愛想をつかしたのだな。

それならば仕方ない。

幸せになるがいい、シンシア嬢よ。お勧めするとしたらまだ見ぬ相手……これから出会う相手の中で未来の伴侶を探すと良い。


それから、バカ王子よ。お前は終わりだ。

そもそも婚約の主導権はシンシア嬢……というか、エルレンダール公爵家にあるのだ。

にもかかわらず一方的な婚約破棄宣言などと気でも狂ったのか?

もう宣言してしまったのだからどうしようもないが、お前は廃嫡決定だ。




「なんだと!?」

「えっ?」

「はぁ」

「……そこは僕を勧めようよ。これから出会う相手限定なんて酷いよ僕のスキルなのに……(涙)」

順番に王子の怒り、リューナさんの呟き、私のため息、ランス様のよくわからない独白です。


えっ?ランス様、私に気があったとかですか?さすがにないですよね?えっ?

ごめんなさい、私、愉快犯な方はちょっと……。

そしてどうしてくれるのでしょうか、この場の変な空気を。

これなら淡々と婚約破棄の話を進めた方が良かったのではないですか?

 

などと思っていると、突然レオン王子がリューナさんとつないでいた手を放して私の方に向きます。


おぉ?これは期待できるかもしれません。

この方はなんといっても自分勝手ですから、今までの流れをすべて無視して強引にもう一度話を婚約破棄に戻してくれるかもしれません。


わかりました、その茶番に乗りましょう。

あふれ出そうになる笑みを噛み殺し、精一杯に真面目な表情を作った私は、『さあ言ってください』と言わんばかりに、少しだけ悔しそうに口の端を噛みながら王子に向かい合います。


いまここに歴史家や画家がいたら、さぞ名場面だと言わんばかりに讃え、描き残したことでしょう。

そんな心持ちでレオン王子の言葉を待ちます。


さぁ、どんな理由を改めて語ってくれるのでしょうか?

もう捏造でもいいですわよ?


思えば私はそのリューナさんに酷いことをしたかもしれません。

だって、存在すら認識しないのは酷いことでしょう?

もちろん、そんなことを責められたら後で賠償金を倍にする交渉のネタにしますが、今この場は取り繕えますわ!


頑張って!レオン王子!

人生ではじめてあなたを応援するかもしれません。


いえ、かつて1度だけありましたね。

私があなたを応援したことが。


それは婚約式でのことです。

あの時はまだ会話もしたことがなく、幼いながらにキラキラした可愛い人だなと思っていたのです。


そんな彼が、婚約指輪を私に嵌めてくれた時。

大人たちが見守る中で緊張気味だったので、応援したのです。


まぁ、その指輪すら『お前にはもったいなかった』とか言ってくるくらいどうしようもない人だったわけですが、もうそんなことはどうでもいいのです。


さぁ!?


 

「ちょっと考えたんだけど、やり直そう。まだ間に合うはずだ。

 俺は変な夢を見ていたんだな。

 そりゃそうだよな。

 こんな美しいシンシアがなぜか豚のように見えてたんだ。

 何かの魔法……いや、呪いかもしれない。

 すまなかった、シンシア。

 いや、我が妻よ。どうか許してくれ。

 俺はこれから誠心誠意真面目に忠実に父の後を継いで良い王になる。

 これは宣言だ。

 どうかその道を一緒に歩いてほしい。ほかではない、キミに」

「無理です。ごめんなさい」







 私が実は継承していた"運命の審判"で王子を弾き飛ばし、その恐怖を持って強引に婚約破棄を実行させたのは言うまでもありません。


 その後、王国内では粛清や反乱が相次ぎましたが、婚約破棄のほとぼりが冷めるまで旅に出ていた私は全て華麗にスルーし、旅中に出会った隣国の方と結婚して私は幸せに暮らしました。



***

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運命のダイス~突如として宣告された婚約破棄の行方はいかに?~ 蒼井星空 @lordwind777

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