085 戦闘開始!!
「クッソ硬いなぁ~。」
タケシ君は、無傷のジェネラルを見て悪態をついていた。
俺としても、先程の攻撃で少しくらいはダメージが入っていると思っていた。
だが、現実はそれほど甘くはなかった。
鎧などに汚れは見えるものの、さして支障があるようには思えなかったのだ。
むしろ、ノーダメージと言っても過言じゃないな。
それよりもさっきの攻撃だ。
ありゃ反則だろ?
さっきまで俺たちがいた地面は、鋭利な刃物で切り裂かれたように、一筋の線が出来上がっていた。
あたかも「ここから先は立入禁止だ」と宣言しているように。
なんか面倒臭いな。
正直な話、速攻で【レベルドレイン】を使いたいという発想になってしまっていた。
どう考えたって、確実に苦戦するのが目に見えている。
だったら、さっさとけりをつけるに越したことはない。
しかし、この先タケシ君と共に行動すると考え場合、タケシ君の強敵との実戦経験を増やしていくことの方が大事なように感じていた。
うん決めた、タケシ君の経験を優先しよう。
最悪、大事に至りそうだった場合は、すぐに【レベルドレイン】を発動させて終わらせればいいだろう。
ふと一瞬思考の海に飲み込まれかけて意識を戻すと、タケシ君が盛大にてんぱっていた。
自身が持つ最高の攻撃力を誇るのは【ライフル】で、徹甲弾の魔弾を使ったのに傷一つないのだから致し方ないけど……そこまで動揺するのもどうだろうか。
決定打にかけてしまったのか、もう一つの攻撃手段である【ガトリング】による面制圧に思いが至っていないようだった。
本来だったら、迷わず【ガトリング】の面制圧か【ミサイルランチャー】の飽和攻撃かを選んでいたと思う。
でも、ジェネラルから発せられるプレッシャーにのまれてしまったようで、その判断に迷うが生じているようだった。
「グギョワアァァッァァァァ!!」
突然ジェネラルが吼えた。
俺は、タケシ君に意識を裂き過ぎていたみたいだ。
その咆哮に含まれた音圧というか空圧というか、何かの塊に脳を揺さぶられる感覚に陥ってしまった。
タケシ君も同様で、俺たちは一瞬行動を阻害されてしまった。
それを見ていたジェネラルは、ニタニタと笑いながら徐々に後退を始めた。
このまま行動を許すわけにもいかないため、俺は鈍い身体にカツを入れすぐに行動を起こした。
そして、一歩踏み出した瞬間に背筋が一気に冷える感覚に襲われた。
俺はそれに従い、その場で姿勢を低くした。
タケシ君も同様に感じたようで、同じタイミングで身をかがめた。
するとどうだろうか、俺たちの頭の上を何かが通り過ぎていった。
緊急回避とも言える身のこなしで、俺たちは寸前で躱すことができた。
ジェネラルに目をやると、その大きな剣を横に薙いでやはりにやついていていた。
おそらく、スキルを発動させたのだろうということだけは理解ができた。
剣技系の飛び道具的な何か……
それがまた俺たちの思考の邪魔をする。
これじゃまともに近づけないな……
ジェネラルの後退に合わせて、また魔法陣が光を放った。
その光は徐々に別れ、5つの魔法陣を形成した。
「しまった!!召喚が始まる!!」
タケシ君は、慌てて【ライフル】でジェネラルを狙撃する。
しかし、ジェネラルは振り返ることはせず、そのままその場で一回転ターンをして見せたのだ。
そして、先程同様にキンという澄んだ音と共に、地面に何かが転がった。
そこに落ちていたの物は、二つに切り裂かれたタケシ君が作った魔弾だった。
その光景に、タケシ君は驚きを隠せないように狼狽えていた。
普通の剣技でそれをなすことは難しい。
ならば目の前のゴブリンジェネラルは達人級だとでもいうのか……
さすがの俺も、これには驚きを隠せなかった。
むしろ、戦闘開始してからずっと驚かされ続けている。
今目の前に出現した5つに分かれた魔法陣は、何やらドクンドクンと心臓でも動くかのように光の脈動を始めた。
その一つ一つに黒い靄が集まり出し、ジェネラルが現れたときの様に渦を巻き始める。
俺はその光景に思わず舌打ちをしていた。
「くそ!!間に合わなかった!!」
タケシ君は、光の魔法陣に向かって弾丸を放ち続ける。
魔法陣を物理的に破壊が出来るか試しているようだった。
だがそれはかなわなかった……
徐々に5つの魔法陣から靄が晴れて来た。
現れたモンスターは、ここに俺はいるぞ!!とアピールするが如く激しく雄たけびを上げた。
「ケントさん……かなりまずいかもですね。」
タケシ君の表情は、完全に引きつっていた。
ここから先は、どう考えても消耗戦。
ジェネラルに攻撃できるのは、恐らく5体の眷属を倒した後のリキャストタイムの時だけだからだ。
ただ俺はタケシ君が言うほど焦りはなかった。
そこに出現したゴブリンを見て、問題は無いと判断した。
「大丈夫。相手はハイゴブリンじゃない。下位の武器種だ。ナイト2匹とでディフェンダー。あとはヒーラーとマジシャン。特に問題はないよ。強いて言うなら実験が必要だって事くらいだよ。」
だけどタケシ君はてんぱってしまっていて、状況をあまりうまく理解できていないようだった。
まあ普通に考えて、その思考状況も理解できた。
こちらは二人、向こうは6匹。
数でも圧倒的に不利で、ジェネラルに至っては眷属がいる限り倒すことが不可能な状況だ。
そんな中で俺が実験をするなんて言ったもんだから、ジト目で非難するような視線を送られてしまった。
仕方ないじゃないか、行き当たりばったりなんだから。
「簡単な実験だよ。まずは召喚のリキャストタイムか再召喚までの時間の計測。それとジェネラルのスキル【身代わり】の有効範囲と、どれくらいのダメージで発動させるのか。そして発動したらどれほど回復するのかってところ。なので、タケシ君にはまずはヒーラーとマジシャンを落としてもらいたいかな。俺はその間にディフェンダーとナイトを相手するから。」
俺はタケシ君にそう伝えると、問答無用で攻撃を開始した。
時間をかければ、こちらが不利になるのは目に見えているからね。
タケシ君は、まだ納得いっていないとでもいいたげだったけど、戦闘が開始されてしまったのであきらめたようだった。
俺は、タケシ君なら後衛を抑えてくれると信じ、ナイトとディフェンダーに速攻を仕掛けた。
ナイトとディフェンダーは、慌てたように体勢を整える。
ディフェンダーは俺の速攻に合わせて、その手にした大盾を構えた。
その大盾のおかげで死角ができ、そこにナイトは陣取ったみたいだ。
うん、【探索者】の動きをよく研究しているな。
まさにお手本の動きだ。
——————
多田野はケントに言われた通り、遠距離から狙撃するし始める。
狙いは、ヒーラーとマジシャン。
ケントが一気に走り出したことにより、全員の意識がケントへ向かっていた。
しかも、ケントは周辺に【結界】を張ることで、縦横無尽に駆け出している。
そう、動きがどんどん派手になっていた。
ディフェンダーやナイトは、ケントの動きに翻弄されるように、警戒を強めている。
マジシャンに至ってはケントに的を絞り、魔力弾で迎撃しようと躍起になっていた。
ケントはジワジワとディフェンダーとナイトを削っていった。
本来なら、激突してそこから戦闘開始……となる流れであろう状況。
しかし、そんなの知ったことではないと言わんばかりに、ケントは駆け回る。
それは、いつも以上に派手に動き回っていた。
そのおかげか、多田野から警戒がハズレたようで、余裕をもって狙いを定めることができた。
「(ファイア!!)」
だけかに聞こえるかどうかギリギリの声で気合を入れた多田野は、【ライフル】から魔弾を射出した
射出された魔弾はきれいに直進していく。
狙いもたがわず、ヒーラーの心臓部と思われる部分に吸い込まれていった。
マジシャンも飛来物に気が付き躱そうとするも、その速度には対応できずその心臓部に被弾した。
その瞬間、被弾箇所がわずかに爆発を起こしたのだ。
そう、多田野が選んだ魔弾は【炸裂弾】だった。
貫通力は皆無ではあるが、少量の火薬……ここでは魔力エネルギー体が爆発を起こすものだ。
つまり、体に入り込まれると、内側から爆発が起こる仕組みだ。
これによって心臓部に大ダメージを負った2匹は退場となった。
黒い靄が霧散すると、そのまま召喚された魔法陣へと集まり出した。
——————
さすがタケシ君だ。
注文通りの結果を出してくれたね。
俺はボス部屋を縦横無尽に駆け回ると、魔法陣の様子を観察していた。
まあ予想通りといった感じだろうか。
徐々に霧散していた黒い靄が魔法陣に集まってきたが、一向に再召喚が行われる気配は見えなかった。
だけどその予想は、最悪な方向でひっくり返されることになった。
ジェネラルがまた一声叫び声を上げると、魔法陣に変化が起こった。
それが引き金になったのか、今まさに黒い靄が集まっていた魔法陣でヒーラーとマジシャンが再召喚された。
それまでに要した時間はわずか3分。
これが自動なのか、もしくはジェネラルの任意なのか。
まだまだ検証は必要だな。
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