082 次戦へ向けての準備
地面に伏したデモンズゴブリンを見つめて、俺たちはふぅっと息を漏らす。
どうやら討伐が完了したようで、徐々にデモンズゴブリンは黒い靄へと変わっていった。
「すみません。デモンズゴブリンの情報が完全じゃなかったために、こんなに苦戦させてしまいました。」
タケシ君は、とても申し訳なさそうに頭を下げていた。
これについては、俺も素直に謝罪を受け入れるわけにはいかなかった。
「タケシ君は何か勘違いをしているみたいだね?」
タケシ君がきょとんとしていた。
恐らくタケシ君は、今回の苦戦は自分のせいだと思っているんだと思った。
デモンズゴブリンの情報を補完できていなかったために、今回の〝影に潜む〟という攻撃で苦戦を強いられてしまったと思っていそうだ。
それは本当に間違いなんだ。
「今のボスモンスターはデモンズゴブリンじゃないよ。シャドーゴブリンっていう名前だった。おそらく見た目がデモンズゴブリンにそっくりだったんだろうね。だから君が謝る必要はないんだ。今回は完全に俺のミスだよ。どうせ24層以降は情報が無いんだから、事前情報はいらないだろうって判断だったけど、まさか初っ端からこんなのだとは思わなかったよ。本当にごめん。」
俺が最初から【鑑定】していれば問題なかった。
油断していたのは間違いなかった。
だから今回の件は、タケシ君だけのせいというわけではない。
だからこそ俺は、タケシ君にきちんと謝罪した。
それを驚いた様子でタケシ君が見ていた。
俺が頭下げるのはおかしいのか?
俺は慌てふためくタケシ君を見て、ジワリとおもしろくなってきて、思わず吹き出してしまった。
タケシ君も俺が笑い出して事で少しだけ表情が柔らかくなってくれた。
ひとしきり笑いあってから、俺たちは今回のボス戦についての反省を始めた。
「ケントさんはいつ気が付いたんですか?」
「最初に違和感があったのは、ボス部屋の照明の配置が普段と違っていたことかな?」
俺から指摘されてタケシ君は、辺りをきょろきょろと見回した。
タケシ君に伝えた通り、これはいまだに完全には解明されていないが、ボス部屋の照明は大概が規則正しく、上部に設置されていることが多い。
しかし、今回のボス部屋はそれよりも大分低い位置に設置されていた。
並び方も等間隔ではなく、バラバラに配置されていた。
正直これだけではおかしいとは言い難い。
タケシ君も照明配置の違いは分かったみたいだけど、それだけの様だった。
そこで、さらにヒントを出してみた。
「今度は床面を見てみようか。」
俺は床をクイッと指差した。
タケシ君も、それにつられて視線を床に落とした。
そこには俺たち二人の影が並んでいた。
そう、〝異常に長い影〟が。
長さ的にはおおよそ7~8mほどあり、普通の照明ではそうそうありえない長さだ。
おそらく、魔法因子的何かが作用しているのかもしれない。
うん、ダンジョンの不思議。
もしここに最大人数でアタックしたらどうなるか。
答えは簡単だ。
〝長い影が相互に重なり合う〟
つまり、このシャドーゴブリンからしたら、移動がしやすい状況になるという言わけだ。
おそらくシャドーゴブリンは、影から影に移動し攻撃を仕掛けてくるタイプ。
何も対策しなければ、攻撃を喰らいまくっているはずだ。
ただ、今回はシャドーゴブリンとしては不運としか言いようがなかった。
俺たちは二人で行動をしていた。
おかげで互いの影が重なり合うことは無く、最初にタケシ君の陰に潜ってから出るに出られない状況になっていたようだった。
「てっきりボスを視界に入れるたび目に眩しい光が入るので、目晦まし用に設置されてると思ってましたよ。」
「確かにそれもあるだろうね。正体が分からずに分体……いや、あれが影か?を追っかけ続けると、目がやられるだろうね。おそらくそれも作戦のうちだったんだろうね。」
俺たちが反省会をしていると、奥で何かが動く音が聞こえて来た。
ボス部屋攻略が終わったために、次の階への扉が開いたようだ。
ただ今回の予定通り、一度ここで眺めの休憩をとる事にした。
ダンジョンボスはおおよそ12時間でリポップするので、休息するならボス部屋が基本なのだ。
ただし、ボスを退治できない場合は階段などの安全地帯を利用したりもする。
また、隠し部屋などもボス部屋同様にリポップ時間があるので休息部屋に使われていたりもする。
先ほどの物音で現実に引き戻された俺たちは、先ほどシャドーゴブリンが消えた場所に向かった。
ドロップアイテムの確認を忘れていたのだ。
ボスだけあってなかなかよさそうなドロップアイテムが落ちていた。
魔石(中)と真っ黒なマントだ。
「ちょっと借りるよ。【アイテム鑑定】。」
——————
シャドーマント:装備者の気配を薄くして、さらに虚像を離れた場所に作り出す。ただし、本体が攻撃した時点で虚像は霧散する。また、虚像は任意で操作可能。物理武器を装備させることもできる。
——————
「これまたとんでもない装備が出て来たもんだな。うん、これはタケシ君が装備するといいよ。」
俺からシャドーマントを受け取ったタケシ君は、一瞬戸惑いを見せた。
皆まで言うな……どう見ても中二病だ。
シャドーマントは黒のフード付きで、タケシ君の背格好にマッチしており、さらに空中に無数の砲身を浮かべている。
どう考えても、痛々しさがあふれ出る状況だった。
俺もまたそれを想像してしまい、マントを持って困っているタケシ君を直視できなかった。
端目でよく見ると、タケシ君は全身震えており、我慢に我慢を重ねているのが良く分かた。
しかし、性能としては折り紙付きで、回避などで分が悪いタケシ君としては、初撃を確実に当てる点では願ってもない装備でもあった。
それから数分の葛藤の末、タケシ君は装備することに決めたようだ。
自衛隊服の上にレザーアーマー。
さらにその上に羽織る黒マント。
どっからどう見ても中二病……
俺はついに堪え切れなくなり、地面を転げまわった。
さすがのタケシ君もこれには怒りを覚えたようで、一気にスキルを発動した。
笑い転げる俺に向かって、タケシ君が扱える限界値の40門の砲身が狙いを定めていた。
それを見た俺が全力で土下座したのは言うまでもない。
「はぁ。とりあえず、テント設営をしましょう。さすがに疲れましたからね。」
「す、すまない。さすがに……、わ、笑ったら……だ、だめだって……。」
笑い過ぎて息も絶え絶えな俺を見てため息をついたタケシ君。
ある意味諦めたのかもしれない。
テントを張り終えた俺は、さすがにこのままではいけないと思い、きちんとタケシ君に謝罪した。
「分かりました。まずはこれで良いですよ。とりあえず、今レベル上がった分でスキルをどうにかしたいですね。今のままだと俺は役に立ちませんから。」
タケシ君はボス戦を鑑みて、気配をもっと探れるようになりたいそうだ。
確かに【気配察知】出来る出来ないは戦闘に直結するファクターの一つでもある。
ただレベルを下げると攻略に支障が出る可能性すらある。
そこでもう一つの提案をしてみた。
「だったら、不要だと思うスキルと交換するって手もあるけどどうする?」
そういえば【スキルコンバート】について説明していなかったっけ?
俺の説明を聞いたタケシ君は、すぐにスキルの確認を行った。
で、教えてもらった習得済みのスキルは以下の通りだ。
——————
スキル
共通 :世界共通言語 レベル無し
インベントリ レベル3
武器術 :剣 レベル23
投擲 レベル15
体 レベル24
銃 レベル69
武術系 :剣術 レベル20
投擲術 レベル11
体術 レベル14
銃術 レベル67
強化系 :≪アクティブ≫
身体強化 レベル36
≪パッシブ≫
視覚強化 レベル17
体力強化 レベル53
クラフト系:魔道具師 レベル83
その他 :魔銃作成 レベル64
魔弾作成 レベル65
——————
「今使わない感じのスキルは【剣】と【剣術】くらいですね。」
「ん~。それだとほとんどいいのに変えられないな。」
【スキルコンバート】を稼働させても、二つの生贄では足りないようだった。
意外とこのスキルけち臭いのかもしれない。
タケシ君としては今必要となっているスキルが【気配察知】と【魔力察知】の二つだ。
二つとも習得レベルが8だったので現在は減少して4レベルを必要とした。
あとスキル【スキルアップデート】も同じくレベル5となったので、上限の50%に達していた。
ただし、どうやらスキルレベルを上げる際は四捨五入ではなく繰り上げになるようで、必要レベルがレベル1から1・1・2・2・3・3・4・4・5・5と増えていくようだった。
俺はタケシ君に【スキルコンバート】することが難しいことを告げ、【スキルクリエイター】のデメリットを説明する。
説明に納得したタケシ君は、今回は【スキルクリエイター】で二つのスキルを創るに留めることにしたようだ。
それとついでだったので、【スキルコンバート】を起動し【取得経験値上昇】が取れるか確認してみた。
すると、スキル【剣】【剣術】両方を生贄にすることで、取得可能であることが分かった。
それを説明するとタケシ君は躊躇することなく、スキルを生贄に捧げたのだった。
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