071 スキルの活用法

「ありがとう新藤さん。これならまだまだ戦えそうだ。」

「それはよかった。じゃあ、もう一度訓練場で最終確認をしてみよう。」

「はい。」


 駐屯地訓練場は、いつも通り探索者と自衛官が訓練を行っていた。

 自衛官達をよく見ると、俺が前線基地に来る際に同行していたメンバーだった。

 スキル【魔銃作成】とスキル【魔弾作成】もだいぶ慣れてきたようで、実戦形式で訓練を積んでいた。

 その中で一人、二つのスキルに高い適正を示した自衛官がいた。

 男性は20歳くらいで、あまり体格が良い様には見えなかった。

 しかし、その動きというよりも、作り出した魔銃が面白いと思った。

 他の自衛官は魔銃一丁を作成しているのに対し、彼は複数の魔銃を作成していたのだ。

 しかも、その作成した魔銃は、異形としか言いようがなかった。

 簡単に言うと砲身しかないのだ。

 トリガーも無ければストックもない。

 ましてグリップすらないのだ。

 あるのはただの金属製の筒。

 それが空中に8本浮かんでいる。

 そう、浮かんでいるのだ。

 彼はその砲身に意識を向けると、突如その砲身から弾丸が飛び出していった。

 弾丸自体は威力を下げているようで、それほど大きな爆発などは起こらなかった。

 しかし、その後がさらにおかしなことになったのだ。

 その8本の砲身から、次々と弾丸が飛び出していく。

 終いにはその砲身が移動しているのだ。

 普通では考えられない事態に、俺も新藤さんも感心しきりだった。

 その自衛官は一通り確認を終えるとスキルを解除し、空中に浮かぶ8本の砲身も姿を消した。

 男性は少しの時間でかなりの消耗を引き起こしてしまったのか、その場にへたり込んでしまった。

 おそらく練度の問題で、うまく制御できていなかったんだろうな。

 しかし、これから先、彼があれを十全に扱えるようになれば、ワンマンアーミーだって夢ではないのかもしれない。

 そう思わせるスキル運用だった。


 そんな彼らを横目に、俺は新調した装備の装着を始めた。

 新藤さんは装着のしやすさも加味しており、不自由なく装着することができた。

 装着感も違和感が無く、重さも特に問題になるほどではなかった。

 むしろ以前着けていた装備より軽い様にさえ思える。


「軽いですね、これ。」

「そうだね、補強部や接合パーツなどは全部魔鋼材の一つ【魔靭鋼(まじんこう)】というのを使っているんだ。軽いうえに強さと粘りのバランスが良い鋼材だよ。これは特に珍しい鋼材じゃなくて、ここに居る探索者なら頑張れば手の届く範囲の鋼材だ。それと、レッサードラゴンの皮と外鱗がやはり決め手だね。」


 俺はその場で跳躍したり、前後左右への移動を行ってみた。

 パーツ間の擦れなどもなく、力のロスもほぼないに等しい感じがした。

 一言でいうなれば〝動きやすい〟。

 それはどんなものに変えても最高の性能だった。


「どうだい。なかなかうまくできただろ?最後のとっておきだ。これも予定外の効果なんだけど、皮鎧に意識を集中してみてごらん。」


 俺は新藤さんに言われた通り、意識を川鎧に集中してみる。

 するとどうだろうか、体が軽く感じ始めたのだ。

 俺は思わず「おわっ!?」って変な声を上げてしまった。

 体重が半分になったとかそうではないが、明らかにふわりとした感覚があるのだ。


「驚いたようでよかったよ。それはその装備の特殊機能で【飛翼】というらしい。【鑑定】で調べたらそうだったんで間違いないだろうね。」


 俺は慌てて、自分の装備を鑑定してみた。

 何だこの壊れ装備……

 

——————


白群劣竜の皮鎧(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】

白群劣竜の腰鎧(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】

白群劣竜の小手(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】

白群劣竜の兜(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】

白群劣竜の具足(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】

白群劣竜の靴(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】


——————


 通常性能はもとより、確かにセット効果で飛翼と書かれていた。

 更に鑑定をかけるとその効果が理解できた。


——————


飛翼:ドラゴン種の飛行方法を模倣。全身に魔力を纏うことで重量を軽減できる。


——————


 俺は、その効果に唖然としていた。

 まさかと思い、さらに魔力を上乗せしてく。

 体から徐々に装備に流れ込んでいくのが、感じ取れていた。

 次第に体が浮いていくかのような感覚がしてきた段階で、集中を中断した。

 俺はその場に膝をつき、息切れを起こしているかのように浅い呼吸を繰り返していた。


「ケント君!!大丈夫かい?!何があったんだ?!」


 新藤さんも慌てて駆け寄ってきた。

 俺は新藤さんに問題無いといったものの、立ち上がろうとしたが足に力が入らなかった。

 思わず膝立ち状態からそのまま座り込んでしまった。

 荒れた息を整えながらステータスを確認すると、その理由が良く分かった。

 SPが尽きかけていたのだ。

 おそらく、飛翼を発動させるのに必要なSP以上、注ぎすぎた為に起こった可能性が高かった。

 いわばテスト段階の事故のようなものだ。

 事実その通りで、初期の軽く感じたときには、特に問題が無かったのだ。

 つまりは、まだ使いこなせていない証拠でもあった。


 俺は少し休憩を取る為、訓練所の端に移動して座り込んだ。

 新藤さんもこれ以上はテストが難しいと判断したようで、一旦中断することにした。

 新藤さんが飲み物を買ってきてくれるということで、少しばかりその場を離れた時だった。

 同じく訓練をしていた自衛官が俺に近づいてきた。

 誰かと思ったら、先ほどまで魔銃作成と魔弾作成の訓練をしていた男性の様だった。


「中村さんですよね?改めてお礼を言わせてください。ありがとうございます!!」

「いったい何のことです?」


 青年自衛官が突然頭を下げたことで俺は少しばかり困惑してしまった。

 お礼を言われるようなことをしたつもりはなかったんだけどね。


「中村さんが教えて下さったスキルのお陰で、自信を取り戻すことができました!!ですので、中村さんは俺の恩人です!!」

「恩人だなんて、俺は特に凄い事をした訳じゃないですよ。さっき見てましたが、あれはあなたが努力した結果です。俺はそのきっかけにすぎません。」


 青年自衛官はまだ興奮冷めやらぬという顔で見つめてくるものだから、なんだかこそばゆくなってしまった。

 

「そうだ、教えてほしいんだけどいいかな?」

「なんでしょう?」


 満面の笑みを浮かべる青年自衛官……、うんあれだ、ワンコだなうん。

 

「いやね、一緒にスキルを習得した自衛官はいっぱいいたでしょ?それなのに君みたいな使い方をしている人は見たことが無いんだ。」

「それでしたら、たぶん俺のもともとのスキル【魔道具師】が関係していると思います。魔銃作成と魔弾作成と組み合わせて使ってるんですよ。仲間内ではスキル【金剛】なんてので身体を堅くして、魔銃作成でアサルトライフルみたいなやつ作って、特攻している奴もいます。」


 なるほどね。

 今まで自分が培ってきた〝スキル経験〟と、俺の与えた新しい〝スキル〟。

 双方を活かし、自分の中で昇華していく。

 これはまさに進化といっても過言ではないかもしれないな。


 この時俺はなぜか不意に腑に落ちた気がしていた。

 おそらく【スキルクリエイター】は、そのためのスキルなんじゃないかと。

 生物の進化の加速装置。

 生物の進化が停滞したときに、このスキルで強制的にさらに上に進めることができる力。

 まさに神の権能であると。


「そうだ中村さん。出来れば一度手合わせ願えませんか?弾丸は非殺傷の物を使うので。」


 青年自衛官の誘いは願ってもないことだった。

 実践まではいかないものの、創造の敵相手に動いたところであまり意味をなさないから。

 

「そうだね。装備のテストも兼ねてお願いできるかい?」

「お願いします。」


 俺の承諾を得たことで、一層その笑顔をはじけさせる青年自衛官。

 うん、若いって言いな……

 

「そうだ、名前聞いてなかったね。俺はケント。中村剣斗だ。」

「俺は、陸上自衛隊 東北方面隊 所属の多田野 三等陸曹であります!!」


 俺は多田野君と握手を交わし、互いのSPの回復を待ってから、訓練場の中央へと移動した。

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