070 新装備の力

「それにしてもさすが新藤さんだ。違和感なく振り回せる感じがする。」


 俺は、その場をごまかすように、縦に横にと剣を振り回してみた。

 もちろん、ちゃんと装備の確認をしていますよ?というアピールだ。

 徐々に剣先の速度も上昇し、ひゅんひゅんという風切り音を立てて、剣界とでも呼べばいいのだろうか、結界のようなモノを形成していた。


 一通り剣の癖を確認した俺は、新藤さんに借りていた剣を返すとテストを終了した。

 するとどうだろうか、テストを見守っていた自衛官や、周辺に居た探索者までもが拍手で称えてくれた。

 我流の剣捌きにみんなが興奮してしまったようで、なんとなく居た堪れなくなってきた。

 その万雷の拍手にこそばゆいと言えばいいのか……でも、悪い気はしないかな。

 拍手の中、俺は新藤さんと共に訓練場から帰ることにした。

 

「ありがとうございます。これでお願いします。」

「わかった。それにしてもケント君。しばらく見ないうちにAクラスでもおかしくないような戦い方をするようになったんだね。僕が最後に見たのはFランクの時だから、それもそうか。うん、じゃあ店に戻ろうか。」


ーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、どうしたものか……彼のスタイルはあまりにも異質過ぎるな……」


 ケントの戦闘スタイルを確認していた新藤は、装備品の形状などに思いを巡らせていた。

 あれだけの高速戦闘……しかも結界を足場にした立体機動戦を確立していた。

 新藤としても今まで見たこともない戦い方だったために、その正解が分からなかった。

 下手に重量をつけてしまうと、せっかくの速度が落ちてしまう。

 しかし、重量を下げると防御面で心もとなくなってしまう。

 出来ることなら生きて生きて生き延びてほしい。

 新藤はそう思っていた。

 なぜならば、新藤の家族はもうここにはいないからだ。


 新藤はケントに、自分の願いとともに、スタンピートの話を聞かせた。


 前回のスタンピートの際、家族はシェルターハウスへ避難が出来ていたようだった。

 辛うじてつながった電話で、安否の確認を互いに行い、無事を知り一安心していた。

 ところがその後、新藤はスタンピートの波にのまれてしまった。

 一命は取り留めたもののその後、自衛隊を通して彼はさらに絶望に突き落とされた。

 そう、新藤の家族が避難していたシェルターハウスは壊滅していたのだ。

 偶然にもそこは、美鈴の友人たちが避難していた場所でもあった。


 だからだろうか、新藤は極力自分が関わった人間には、何としてでも生き抜いてほしいと願うようになっていた。

 その思いに応える様に、新藤は2つのスキルを開花させていた。


——————


スキル【残存】:周囲が死を迎えようとも、なおも生き抜く意志と成る。発動時HP1割で耐える。クールタイム1日。

スキル【スキル付与】:自身が保持しているスキルを、付与することができる。成功率レベル×2%。SP:50。


——————


 このスキルは、新藤の願いそのものでもあった。


———閑話休題———

 

「ケント君。明後日には武器・装備品の引き渡しができると思う。それまでは身体を休めていなさい。これから先、君はまだ動き続けるんだろう?休めるときに休まないと、君まで壊れてしまう。良いね?」

「はい、宿舎を借りますのでゆっくりさせてもらうつもりです。」


 その後新藤さんと二言三言言葉を交わした俺は、店を後にした。

 既に時刻は夕方を回っており、晩景美しくそびえる富士が、神々しく燃えているようだった。

 きっとあの麓にはカイリ達が居る。

 新たに迎える相棒とともに、カイリ達の待つあの場所へ行くことを新たに決意した。


 それから2日後、俺は新藤さんの店舗へと足を運んだ。

 今日は新たな相棒と対面の日だ。

 緊張と期待が入り混じった気持ちで、なんとも不思議な感じがしていた。

 

「おはようございます、新藤さん。」

「おはようケント君。出来てるよ、君の相棒。」


 店の中に入ると、新藤さんはカウンター脇に準備していた物の布を取り払った。

 中から出て来たのは青味がかった防具一式と、同系色で統一された一振りの剣だった。

 俺は魅入られるようにして、防具一式を確認していく。

 その青は、おそらくレッサードラゴンの色だ。

 青白くかつ沈み込むようなその色は、雄大な泉を思わせる色合いだ。

 あまりの出来栄えに、ごくりと喉が鳴ってしまった。

 今の自分にふさわしい装備なのかと思わざる終えない程、ほれぼれしてしまう出来栄えだった。

 そのほかにもいくつかの素材が使われており、以前装備していたガルム種の皮や牙も再利用されているようだった。


「どうだい。なかなかいい出来栄えだろう?」

「はい……素晴らしいです。それに四魔狼の装備も使ってもらったようで……。これからもやっていけそうです。」


 俺は出来立ての装備品を手に取って、その感触を確かめた。

 この装備のもととなった武具は、俺にとってとても思い入れのある素材が使われていた。

 美鈴と涼子さん、それに美織さんとともに潜った、最後のダンジョンで回収した素材で制作してもらった装備だったから。

 

 それから俺はその装備と共に、ダンジョンに潜り続けた。

 焦りからか、あまりにも過酷な潜り方をしたせいで、周りのみんなに心配をかけてしまったようだった。

 その為か、終いには美鈴たちは着いてこれなくなってしまっていたっけな……


「そんな潜り方してたら、いつか取り返しのつかないことになるよ!!」


 美鈴から口すっぱいく言われてたな。

 だけど、その時の俺は止まることが出来なかった。

 今考えれば、強迫観念にとらわれていたのかもしれない。

 本当に悪いことしたな……

 

「じゃあ次だね。これを。」


 新藤さんは、一緒に立てかけてあった一本の剣を差し出してきた。

 俺はその剣を受け取ると、確かな重さを感じていた。

 防具もそうだが、剣にも新藤さんの思いが込められてるのが手に取るようにわかる。

 ゆっくりと鞘から剣を抜き出した。

 すらりと抜け出たその剣の姿は、神々しくもあり、寒々しくもあった。

 例えるならば防具とは反対で、どこまでも深く深く、何者も飲み込もうとしているとさえ思える。

 そんな色合いだった。


 俺は確かめるように、その剣をゆったりと振ってみた。

 するとどうだ、先ほどまで感じていた重さがウソのように消えてなくなった。

 それどころか、自分の体の一部ではないのかと錯覚さえ覚えたのだ。


「新藤さん……これはいったい……」

「不思議でしょう?この剣にはねレッサードラゴンの心核と逆鱗を使ってあるんだ。ほらそこ、剣の束の部分に心核が。鞘には逆鱗が埋め込まれてるんだ。そうしたら意志でも持っているんじゃないかって思えるほど、僕が持つと重さをいつもより感じてしまったんだ。」


 俺は新藤さんの言葉に耳を疑った。

 普通そんなことはあり得ない。

 

「だからじゃないけど、その剣には意志が宿ってるんだと思う。レッサードラゴンの意志がね。だから君が持った途端軽くなった。剣が君を認めたんだろうね。」


 俺は正直信じられなかった。

 そんなオカルトみたいな話……

 しかし、今の世界ではありえるのかもしれないとも思っていた。

 オカルトよりもファンタジーなこの世界で、〝あり得ないことがあり得ない〟を幾度となく経験してきた。

 だからこそ、剣の意思を強く否定する事が出来なかった。


 俺は、その剣を強く握りしめ剣に問いかけた。

 返事など帰ってくるはずもないと思いながら。

 しかし、それは起こった。

 魔力とでもいうようなものが俺の体から出ていき、剣に吸い寄せられる感じがしていた。

 次第に、剣は魔力を帯び、光り出した。

 その光に群がるが如く、周辺の水分が剣へとまとわりついたのだ。

 その状況に俺も新藤さんも、驚きを隠せずにいた。


 それはまさに、魔剣といっても過言ではないモノになっていたのだ。


 そして俺の中に剣から何かが流れ込んできた。

 イメージのような、そんな感じのものが。

 これが剣の感情?意思?


 俺はついそれを口にしていしまった。


「魔剣……レガルド……。そうか、これがお前の名だったのか……レッサードラコン。」


 次第に魔力は落ち着きを見せ、光が収まると同時に剣は元の姿に戻っていった。

 俺は確信した。

 この剣と防具があれば、まだまだ強くなれると。

 カイリ達に追いつけると。

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