029 突きつけられた現実

 僕がホブゴブリンの首を落とし、戦闘が終わった。

 周辺警戒をしていたアスカが残敵がいないことを確認し、すべてが完了した。

 前回何もできずに終わったカレンとアスカは、いまだに杖を握りしめ、体をこわばらせていた。

 カイリは前回同様、討伐を完了させることができ、ほっとしているようだった。


 しばらく感慨にふけっていたが、このままここにいて良い訳は無いので、ドロップアイテムの回収を進めていく。

 今回はゴブリン10匹とホブゴブリン1匹だった。

 拾い集めたアイテムを確認すると、


 魔石(極小) 5個

 魔石(小) 1個

 錆びた斧 1本

 棍棒 4本

 腰布 11枚


 となった。

 腰布はそのまま放置することにして、そのほかをすべてインベントリにしまい込んだ。

 作業中もアスカとカレンは、心ここにあらずの状態だった。


 全て作業が終わり、手分けして集落を見て回った。

 3人には小さな小屋の確認をお願いした。

 僕は一回り大きい、おそらくホブゴブリンの根城と思われる建物へと向かった。


 ……3人をここに来させなくて正解だった……


 そこにはおそらく人骨と思われる骨や、切り裂かれた装備品。

 そして研修で配布された武器類が散らばっていた。

 装備品には女性用の物も含まれており、おそらくここを襲撃して返り討ちにあったのだろう……

 吐き気を気合で抑え込み、遺品の回収を行った。

 生物はインベントリに収納できないみたいだけど、骨などは収納することができた。

 あらかた回収終わると、ライセンス証なども出てきた。

 それを確認して確信に変わった。

 これらの遺体は……おそらく僕と同期だ。

 確か……そう、座学の時積極的に質問などをしていた子だ。


 僕はここが現実世界であることを強く再認識させられたのだった。



 建物から出ると、3人とも捜索を終えて集合していた。

 小さな小屋には特に変わった物はなく、動物の皮が敷かれていただけだったそうだ。

 正直迷った。

 このことを言うべきか……

 3人がこのまま探索者を続けていけば、必ず巡り合うことになるであろう事柄である。


 僕はしばらく迷った末に、3人に話さなければならないと思った。

 これから先3人が探索者を続けていくためにも。


「3人とも聞いてほしいことがある。まずはこれを見てくれ。」


 そう言って僕はさっき拾った、数枚のライセンス証をインベントリから取り出して見せた。

 カレンはそれを見た瞬間に、理解したみたいだ。

 顔は青ざめ口元に当てた手が震えていた。

 少し遅れてカイリとアスカも震えていた。

 そう、これが僕の手に有るということは、持ち主はもう……


「よく見てほしい。これが現実なんだ。さっきのホブゴブリンの武器もおそらく探索者から奪ったものだと思う。そして、強い個体がいるということは、モンスターもレベルが上がっている可能性がある。これから先探索者を続けていけば、必ずぶつかることだと思う。だから、3人とも……引き返すなら今だ。まだ命があるうちに……。彼らはもう、引き返すチャンスすらなくなったんだから。」


 僕の言いたいことが伝わったのか、3人ともうつむいた顔を上げて頷いた。

 そして、僕を強い目で見つめてくる。


「私はこのまま続けます。そりゃ、怖いですけど……。でも、それでもやると決めましたから。」


 カイリはあの時すでに覚悟を決めていたのかもしれない。

 だからこそ、今回の戦闘では全く躊躇がなかった。

 慌てず、騒がず、冷静に。

 ただホブゴブリンを倒すことだけを考えていた。


「そうですね、ここで逃げたらきっと後悔します。それにカイリだけ放っておけませんから。」

「ん~、そうですよね?カイリちゃん、なんだかんだでおっちょこちょいですからねぇ~。」


 カレンはやはりオカンだった。

 心配性全開だったから。

 アスカの言葉にカイリは抗議の声を上げた。


「ひどいよアスカちゃん。私そんなにどんくさくないからね?ケントさんも信じてください!!」


 二人のやり取りで場の空気はだいぶ緩和されていったのだった。


 3人の覚悟を聞いた僕は、今日の探索を終える提案をした。

 すでにSP残量が3割を切っており、継続戦闘は難しいと判断したからだ。

 3人に確認すると、3人とも3割を割り込んでいたため了承してくれた。


 出口に向かって出発しようとした時だった。

 そういえばと、アスカがレベルについて話し始めたのだ。

 どうやら話をまとめると3人とも10レベルを突破し、ランクアップの試験資格を得たらしい。

 僕はまだ10レベルに達していなかったため、申し訳なさそうにされてしまった。

 僕としてはたいして気にはしていなかったのだが、3人からしたら何か負い目を感じてしまったのかもしれない。


 3人にはまだ帰り道に戦闘があるはずだから問題ないと伝え、帰路についたのであった。


 第1層までの帰り道でそれなりの数のモンスターと遭遇することになった。

 戦闘は大して苦労することもなく、危なげない戦いで終始した。


 結局討伐数はこうなった。


・スライム 8匹

・ゴブリン 4匹

・ハンティングウルフ 5匹


 上記討伐完了

 ドロップアイテム


・魔石(極小) 9個

・スライムゼリー 2個

・腰布 4枚

・こん棒 3本

・ハンティングウルフの毛皮 1枚

・ハンティングウルフの牙 1枚

・ハンティングウルフの爪 2本


 やっぱり4人パーティーで行動すると、対応が早くてゆとりが持てるのがいい。


 【トランスゲート】まで戻ってきた僕たちは、アイテム関連の整理を行った。

 各自回収したドロップアイテムをまとめて精算して、4等分することにしたのだ。

 

 一日潜って集まったドロップアイテムは以下の通りだ。


・魔石(極小) 24個

・魔石(小) 3個

・スライムゼリー(青) 4個

・こん棒 11本

・ハンディングウルフの毛皮 2枚

・ハンディングウルフの爪 7本

・ハンディングウルフの牙 4本

・ハンディングウルフの骨 1本

・ハンディングウルフの肉(1Kg) 1個

・錆びた剣 1本

・錆びた斧 1本


 なかなか悪くない数だと思う。

 今回はあくまでお試しであり、それほど潜ったわけでもない。

 しかも、かなりゆとりを持った状態でこれだけ集まるのだから、パーティーの有用性は証明されたも同然だった。


 一旦僕が代表で回収して、清算窓口へと持っていくことになった。



 【トランスゲート】をくぐると、すでに辺りは日が沈み始めており、精算窓口は探索者でごった返していた。

 3人には休憩場所の確保をおねがいし、僕はその列へと並んだ。


 1人列に並んでいると、今日の反省点が頭をよぎった。

 確実に前衛不足だ。

 特に壁役をきっちりこなせる人物が必要で、さらには信頼関係も大事だ。

 それと、斥候か遠距離物理攻撃。

 最後に純粋な物理攻撃職。

 たぶんこの3名が今後必要になると思う。

 ただ、この構想には僕は含まれていない。

 理由は簡単だった。

 彼女たちの足を僕が引っ張ることになるからだ。

 今回、彼女たちは10レベルになったことで、Fランクになれる資格を手に入れた。

 その点僕はまだ10レベルには達していない。

 しかも、僕はスキルを取るたびレベルが下がり、潜れるダンジョンも低レベルのものになってしまう。

 彼女たちをそれに巻き込んではいけないのだ。


 そうこう考えていると、僕の番になってしまっていた。

 預かった資源をインベントリーから取り出して、台の上に乗せた。

 さすがに職員も「ソロの底辺」である僕がこれほど納品するとは思っていなかったのだ。

 あらかた回収してもらったところで、本題に入った。

 そう、手に入れたライセンス証の返却である。

 受付の自衛官から、後日事情聴取を受けてもらうことになる旨の説明があった。

 別に断る必要などないため、軽い調子で引き受けてしまった。


 買取査定の為番号札を渡された。

 終わり次第放送で案内してくれるそうだ。


 席を確保に成功していた3人は飲み物を飲みながら、僕の戻りを待っていてくれた。


「ケントさ~ん、こっちですよぉ~?」


 アスカの声はいつ聞いても緊張感をブレイクしてくれる。

 きっと、ダンジョン内でもかなり有用性がある特技だ。

 3人は待っている間にボーナスポイントの振り分けに困っていた。

 1レベル分なので10P。

 どれに振り分けるかすぐには決まるわけがなかった。

 僕みたいな特殊な環境にある人以外には。


 そうこうしているうちに時間が経ち、査定完了の知らせが入った。


 精算窓口へ行くと、札と引き換えに査定額が示された。

 金額にして34,200円。

 一人頭8,850円になった。

 一日分で考えると若干見劣りするが、安全マージンの広さから見て十二分の報酬であった。

 それぞれが買取金を受け取ると、やはり喜びがこみあげてくる。

 正直パ~~~っと使っていきたいところだけど、僕は家族の中で収入がない……

 なので、このお金は貯金一択になってしまった。


 帰り際に3人に僕が考える、パーティー構成を伝えた。

 カレンは示した構成に納得したようだった。

 特に壁役については早急に決めないと、次も無事で帰れるか保証がない。


 ああでもない、こうでもないと話しながら帰宅の準備を進めていた。

 帰宅準備が完了し帰宅をする為、施設を出ようとした時だった。


 やはりというかなんというか……

 テンプレが向こうからやってくるのだった。

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