028 リベンジマッチ開始!!

 とはいうものの、すぐに攻撃を仕掛けたところで勝てる算段は経たなかった。

 話し合いの結果、さらに観察を続けて準備を万端にしていく。


 集落入り口には、2匹のゴブリンが歩哨に立っている。

 中では焚火などを囲んで、ゴブリン達が騒いでいた。


 ホブゴブリンはというと、奥の方で何かを食べて飲んでいる。

 実際それが何なのか、遠目過ぎてわからない。

 おそらく奥の森に、動物系のモンスターがいる可能性がある。

 その肉なのかもしれない。


 僕らが立てた作戦はこうだ。


①入り口の歩哨の2匹を投擲で攻撃を仕掛ける。

②慌てて出てきたゴブリンに土の針で移動阻害を仕掛ける。

③風の刃と投擲で数を減らす。

④石がなくなり次第、僕が突撃をする。

⑤魔法の援護のもと、速やかにゴブリンを殲滅。

⑥ホブゴブリンと1対4の形を作る。

⑦全力で殲滅する。


 おそらくこれが、今できる僕たちの精一杯だと思う。

 この作戦の肝はいつも通りに、ホブゴブリンとの1対4の形を作る事だ。

 むしろ、それが作れないと勝てる見込みが格段に下がってしまう。

 そのため、この作戦中もアスカには周辺警戒をしてもらい、奇襲等に備えてもらう。

 奇襲ちゃ追加モンスターの気配が確認取れ次第、戦闘を放棄。

 全力で撤退する。


 あくまでもこれはリベンジマッチだ。

 命を投げ打ってまですることではない。

 たぶんこの行為を否定する人がいるかもしれない。

 それでも命は一つしかないのだ。

 死んでしまえばそこで終了。

 ゲームのように神殿で復活とかなんてありえないのだから。


 

 そして全員の準備が終わった。


 僕は手に石を握りしめ、数度深呼吸をした。

 それを合図にアスカが強化バフをかけてくれる。

 カイリとカレンも魔法を発動待機状態にしている。


「いこう!!」


 僕は気合とともに投擲を開始した。

 今回は運がいい。

 2回投げて2回ともゴブリンにきちんとヒットした。

 逆に音が出なかったので、中に気が付かれなかった。

 仕方がないので、わざと一発柵へ投げつける。

 ガゴン!!っという音と共に、集落を囲う柵の一部が破壊される。

 そのせいもあり、集落の警戒度が上がったように思えた。


 集落の出入り口が騒がしくなってきた。

 倒れて動かないゴブリンを見て、仲間のゴブリン達が激高していく。

 怒りに任せてこん棒を振り回している。

 おそらく全ゴブリンが外へと出てきた。

 周辺を警戒しているようだ。

 だが、こちらに気が付くことはなく、何かを叫びながら周囲を伺っていた。

 おそらく「誰だ!!出てこい!!」的な奴だろな。

 敢えてこちらを気が付かせるために、もう一度石を投げつける。

 今度も石は「グシャ!!」っという音とともに、ゴブリンの頭に吸い込まれるが如くクリーンヒットした。


 慌てた周りのゴブリンは、さらに警戒度を上げる。

 やがて1匹のゴブリンがこちらに気が付き、奇声を上げている。

 残りのゴブリン達もこちらに気が付き、奇声をあげはじめた。

 そして、1匹のゴブリンが走り出したのをきっかけに、残りのゴブリンもこちらへ走り出した。


 戦闘開始!!


 カイリの土の針が辺り一面に咲き誇った。

 突如現れた土の針を躱し切れず、けがを負っていくゴブリン達。

 まだまだ元気なゴブリンを標的に、僕は石を投擲していく。

 カレンも風の刃で切り刻んでいく。

 意外とザクザクと切り刻んでいくのに少し引いてしまった。

 僕が石をすべて投げ終わるころには、ほとんどまともに動けるゴブリンはいなかった。

 とどめを刺しに、僕は剣を携え駆けだした。

 僕は、息も絶え絶えなゴブリンの首を斬り飛ばしていく。

 全てのゴブリンの首を落とし切ったころ、ゆっくりとした足取りでホブゴブリンが姿を現した。

 体格も今までよりも一回り近く大きい。

 一番の違いはその手に持つ武器だ。

 僕らの知るホブゴブリンは棍棒を振り回していた。

 しかし、今回のホブゴブリンが手にしていた物は……


 ロングソードだった。


 しかも見覚えがある。

 そう、講習会で見た自衛隊が用意してくれた武器のうちの一つだ。

 つまりはそういうことだ。

 殺して奪ったかのか。

 または拾ったのか……

 できれば拾ったものであってほしい。

 しかしこの世界は変わってしまった。

 命が軽くなってしまった。


 3人から不安な気配が漏れてきた。

 これ以上は危険だ。

 おそらくあれは『イレギュラー』種だ。

 僕たちが戦って勝てるかわからない強さを持っている可能性が高い。

 僕は撤退を提案しようとした時だった。


「ケントさん、少しだけ時間を稼いでもらえますか?試したいことがあります。それとカレン、あのホブゴブリンに竜巻をぶつけられる?」


 正直何を考えているかわからなかった。

 でも、カイリは倒そうと決意をしたらしい。


「もちろん可能よ。今までで一番強烈な突風を吹かせてやるわ!!」


 カイリにつられてカレンも気合を露わにした。


「ケントさんのフォローはかんぺきですよぉ~。」


 気合が入ってるんだかどうなんだかわからないアスカの言葉に、僕も気合を入れなおした。

 一番年上の僕が怖気づいてしまうとは情けないな。

 彼女たちの方がよっぽど強い心の持ち主だと思えた。

 

 ホブゴブリンは手にしたロングソードど片手で構え、こちらに目を向けた。

 それは舐め回すように、値踏みでもするような視線だった。

 僕は剣と盾を構え、じりじりとにじり寄った。

 いくらアスカの強化バフがあろうとも、直撃をもらうわけにはいかない。


「ぐゲギャギャギャ~~~~~~!!」


 そして、奇声を上げて先に動いたのはホブゴブリンだった。

 手にした剣を下段に構えて、突進してきたのだ。


 ゴギャン!!


 轟音とともに衝撃が走る。

 さすがに体当たりの直撃はまずいと思い、横に飛び退きながら左腕の盾に角度をつけて受け流す。

 だけど、覚悟していたとはいえその衝撃はすさまじく、正直あと一発はさすがに無理がある。


 そんな僕の状況をよそに、急停止したホブゴブリンは、下段に構えたまま、再度突進を仕掛けてきた。

 そしてロングソードの間合いに入るや否や、ロングソードで切り上げを行ってきた。

 正直、突進を警戒していたため、下からの切り上げに若干反応が遅れた。

 ぎりぎり盾を滑り込ませて耐えきった。

 耐えきったは良いけど、もう一発は勘弁してほしい。

 

「オマエタチ、オレノムラ、オソッタ。オレ、オマエタチ、ユルサナイ!!」


 僕は一瞬固まってしまった。

 ホブゴブリンが言葉を話したのだ。

 それは紛れもなく知能を持った【生物】であることの証明でもある。


「オマエタチ、オレタチヲナンドモオソッタ。ダカラユルサナイ。ナカマ、タクサンイナクナッタ。イマモコロサレタ。ダカラオレガ、オマエタチコロス!!カタキウツ!!」


 くそ!!思考が鈍る!!反応が遅れる!!

 こいつらからしたら、僕たちの方が襲撃者なのだ。


 僕はホブゴブリンの言葉に耳を塞いだ。

 これ以上聞いてしまうと、もう戦えなくなってしまう。


 それからの攻防は、ホブゴブリンの攻撃一辺倒だった。


 僕は目的の時間稼ぎに終始した。

 何度かホブゴブリンの攻撃の合間に、隙を見つけることができた。

 でも、剣を向けることはできなかった。

 盾と剣を使い、どうにかこうにか攻撃をいなしていく。

 盾でまともに受けると、今度こそ確実に吹き飛ばされる。

 その後に待つのは……後衛への蹂躙だ。

 だから何としてもさばききるしかなかったのだ。


 どのくらい攻防が続いたのだろうか。

 1分か5分か……

 正直もうわからなくなってきた。


 そんな時だった。


「ケントさん行きます!!離脱してください!!」


 カイリの声が聞こえてきた。

 僕はその声に咄嗟に反応し、バックステップで後退した。

 ホブゴブリンは手にしたロングソードを振り下ろすも、そこに僕はすでにおらず、空振りして地面に突き刺さってしまった。

 必死に抜こうとするも、深く刺さってしまいなかなか抜けなくなっていた。


 その隙にカレンの風属性+の魔法が発動した。

 加速に加速をされた風は渦を巻き、竜巻へと成長していく。

 気が付いたときにはすでにホブゴブリンが抜け出せないほどに成長していた。

 ホブゴブリンも危険と判断したのか、ダメージ覚悟で脱出を試みた。

 しかし、そこを見逃すほどカイリは優しくはなかった。

 火属性+で加熱しまくった火の壁を竜巻の周りに発生させた。

 二つの魔法はお互いを飲み込み、さらにその力と熱量を増加させていく。


「グギャ~~~~~!!」


 叫び声をあげながら、中のホブゴブリンが暴れまわっているのを感じた。

 いったい中は何度まで上昇しているのだろうか。


 しばらくして魔法で作り出された業火の竜巻は、その勢いを衰えさせていった。

 そして中から出てきたのは、全身ずたずたに切り裂かれ、焼け爛れたホブゴブリンの姿だった。

 手にしたロングソードは、持ち手以外すべて溶け落ちていた。

 それでもいまだ息があるのは称賛に値する。


 僕は警戒をしつつ、ホブゴブリンにとどめを刺すべく駆けだした。

 こちらの動きを感じたホブゴブリンは、手にした持ち手を投げつけてきた。

 咄嗟にその持ち手を躱すも、一瞬意識がそれてしまった。

 ホブゴブリンはその瞬間を見逃さず、僕へと殴り掛かってきた。


 しかし、ホブゴブリンの攻撃は届くことは無かった。

 ホブゴブリンはカイリの土の棘により、下から心臓を貫かれていたのだ。

 ホブゴブリンは一瞬何があったかわからないような表情を見せるも、己の胸に刺さる棘を見つけ悔しそうにしていた。

 僕は最後に剣を振り下ろし、この戦いの幕を下ろしたのだった。

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