026 大量大量!!

 無事戦闘が終了したので、ドロップアイテムの確認を行う。

 ハンティングウルフ3匹の結果は


・魔石(極小) 1

・ハンティングウルフの毛皮 1

・ハンティングウルフの爪 2

・ハンティングウルフの牙 1


 まぁまぁの結果だと思う。

 3人ともSPはほとんど消費していないみたいで、ハンティングウルフで連携確認を続けることにした。



 第4層への階段が近づくと、ハンティングウルフが5匹群れを成していた。

 一匹は寝そべり、その周辺に4匹が警戒を行っている感じがした。


 一瞬前回の『イレギュラー』を連想してしまったが、そいつとは違い威圧感は感じられなかった。

 強いて言えばやる気がない……かな?周りを警戒するでもなく、大あくびをしていたり。

 おそらくホブゴブリンと同じで、通常種のハンティングウルフに〝個体差〟が発生しているのかもしれない。

 多分だけど、これが自衛官が言っていた異変なのかもしれないと思えた。

 もしかすると、この個体差が大幅に生じた個体が、『イレギュラー』へと成長しているのかもと考えてしまう。


「ケントさん……。中央の個体ですが……ただのハンティングウルフとは思えません。どうしますか?」


 おそらく、僕の無駄な思考が伝わってしまったのかもしれない。

 カイリも不安そうに、僕に訪ねてきた。

 正直、戦ってみないとわからないのが今の現状だ。


「あの真ん中のふわふわウルフはだいじょうですよぉ~。やっちゃいましょう~!!」


 アスカが、またもいいタイミングで声をかけてくれた。

 パーティーに漂っていた不安な空気が、一瞬にして霧散していった。

 なんだかんだ言ってアスカは、いいムードメーカだな。

 僕たちは気持ちを切り替えて、戦闘の準備を始めた。

 アスカに全員分のバフをかけてもらい、カイリ・カレンは魔法の即時行使の準備を始めてもらう。

 カイリ・カレンの準備が整い次第、手元にある石の連続投擲を行う。

 別に石は当てる気はなく、相手に警戒心を持たせて集まってくれれば御の字だ。


「ケントさん!!」

「OK!!これでも喰らえ!!」


 僕は手にした石を、全力で投げまくる。

 当たる当たらないは二の次で、あいつらの一匹でも削れれば御の字だ。

 すると、運よく手前2匹のハンティングウルフに命中し、昏倒させることに成功する。

 2匹の倒れた理由が僕たちだと理解したハンティングウルフたちは、こちらを視界に捕らえ、一気に警戒度を上げたようだ。

 唸り声と共に、中央にいた一回り大きなハンティングウルフが、その重い腰を持ち上げるように、ゆっくりと立ち上がる。

 その姿に、どことなく気品を感じてしまった。

 これもまた個体差なのだろうか。

 立ち上がって見えてきたその毛並みは、他のハンティングウルフが茶のくすん色に対し、深雪を思わせるような白と青が入り混じるような、そんな深く淡い色をしていた。


 カイリ・カレンは範囲攻撃の魔法を行使した。

 カイリは先ほどよりも広範囲に無数の土の針を発生させる。

 しかし無警戒ではなかったためか、うまく致命傷を避けるように回避されてしまう。

 その為、手傷を負わせた程度で、殲滅までは至らなかった。

 カイリに次いで、わざと拍をずらして発動された、カレンの魔法。

 僕もはじめは、周囲を回るそよ風と思っていたが、急速にその風が強くなっていく。

 戦闘領域中にすでに風魔法を待機させていたようだった。

 だからこそ、ハンティングウルフたちの反応が一瞬だけ遅れたように見えた。

 異変を感じた中央のハンティングウルフは、とっさにその場から飛びのき難を逃れたが、遅れた2匹は発生した竜巻に飲まれていった。

 風がやみその場を見ると、ずたずたに切り裂かれたハンティングウルフが横たわっていた。

 おそらく竜巻の中に風の刃を発生させたのだと思う。

 少しひきつった顔でカレンのほうを見たが、小首をかしげられていしまった。

 うん、怒らせてはいけない……


 1匹残ったハンティングウルフは、周囲の状況を確認するようにゆっくりと歩を進める。

 先ほどのカイリ・カレンの魔法で息絶えた仲間の元へ行き、その身体の傷をそっと舐め、覚悟を決めた表情が窺える。

 その表情は悲しみと、怒りと、苛立ちと、いろんな感情が渦巻いているように見えた。

 モンスターにもまた感情があるのかと思わずにはいられなかった。

 

 だからこそ、剣を構えハンティングウルフと相対した僕もまた、覚悟を決める。


 僕は盾を前方に構え一気にその距離を詰る。

 ぎりぎりまで剣を身体の後ろに隠し、その挙動を悟られないようにした。

 ハンティングウルフはそれを見越してなのか、少しだけ後方に飛び退き、僕の攻撃の起点をつぶしてくる。

 その距離感が絶妙過ぎて、僕は剣を振らされてしまった。

 クソ!!やられた!!

 こちらの隙を狙うかのように、その鋭い爪が胴を薙ごうとしてきた。

 鋭い爪と身体の間に左腕の盾を強引に潜り込ませ、何とか防ぐことに成功した。

 バフがかかってなかったら確実に食らっていたと思う。

 そして、確信に変わった。

 この個体は……成長している。

 明らかにほかのハンティングウルフとは強さが違った。

 前なら最初の一撃で切り裂けていたはずだ。

 しかし今回は確信をもって攻撃を潰された。

 焦りから荒れた呼吸を整えながら、ハンティングウルフに向き直った。

 相手もまた、こちらの様子を見るようにしてうなり声をあげていた。

 だがどことなくだけど、その表情に余裕が生まれているように思えた。

 今の攻防で勝利を確信したかのように……

 だがその時間も長くは続かなかった。


ぎゃうん!!

 

 目の前で睨みあっていたハンティングウルフが、いきなりつぶれてしまった。

 文字通りぺしゃんこに……


「へ?」


 僕は何が起ったのか訳も分からず、思わず間抜けな声をあげてしまった。

 個体差のハンティングウルフとの戦闘は、あっけなく終了した……


 後ろを振り返ると、カイリが何か申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。

 どうやらカイリが、土属性+でハンティングウルフに10倍近い加重をかけたそうだ。

 つまりハンティングウルフは自身の重みに耐えられずにつぶれてしまったようだった。

 ちなみに、カイリになぜ最初から使わなかったのか聞いたところ、射程が短く、溜めも長いため、動き回っている相手には使い難いんだそうだ。

 丁度僕たちが良い感じに戦闘で盛り上がってくれていたから使えたんだとか。

 つぶされて息絶えたハンティングウルフを見つめて、僕は思わずため息をついてしまった。

 やはりソロの感覚がまだ抜けていないようだった。

 わざわざ一人で戦う必要などなかったのに。

 確実に自分一人で倒すための動きになっていた。


 その点3人は、パーティーとして倒すことに終始していた。

 カイリで倒せなかったとしても、カレンが風属性魔法で切り裂く準備を始めていたように。


 3人に頭を下げたら、大いに笑われてしまった。

 ちなみに、最初の昏倒したハンティングウルフ2匹は僕が戦闘している間にカレンが魔法で切り裂いていた。南無……


 ふと、アスカがつぶされたハンティングウルフを見てつぶやいた。


「あのこ……おかあさん?」


 その言葉にぎょっとしてしまった。

 ありえない!!

 

 いやちがう、なんであり得ないと思ったんだ?あまりにもおかしすぎる。

 なんでこんなにもあっさり受け入れているんだ?

 なんでこんなにもあっさり否定するんだ?

 ダンジョンといい、モンスターといい、スキルにステータス。

 すべてがおかしすぎる。


 つぶれされたハンティングウルフウルフのおなかがわずかに動いたような気がした。

 そして、光の粒子となりダンジョンへ消えていった。


 まさか……まさか……いや、違う。

 違うはずだ……


 自称神は言った。

 生物の進化だと……それは人だけとは限らない……

 虫も動物も……

 そしてモンスターも……か……

 これはまじめにやばいかもしれない……


「どうしたんですか?顔色が悪いですよ?」

「ごめんごめん。少しぼぉ~っとしてた。」


 カイリが心配して声をかけてくれた。

 どうやら、考え事をしすぎて動きが止まってしまっていたようだ。

 問題ないとカイリに告げると、ほっとした表情で笑いかけてくれた。


 気を取り直してドロップアイテムの回収をしていると、今回はあたりだったらしい。


 ハンティングウルフ5匹の討伐


・魔石(極小) 2

・魔石(小) 1

・ハンティングウルフの牙 2

・ハンティングウルフの爪 3

・ハンティングウルフの骨 1

・ハンティングウルフの肉 1


 魔石(小)がドロップするのは珍しいことだった。

 おそらくだけど、あの個体差のあるハンティングウルフの物だろうな。



 ドロップアイテムの回収を終えた僕たちはここまでの反省点をまとめてみた。


①連携はまずまずの及第点。

②魔法に頼りすぎる傾向にある。

③近接攻撃が1名だと、手数が足りない。

④防御面はワンミスで崩壊する可能性が高い。


 これらの課題は、間違いなくパーティーメンバーの構成が起因していると思う。

 最大6人までと考えると、タンクが1名とアタッカーか斥候が欲しいところだ。

 ないものねだりをしても仕方がない。

 今後の課題として、このまま組むのであればメンバーを増やす必要が出てくると思う。


 4人であらかた話し合いを終えると、この後についての話し合いとなった。

 3人ともSPの残量的には、まだまだ余裕があるとのこと。

 なら、無理のない範囲でこのまま第4層を目指すこととなった。



 

 そして階段を降りると、そこにいつもの草原が広がっていた。


 今思い返せばこの時、違和感を感じるべきだったと思う。

 さっきまで考えていた生物の進化についての怖さが、すでに無くなっていたのだから。

 そう、それが『当たり前』と思ってしまっていた。

 やはりこの世界は壊れてしまっていたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る