025 魔法は偉大だ

 バスに揺られている間もワクワクが止まらなかった。


 久しぶりのきちんとしたパーティー戦闘。

 逆に足手まといにならないか心配だった。


 バスは順調に山道を進み、いつものように訓練施設前のバス停に停車。

 訓練施設につくと、3人が入り口で待っていてくれた。


「おはようございます、ケントさん。」

「おはようございます、カイリさん。それと、カレンさんにアスカさんもおはようございます。今日は一日よろしくお願いしますね?」

「はいですぅ。」

「ほら、アスカさん‼挨拶はきちんとなさいと何度言えばわかるんですか?!」


 朝から元気な3人を見れて、少しほっとしてしまった。

 やっぱりどこか緊張していたのかもしれない。


 僕たちは朝の挨拶を済ませて、ダンジョンの受付へと移動を開始した。


ーーーーーーーーーー


ガサゴソガサ


「……………」


 陰から4人の姿を覗く一人の姿……

 それはどこか暗く、そして濁りを感じさせる、そんな気配だった。

 だがこの時4人はそれに気が付くことはなかった。

 ケントが【気配察知】を習得していれば、あるいは……


ーーーーーーーーーー


「あらケントさん。今日はおひとりではないんですね?」


 いつもの受付の女性自衛官に問われてしまった。

 うん、どうやらボッチ認定をされてしまっているらしい。

 泣いていいですか?


「えぇ。今日はこの子たちと仮でパーティーを組んでのアタックです。問題がなければ正式に組みましょうって話なんです。」

「そうだったんですね?なるほど、両手に華でよかったですね。」


 少しほっとしたような表情を見せた受付の女性自衛官は、少し冗談交じりで視線を後ろの3人に向けていた。

 

「年齢的には保護者ですね。」

「確かにそうですね。では気を付けて行ってきてくださいね?最近なんだかダンジョンに異変が相次いでいますから。」

「忠告感謝します。じゃあ、いこっか?」


 自衛官とのやり取りの後、僕たちはダンジョンへと足を踏み入れた。


「き、緊張しますねぇ~。」


 なんとも間延びした緊張感がないアスカの声に、少し転びそうになってしまった。

 この子は狙ってやっているのか、天然なのかよくわからない。

 悪い子ではないんだけど。


「アスカさん、あなた全然緊張しているように見えないわよ?」


 カレンの言葉はもっともだと思った。

 うん、カレンは完全にアスカのおかん的存在なんだろうな。

 そんな二人のやり取りを見ていたカイリが、僕の服の袖を引っ張って耳打ちをしてきた。

 どうやらカレンは〝アスカのおかん〟と言われるのを気にしているらしい。

 教えてくれて本当に助かった。

 危うく言いそうになっていた。


 【トランスゲート】を抜けると、いつものようにダンジョンが広がっていた。

 普段から入りなれているとはいえ、今日はいつもと違う環境だ。

 否が応でも緊張感が漂ってしまう。


「ケントさん、よろしくお願いしますねぇ~。」


 またも狙ったかのようなアスカのセリフに、かくりと膝が抜けるような気がしてしまった。

 そのおかげた程よく緊張がほぐれていった。

 本当にこの子はある意味すごい子なのかもしれない。


「3人ともリラックスしていこう。第1層・2層ともに問題なく抜けられるんだから、肩ひじ張る必要はないでしょ。」


 さっきまで緊張していた僕が言っても説得力がゼロなんだけどね……

 

 3人とこれからの予定を確認してダンジョンアタックを開始した。

 まずは第1第2階層で個々の戦闘能力の確認。

 第3層で連携の確認。

 可能なら第4層に行ってみる。


 ある程度戦闘をしてみて思った。

 カイリとカレンの魔法攻撃はすごかった。

 カイリは火と土の魔法スキルで、足止め・攻撃両方をこなしていく。

 カレンは風魔法で範囲せん滅を得意としていた。

 アスカは戦闘手段が限られているために、個人戦はしないことにした。

 その代わり回復・支援役として随時バフをかけてもらった。

 僕はバフの性能に驚きを隠せなかった。

 アスカのバフのおかげもあり、僕の攻撃はさらに鋭さを増していった。

 普段なら1匹づつ倒していくのに、今回はまとめて相手をしても苦労をしなかったのだ。

 こうしてみるとアスカのサポート能力と状況判断能力はかなり高いと思う。

 なぜ、前回は失敗したのか聞いてみたら、パーティーとしての行動はすべてシンが決めていたようだった。

 当時シンは戦闘に夢中になり過ぎて、完全に別動隊のゴブリンを見落としていたそうだ。

 アスカが気が付いた時には前衛3人が突出してしまい、シンとの距離が離れてしまっていた。

 そのせいで連携が取れず、結果強襲を受けてしまったそうだ。

 ほんとパーティー戦はソロとは違うのだと、改めて思い知らされた。


 そして第1層第2層での戦果


・スライム7匹

・ゴブリン3匹


 討伐成功


 ドロップアイテム


・魔石(極小)5

・スライムゼリー2

・ゴブリンの腰布3

・棍棒2

・ゴブリンの頭蓋骨1


 当然のことながら腰布と頭蓋骨は捨てていくことにした。

 誰が好き好んで収納するのだろうか。

 むしろ需要はどこにあるのだろうか。

 これはあれか、ダンジョンのいやがらせ的なものなのかと、無駄に考えてしまった。

 それにしても捨てていった物はその後どうなるか……

 気になるところだ。


 ある程度個々の戦闘能力を把握した僕たちは、第3層へと足を踏み入れたのだった。


 第3層へ到着した僕たちはすぐに周囲の警戒を行った。

 僕が前回陥った状況を説明しており、3人とも警戒を密


前衛:僕

中衛:カイリ カレン

後衛:アスカ


 能力的に見て、このような隊列にすることにした。

 前方の警戒を僕が行い、アスカに後方警戒を一任した。

 後方で異変があった際は、カイリによる足止めで隊列を再構成する手はずとした。

 正直なところ、防御の堅いメンバーがもう一人いれば前衛を任せて、僕が最後衛に付くのが理想的ではあるけど、贅沢というものかもしれない。


 決めた戦術は、基本僕の投擲からスタート。

 こちらへ迫ってくる敵に対しカイリが土属性魔法で足止め。

 カレンの風属性魔法で殲滅。

 アスカは常に周辺警戒を行い、補助魔法でサポートしつつ指示出しを行う。

 特にアスカには負担が大きくなるが、カイリ・カレンのうち漏らしを僕が殲滅していく流れとなった。


 それにしても魔法の不思議さを実感した。


 ゲームだと魔法の名前をとか詠唱を唱えて魔法を放つ。

 しかし今の世界では、魔法は基本、本人のイメージ通りに行使する事ができるそうだ。

 ただし、属性とそれに付随する+-によって出来る事が変わってくるみたいだった。

 基本4属性と仮称されている火・水・風・土も僕がイメージしていることと若干ニュアンスが異なっていた。


 火属性は熱を操る。+だと加熱。-だと冷却となる。

 水属性は状態を操る。+だと蒸発・気化。-だと凝固・固形化。

 風属性は経過を操る。+だと加速。-だと減速。

 土属性は質量を操る。+だと加圧・加重。-だと減圧・反重力。

 あとはそれぞれフラットがあるそうだ。

 フラットは僕がイメージしていることとあまり相違はないみたいだった。

 正直説明を受けたけどよく理解できなかった。

 どうやらスキルを取得すると、漠然と理解出来るようになるって話だった。

 つまり、習得するまで説明されてもチンプンカンプンとなるということらしい。

 

 それとそれぞれの得意なことも確認した。

 僕は言うまでもなく、剣と盾による接近戦をメインとした前衛形だ。

 投擲はあくまでも補助……のはずなんだけど、最近メインになりつつあるのが何とも言えない。

 カイリが得意なのは、火属性+の貫通する小さい火弾。

 集中することによって火弾の熱量・火力は変化するそうだ。

 あとは、土属性フラットの土の針や壁。

 一応+も使えるけど、いまいちうまくいかない為、あまり使っていないそうだ。

 これについては恐らくスキルレベルの関係性だろうと推測できる。

 カレンは風属性+で風の刃を作ったり、竜巻を起こすなど斬撃系の範囲攻撃が得意。

 カレンについては『気体』を『加速』させているイメージだって言ってた。

 なんとなくだけど、わかるようなわからないような……

 アスカは回復魔法が得意で、回復量は込めたSPによって変わる。

 バフは強化系がメインで、ステータスを一時的に強化するそうだ。


 ひとまず確認を完了した僕たちは、ハンティングウルフで訓練をすることにした。


 

 しばらく探索していると、前方にハンティングウルフが3匹うろついているのが見えた。

 今だこちらに気づく様子もなく、僕はインベントリに貯めておいた石を取り出し、先頭のハンティングウルフに向かって投擲を行った。

 ちなみに最初の頃は、その辺の落ちている石を拾って投げていたけど、インベントリから取り出した方がすぐに手の上に出てくるので、今ではそちらを採用していた。

 それに、石は河原に行けば好きなだけ集められるからいちいち探す必要がなくなったというわけだ。

 投擲した石は、減速することなく先頭のハンティングウルフの頭に見事命中し、そのまま倒れこんで動かなくなった。

 なかなか幸先のいい状況だ。

 流石にこちらに気が付いた2匹は、低い唸り声をあげながら飛び掛かってきた。

 さすがにもう一つ投げるほど余裕はなく、カイリが足止め用に土の針を無数に地面から生やした。

 うん、生えてくるって表現がぴったりだった。

 あたり一面に針というかとげというか、円錐状のものが無数に飛び出してきたのだ。

 突然の出来事に1匹は対応が遅れ、腹に数本の土の針が刺さり倒れこんでいた。

 もう1匹は対応が間に合ったようで、寸でのところで後方へ飛び退いた。

 カレンはその隙を逃すことはなかった。

 既に着地地点に向かって魔法で空気の刃を作り、ハンティングウルフの首を切り飛ばした。

 それはもう鮮やかなもので、スパンという擬音が似合うように切り落とされたのだ。

 僕はアスカにバフをかけてもらい、身体能力が上がったことを感じ取れた。

 一足飛びで20m近くの距離を縮めることができたことに驚きを隠せなかった。

 ダメージを負っていた残り1匹の首を刎ねて終了した。

 

 周辺警戒をしていたアスカが、周囲に敵影を確認できないとして警戒を解くこととした。

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