023 弾む心と保護者気分

 3人が去った後、改めてカイリからお礼を言われた。


「ケントさん。また助けてくれてありがとう。」

「ケントさんっていうんだ。そっか。私はカレン。赤羽根あかばね 花怜かれんって言います。それと、カイリを助けてくれてありがとうございます。ケントさんが助けてくれなかったら、私は一生後悔していたと思います。」


 黒髪の女の子……カレンは目に涙を浮かべていた。

 今時珍しいくらいに、しっかりとした芯の通った子のようだ。

 言葉の端々にカイリを心配していることが伝わってくる。


「私は、アスカですう。海莉ちゃんを助けてくれてありがとうなのですぅ。」

「ちょっとあーちゃん!!語尾を治すように何度言ったらわかるんですか?今はしっかりとお礼を言う場面でしょ?!」


 うん、アスカちゃんはどうやらおっとりとした子らしい。

 ぽわぽわした雰囲気がなんとも周囲を和ませるようだ。

 しかもカレンは完全にオカンと化している。

 それを見たアスカは満点の笑みをこぼしていた。

 ほんと、いいチームだ。



 

「ところで君たちは今後どうするんだい?前衛なしだと探索は厳しいでしょ?」


 いらぬお世話とは思うけど、何となく心配になってしまった。

 特にカイリは今回の件で相当ショックを受けているだろうし。

 男性とパーティーを組むのは無理だと思う。

 できれば女性の前衛職と中衛職、あとは斥候なんかいればバランスがとれるかもしれないな。

 あとで一ノ瀬さんに相談してみようかな?


「それについてはカイリの状態を見て考えます。3人なら第3層までなら何とかなると思いますから。地道にレベルを上げていこうと思います。」


 代表してカレンが答えてくれた。

 きちんとカイリの事を考えての発言だろう。

 彼女なら問題ないかな。


「そっか。本当に無理だけはしないようにね?それと、あのシンって男の子には気を付けてね。なんだか嫌な予感がしてならないから。あの目はあきらめていない感じがしたし。」

「シンは……別として、ダイスケとリョウを信じたいと思います。あの二人がシンを押さえてくれるって。でもシンは……。なんでこうなったんだろう。探索者になる前はみんな仲良かったのに……」


 カレンはダイスケとリョウと呼ばれた男の子二人を信じることにしたみたいだ。

 ただ、シンについては信用が置けないと判断しているようだった。

 だからこれ以上は僕の出番ではないと思えた。

 あとは彼女たちの問題だから。

 

「わかった。でも、油断だけはしないようにね?今回みたいにたまたま助けられたからいいけど、誰も助けに来られない場合だってあるから。」

「はい。ご心配いただきありがとうございます。」


 本当にしっかりとしたいい子だ。

 これなら心配はほとんどいらないかもしれないな。


 


 それから別れ際にカイリ達とアドレス交換をした。

 今後何かあれば相談させてほしいとのことだった。

 うん、僕に何かアドバイスできるのだろうか……



 



 自宅に戻ると久しぶりに家族全員揃っていた。

 美鈴は朝に検証した結果について、ネットでも確認を取っていたみたいだ。

 どうやら、〝虫を殺しても経験値が入る〟というのは眉唾のうわさ話的に出回っていたらしい。

 で、検証班なる集まりが検証をしたら、その仮説は立証されたそうだって載っていたらしい。

 さすがに【生物】全般だろうとは仮説が飛躍していなかったらしく、少しだけ安心したようだった。

 僕らですらたどり着いた仮説なんだから、世界を探したらもっと多くの人が行きつく話だよな。

 

 そして一ノ瀬さんから聞いたことも家族で共有することにした。

 僕たちが検証したことはすでに国としても把握していたこと。

 そして、その仮説について更なる検証が必要になるだろうと。

 ただし、あまり広めないでほしいと話が有ったことを伝えた。


 家族も何得してくれたようで、この話題についてはこれで終わりとすることにした。

 結局のところ国で何とかしてもらわなけらばならないねってのが中村家としての結論となった。

 ただ、母さんのレベル上げが可能になったのは大きいかもしれない。

 父さんもスキルレベルは上がるものの、レベル的には母さんより低いことになってしまった。

 今度は父さんも誘ってレベル上げするべきなんだろうか。


 そんな話をしていると、母さん特性のハンバーグが食卓に並んだ。

 この肉は美鈴がゲットしてきたダンジョン産の牛肉だった。

 見た目的にもインパクトがでかかったのはいい思い出になりそうだ。

 その牛肉をミンサーでミンチにしてできたのがこのハンバーグ。

 元から母さんのハンバーグはうまかったけど、今目の前に並んでいるハンバーグは

 これまでと一線を画してそうだった。

 軽くフォークで抑えるだけで、火の通りを確認するために開けた竹串の穴からジワリとあふれ出す。

 それに伴って滴り落ちた油と肉汁が、熱々の鉄板に伝うと、食欲をそそる香りがあたり一面に漂う。

 この匂いだけでもご飯が食べれるんじゃないかと錯覚すら覚えた。

 僕はたまらず母さん特製ソースを待たずにハンバーグにナイフを入れた。


ス……


 そう表現するのが適切だと思う。

 というよりも、これ以上の説明が不要に思えた。

 一口口に運ぶと、極上の旨味が口の中いっぱいに広がった。

 ただの塩コショウのみ。

 それでいてこの味……

 これでソースを付けたらと考えるだけどつばがあふれ出してきた。


 そんな僕の様子を呆れたように見下ろしていた母さん。

 その手には特製ソースの入った器が握られていた。

 それをすぐに受け取ると、足らりとハンバーグに流し込む。

 そのソースはハンバーグからさらに鉄板へ。

 一気にジュッ!!っという音と共に、香ばしい香りへと姿を変えていった。

 

 その味を堪能しつつ、夕食は和やかに進んでいった。  



 

 そして、夕食の話題は今日あった出来事の話になった。

 ゴブリンの集落で強敵に出会ったこと。

 その集落で人助けをしたこと。

 褒められるかなと思ったけど、両親の反応は違っていた。

 父さんと母さんからはとても心配されてしまい、いい年したおっさんに本気の説教をしてくる始末だった。

 ただ、心配してもらえるというのはこれほどうれしい物なんだなって改めて感じることが出来た。

 

 美鈴はというと、そんな僕の顔をニヤニヤとしながら見つめていた。

 その眼は新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりだった。


「お兄ちゃんもったいなかったね?せっかくパーティー組めるところだったのに。しかもハーレムパーティーだよ?もったいなかったね。」

「おまえねぇ。あんな危険なところに赴くのに、そんな邪な感情持ち込めるわけないだろ!!」


 さすがにこれ以上この話題を不可彫りされても面倒だと思い、この話はこれで終わりと強制的に会話を終わらせたのだった。



 

ピロリン、ピロリン


 夕食を終えて自室でくつろぎながらステータスを確認していると、不意にスマホから着信のお知らせが鳴った。

 どうやらメールが届いたらしい。

 確認するとカイリからのメールだ。


”今日は本当にありがとうございました。お礼を言っても言い切れません。カレンとアスナと話し合いをしました。そしてお願いがあります。私たちとパーティーを組んでもらえないでしょうか。突然の申し出で困惑をしているとは思いますが、私たちなりにきちんと話し合った結果です。ではお返事をお待ちしています。”


 どうやらパーティーメンバーのお誘いメールだった。

 どうしたものか……

 僕のスキルを教えることになる……

 さすがにこれは教えることは難しい。

 どうしたら角が立たないかな……

 

 うん、とりあえず一回組んでみて、無理そうだってことで諦めてもらおう。

 これなら問題ないはず。


”お誘いありがとうございます。こんなおじさんで申し訳ないですが、一度仮に組んで探索してみましょう。正式な回答はそれからということでいいでしょうか?”


”わかりました。では次の土曜日朝9時に訓練施設前で待ち合わせでお願いします。楽しみにしています。”


 うん、これはダメだ……

 年甲斐もなく心が弾んでしまった。

 一回り以上違う少女たちとのパーティーか……


 ある意味、保護者みたいなものかな。


 少し心臓の鼓動がうるさいが、夜も遅いので頑張って寝よう。

 おやすみなさい。

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