022 裏切りと偽り
僕たちは第1層を目指して移動を開始した。
あらかた打ち合わせた通りに戦闘をすると、とても戦いやすかった。
カイリが魔法で牽制してくれるおかげで、倒す順番を明確にしやすかったからだ。
そもそも僕が一人で戻れるくらいのモンスターの強さなんだから、二人で動けば楽になるのは当然かなとも思えた。
それから数度の戦闘を行い、お互いの実力を理解する事が出来た。
正直彼女は僕よりも戦闘がうまい。
おそらくパーティー戦の経験の違いだと思う。
僕の動きに合わせて的確に牽制をしてくれるから。
そして帰り道は
ハンティングウルフ3匹
ゴブリン2匹
スライム7匹
を討伐した。
後衛がいるだけで、これほど戦闘が変わるのかと驚いた。
ほんと、パーティーが組みたい……
そんな思いが強くなってしまったのだった。
そんなこんなで無事トランスゲートへ到着できた。
二人で顔をみあわせると、どこからともなく笑顔がこぼれた。
彼女の笑顔がとても印象的だった。
きっとこの笑顔が彼女の本当の顔なんだと思う。
その分だけあの剣士が許せないと感じてしまう。
トランスゲートを抜けると、すでに日は傾いており、夕方過ぎだった。
早く帰りたいからという思いもあり、すぐに受付窓口に顔を出した。
そして事の顛末を受付担当者に伝えていく。
彼女は時折涙を浮かべ、がんばって事情を説明をしていた。
自衛官もその話を真剣に聞き、メモを残していた。
他の自衛官に確認を取ったところ、どうやら彼女のパーティーメンバーも無事ダンジョンを脱出していたようだった。
その話を聞いた彼女の少しほっとしたような表情が印象的だった。
囮にされたとはいえ心配だったのだと思う。
そして、彼らは今回の件について自衛官にこう説明をしていたのだ。
”海里が、自ら殿を買って出てくれた。そのおかげでメンバー全員が無事に帰還できた”と。
それを聞いたカイリはその場にうずくまって涙を流していた……
声にならない声が聞こえてきそうだった。
それもそのはずだ、彼らの裏切りが決定的になったからだ。
彼女の中でどこかで間違いであってほしいと願っていたのだと思う。
僕はそっとその背中をさすって、彼女が泣き止むまで待つことにした。
どのくらいたっただろうか、彼女も少し落ち着いたようでようやく立ち上がることができた。
話を聞いていた自衛官は彼女から聞いた話と、先に聞いていた話の確認作業を行うということだ。
場合によっては、後日事情聴取を行うかもしれないとのことだった。
それとパーティーメンバーは治療の為、現在医務室にいるとのことだった。
カイリに会いに行くのか尋ねると、今は会う気はないそうだ。
まあ、当たり前と言えば当たり前だな。
一通り説明を終えて買取所でドロップアイテムの換金を終えた時の事だった。
取り分の分配についてカイリから辞退の申し出があった。
今回助けてもらわなければ自分はここにいなかっただろうからと。
さすがに僕も受け取れなかった。
しかし、助けてくれたお礼だといわれてしまえば、これ以上押し付けることができなくなってしまった。
そして帰り際に改めてお礼を言われてしまった。
僕としてはもうお礼を受け取った以上、頭を下げられると困ってしまう。
カイリにそれを伝えると、やっと頭を上げてくれた。
周囲の目がとても痛かったのは言うまでもない。
「で、君はこれからどうするの?」
「あのパーティーは抜けようと思います。」
カイリはそういうと、痛々しいような笑みを浮かべていた。
当然と言えば当然かもしれないな。
誰が好き好んで信用できない相手に命を預けなければならないのかって話だ。
それから他愛のない話をしながら二人で出口に向かうと、若い探索者パーティーが医務室から出てきた。
それを見たカイリの表情が固まっていた。
カイリを見つけた少女二人が駆け寄ってきた。
カイリのことを本気で心配していたようで、抱き合って涙を流していた。
カイリも一瞬戸惑ったものの、二人の無事を改めて確認でき、二人を抱きしめて涙を流していた。
うん、この子たちは悪い子ではないのかもしれない。
その後ろから男の子3人がやってきて、カイリに向かって頭を下げた。
少ししたらまた一緒に探索に戻ろうと話が出てきた。
今回はうまくいかなかったが次は問題ないと、意味の分からない自信をのぞかせていた。
だがカイリはパーティーに戻る気がないと告げた。
その返答が予想外だったのか、焦ったリーダーらしき剣士が無理やりカイリの腕をつかみ連れ去ろうとした。
さすがに嫌がるカイリを見た女の子二人も怒りをあらわにする。
本当は介入するべきことじゃないんだろうけど、見かねた僕は嫌がるカイリを助けることにした。
「みっともないマネはやめようか?彼女嫌がってるでしょう?」
「おっさんには関係ないだろ!!これは
剣士は怒気を孕んだ声で僕を睨んでくるも、大して怖くはなかった。
あのホブゴブリンに比べたらどうってことは無いと思えた。
確かにパーティー間の問題だと言われればそうかもしれない。
だが、今ここにあるのは砂上の楼閣の様な偽りのパーティーだ。
だからこそ僕もここで引き分けにはいかなかった。
「部外者ってわけではないよ?彼女を助けたのが僕だからね?それに彼女を囮にしたのは君だろ?そんな君が戻って来いって言ったって信用できると思う?」
僕の言葉を聞いた女の子二人は、驚きを隠せなかった。
黒髪のロングヘアの女の子が剣士……シンかな?に詰め寄っていった。
その表情は怒りと憎しみにあふれていた。
「ねぇ、シン!!どういうこと?カイリが自分から殿を務めたんじゃないの?!ダイスケだってそういったよね!!まさか……本気でそんなことしたの?!」
シンと呼ばれた剣士はどうやら二人の女の子に「彼女が自ら囮になった」と説明したらしい。
どこまでもくそ野郎だった。
他の二人に視線を向けると目をそらしていた。
これは確定だな。
もう一人の女の子は、カイリを抱きしめて震えていた。
ずっと「ごめんなさい」と小さな声で呟き、涙していた。
カイリが自分たちのせいで死んでいたかもしれないことに気が付いたみたいだ。
だからこそ、そこで何が起こったのか彼女たちは知らなくてはいけないと思った。
「僕が見たときは、君たちは戦闘中だった。君たちはかなりチームワークがよくて、手出しは無用と思えた。だけどゴブリンの奇襲でそこの女の子二人が気絶してしまった。そこからが問題だったんだ。そこの剣士君……えっとシンだったかな?君があの時すぐに撤退の指示を出したのはよかったと思うよ?あの状況ならその選択が一分一秒早い方が、全員の生存率が上がるから。でもね、まさか一緒に逃げていた彼女を蹴り飛ばすとは思わなかったよ。僕が駆け付けなければ彼女はあそこで死んでいた。それが事実だよ。」
僕の話を聞いた女の子たちは泣き崩れていた。
後ろの男の子二人はうつむいたまま震えている。
おそらく自責の念が生まれたのだろう。
うん、彼らは大丈夫だろうね。
これから先必ずやり直せる。
だけど、シンはそうはならなかった。
「嘘つくんじゃね!!俺がなんでそんなことしなきゃならないんだよ!!なあ、カレン、アスカ。こんなおっさんの言うことなんて信じんじゃねぇよ!!」
「どこまでも救えない馬鹿がいるもんだね。彼女が生きている時点で、君の発言は嘘だとばれるんだよ?それなのにまだ醜態をさらすのかい?それと、後日自衛隊から出頭要請があると思うよ?おそらく今回の件はかなり問題になると思う。覚悟はしておくといいよ。」
ドサリ
後ろの二人が膝から崩れ落ちた。
自分たちが犯した罪を理解したのか、顔が青ざめていた。
シンという男の子はそれでも怒りが収まらないらしい。
僕を睨みつけ、今にも襲い掛かろうかとしていた。
パン!!
夜空に何かが爆ぜる乾いた音が鳴り響いた。
シンのほほをカレンが叩いていたのだ。
「私たちはシン達を信用できない。そんな中でパーティで活動するのは無理。だから、私たちはパーティを抜ける。これは決定事項。ダイスケ、リョウ、あなた達だって同罪よ。そして私たちも同じ。カイリを生贄にしたんだから。シン、もうこれ以上失望させないで。せめて幼馴染として潔く受け入れて。」
カレンの目には今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
覚悟の決まったカレンの強いまなざしと相まって、悲壮感が漂っていた。
カレンから告げられた決別の言葉に、シンはあっけにとられていた。
おそらく自分が思い描いた結末にならなかったのだろう。
どこまでも自分勝手な男だ。
ダイスケとリョウと呼ばれた二人は力なく立ち上がると、シンの肩に手をやりその場を去っていった。
何の言葉もなく……
謝るでもなく、怒るわけでもなく。
言葉が見つからなかったのだろう。
二人が去るとシンは改めて僕を睨みつけて「覚えてろよ!!」と捨て台詞を吐いて立ち去っていった。
ほんと、もう勘弁してほしい。
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