006 座学はつらいよどこまでも

 休憩時間も終わり、全員が席についたのを確認した一ノ瀬さんは講習を再開した。


「えぇ~、では、講習を再開します。まず最初に一番厚い黄色い教科書を開いてください。これは基本的法律とマナー・ルール、あとは各ダンジョンの買取所とかの利用方法等が書かれています。今回使用するテキストは講習終了後持ち帰ってもらって、今後の活動に役立ててください。ではテキスト1ページ目、ダンジョン法についてです。」


 一ノ瀬さんの説明によると、法律の内容については事前に確認していた通りの内容だった。

 ダンジョン法については大方情報通りで、探索者法の制定・銃砲刀剣類所持等取締法の改正・能力規制法の制定について、より詳しく教えてくれた。


1.探索者のランク

2.ダンジョンのランク

3.銃砲刀剣類所持等取締法 の改正の内容

4.能力規制法の詳細


 探索者のランクについてはS・A・B・C・D・E・F・Gの八段階に分かれており、後日出来上がる公営組織探索者支援組合(今後は【探索者ギルド】と呼称)によってランク分けされるそうだ。

 ランク上昇については、資源の買取実績、討伐実績、活動実績、などなどを加味して決められる。

 また、パーティーについては結成後メンバーの平均ランクがパーティーのランクになるそうだ。

 ただし、パーティーへの新規メンバー加入についてのペナルティの説明があった。

 それまでのパーティーランクから著しく低いメンバーだった場合、そのメンバーを含めた平均値から一段低いランクとするものだ。

 逆に著しく高いメンバーだった場合は、その人を抜いた平均値をパーティーランクとする。

 要は寄生する、寄生させることを抑止する決まりらしい。

 これは、探索者の死亡率を下げる決まりだということだ。


 ダンジョンのランクについても同じく八段階で分類される。

 分類基準はダンジョン内の危険度によるそうだ。

 基本自衛隊もしくは警察が先行して調査し、危険度を判断。

 その結果をもとに探索者ギルドによって分類される。

 探索者は自分の探索者ランク以下もしくはパーティーランク以下のダンジョンにしか入れないそうだ。

 ちなみに、今現在確認されているダンジョンのランクはF相当までしかないとのこと。

 しかし、ダンジョンは最初G相当しかなかったことから、成長を続けているのではとのことだ。

 それと、現在の危険度判断は自衛隊・警察が行っているが、後々は専門の探索者を育成して調査を行うそうだ。


 銃砲刀剣類所持等取締法の改正については探索許可証ライセンスカード保有者は街中での武器等の所有を認めるというもの。

 ただし、街中では必ず安全装置を武器に取り付ける事と、武器を取り出したり使用した場合は厳罰に処されると脅された。

 まあ、当然と言えば当然の処置だと納得できる。


 能力規制法については街中でスキルを使用することを禁ずるというものだ。

 ただし、殺傷性のないものや、他者に損害を与えるもの、一般生活に使用しても問題ないものについては例外を認めるという、地味にフレキシブルなものだった。

 日本の法律としては意外と緩いなぁって思ってしまった。

 ただし、スキル使用による犯罪や他人を傷付ける・脅す等は子供であろうとも厳罰となるようだ。

 いじめ・ダメ・絶対!!


「ここまではいいですか~?質問がある場合は挙手をお願いします。」

「はい、質問です。」


 あ、バスで隣になった子だ。


「では質問をどうぞ。」

「あ、はい。最初に話に出た探索者ギルドに就職することはできますか?」


 会場からくすくすと笑い声が聞こえてきた。

 それを聞いた男の子は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。


「ではお答えしますね。っとその前に……いいですか?自分で質問しようとせずに、他人の質問に対して嘲笑する方は減点とします。これから先、あなた方が向かう場所は戦場です。何もわからないまま向かうということは、死にに行くようなものです。悪いことは言いません。考えを改められないのならば、今すぐ帰ることをお勧めします。繰り返します、考えを改めないなら帰りなさい。ここにはそのような人材は不要です。」


 一ノ瀬さんから出た言葉はとても強烈なものだった。

 言いたいことはわかる。

 きっと一ノ瀬さんは優しい人なんだと思う。

 誰にも死んでは欲しくないから。

 だからあえて強い言葉を発したんだと思う。


「では、改めて説明します。探索者ギルドへの就職は地方公共団体へ就職することと同じで、地方公務員試験をクリアしてください。その後配属希望で探索者ギルドへの配属となります。また、今後新設される【ダンジョン調査員】は探索者が対象となりますので、そちらで受けるの一つです。これについては給料制探索者って感じでしょうか。あ、ただしダンジョン調査員は公務員ではありませんので、そちらは注意が必要です。」

「ありがとうございます。両親からあまりいい返事を受けていないもので、もし探索者ギルドへ就職できるならって思ったんです。」

「そうでしたか、では頑張ってください。それでは他にいらっしゃいますか?」


 僕的にはある程度想定内の内容だったので、なるほどなと納得したところだった。


「じゃあ、次に買取所等の施設利用についてです。まずはこれを見てください。」


 目の前のスクリーンに写真が映し出された。どこかの受付みたいな感じがするけどどうなんだろう?


「これが今後建設予定の探索者ギルドの内観です。まあ、これは市役所の入り口をちょっと直して写真を撮ったんですけどね。大体こんな感じだよって思ってください。ダンジョンの各場所にはこのような施設が設置予定です。まずは、受付カウンターですね。ここでは探索者がダンジョンに入る際必ず通てもらいます。ゲート状になってるので、潜るだけで判別します。このダンジョンに今誰がいるかわかるようにするためです。」


 なるほど、これなら何か問題が発生したときに安否確認がしやすくなるだろうな。

 それに、何日も戻ってこない人がいた場合は何かあったと判断もできる。

 捜索等の事も考えるとよくできたシステムだと感心してしまった。


「次にこちら、買取所です。素材を持ち込むと買取レートに合わせて買取します。買取レートは買取所近くの掲示板、または今後できる探索者ギルドホームページに随時アップしていきます。なお、買取レートは日によって変動します。これは市場原理が発生することが原因だと思ってください。」


 これも納得できるな。

 素材がダブついているのに高値で買い取りしてたら無駄になる。

 つうか、この買取の際のお金って税金で払うの?

 ちょっと気になってしまった。

 

「最後はこれ、依頼斡旋所です。今現在は稼働していませんが、今後『こういう素材が欲しい。』とか『このモンスターを倒してほしい。』『レベル上げを手伝ってほしい。』などの依頼を探索者ギルドで受け、それを探索者に行ってもらう流れになります。ただし、斡旋できる探索者にはランク制限を設けます。予定ではD以上の予定です。」


 一ノ瀬さんは周りを見回しながら、苦笑いを浮かべていた。

 それがどういった意味なのか僕にはわからなかった。


「ここまでで質問ありますか?」


 僕は買取について気になったので質問することにした。


「すいません、買い取られた素材ってその後どうなるんですか?」

「それについては、最初は研究に回されます。あとは創作系スキルの方への売却になると思います。」

「そうなんですね。ついでなんですが、素材を売らないで自分で保管しておくのは問題ありませんか?」

「問題ありませんが、保管方法を間違えて品質劣化しても責任を負いかねますよ?」


 一ノ瀬さんの返答にみんながどっと笑いだした。


「他にどなたかいますか?なければこれで今日の講習は終了です。それと、今居眠りしていた人たちは……減点です。」


 一瞬にして今日一番会場がどよめいたのは言うまでもない。

 ちなみに僕は頑張ったよ……

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