第2話 孤独な戦い

 そうして迎えた魔神の予言の日……。


 祭壇に跪くエルミア。


 その場には他に誰もいない。



 神官たちは全員がこの神殿から退避した。

 生贄となる聖女エルミア、ただ一人を残して。



「アハハハハ、一人取り残されちゃったかなぁ~」


 そして響き渡るあの気持ちの悪い声……。

 嗤いと憐れみを含んだ声……。


「私、聖女エルミアが生贄となります。私を喰らったあとは再び眠りにつかれますように……」

 跪いたまま抑揚のない声を放つエルミア。

 

「さぁ~どうしようかなぁ~。そろそろだいぶ回復したから、ちょっとこの大陸ぐらい吹っ飛ばしても良いと思うんだよね~♪」

「なっ……」

 エルミアの儚い思いをあっさりと踏みにじる魔神に対して、彼女は言葉を失った。

 そんなエルミアの横に顕現した魔神。


「あれあれ~?期待しちゃった?もしかして自己犠牲ってやつ?自分が生贄になれば世界を守れるんだ~って?アハハハハ」

「そんな……」

 エルミアの目からは涙が零れます。


「まぁ、どうせ死ぬんだ。その後この世界がどうなろうと~貴様には関係ない話だろぅ~っはっはっはっはっは!」

 魔神はエルミアに向けて腕を……



「うらぁあぁああああ!!!!!」


 ガキィーーーーン!!!!




「なっ……ロアン!!」


 振り下ろそうとしたが、俺は地下牢の底で見つけた凄まじい魔力が込められた輝かしい剣で弾いた。


 


「おぉ?神剣を見つけてきたのかい?面白いじゃないか~」

 魔神はその剣を見て嗤う。

 これが神剣だったのか。

 これはその昔エルミアがかくれんぼ中に見つけていたものだ。あの時は抜けなかったが、今はあっさり抜けた。


「だが、まだ力を取り戻してはいないな~?それじゃあ我の攻撃は防げないよ~!」

「ぐぅ……」

 魔神は魔力を投げつけてくる。

 何気ない動作で打ち出されるそれは非常に早い。俺は何度か切り払った後、その魔力をくらってしまう。


 

 くそっ、こんなことで負けてたまるかよ!


 俺は震える足で何とか立ち上がり、剣を振る。

 頼む神剣。俺はどうなっても構わない。あのクソ魔神を倒したいんだ!エルミアを助けるんだ!


 神剣の光が増す。

 俺の想いに答えてくれているかのようだ。



「ダメよ、ロアン!逃げて!」

「いやだ!」

 そう言いながら俺は神剣を振るう。


 キィーーーン!

 

 魔神は腕で防ぐ……くそっ、固い。



「その程度では倒せぬぞぉ~もっと想いをこめないとなぁ~」

 ぐぅ……。


 魔神は嗤いながら殴りつけてくる。

 その一撃一撃が重い……。


 神剣で受け流しても、完全には威力を逸らせず、よろめいてしまった……。


「さぁ~死んでしまうぞ?貴様もあの女もぉ!!!」

「ぐはっ……」

「ロアン!!!」

 俺は魔神に蹴り上げられ、完全に無防備になったところを首を掴まれ、地面に叩きつけられた。


 くそっ……。


「アッハッハッハッハ。しょうもない余興だったなぁ~。ハッハッハッハ」


 クソ魔神は俺の頭を踏みつけながら俺を嘲笑う。

 

「お前なんか!?」

「ダメだぞぉ~矮小な人の力など、美味しくすべて喰らってやるよぉ~♪」

「ロアン!」

 エルミア……くそっ、俺は……俺は……絶対にあきらめないぞ!


「うぉおおぉぉおおおお!!!」

 エルミア!俺に祈ってくれ!俺はこいつを倒すんだ!!!


 俺は頭を踏みつけられた状態のまま、さっきまでより強い光を帯びた神剣を魔神に突き刺した!


「おぉおおぉぉおおおお!?ダメだぞぉ~もう貴様は終わりなんだぞぉ~役割を終えた羽虫はちゃんと舞台を降りろぉ!!!!」


 魔神は手に貯めた黒い魔力を叩きつけてくる。


 神剣を突き刺したものの頭を踏みつけられたままの俺は避けられない。



「ロアーーーーン!!!」

「ぐあぁあああ」


 

 どう……なった……俺の頭と体はまだくっついてるか?

 


「ロアン……どうか、神よ……ロアンを……」

 エルミアが幼い頃の様に涙でくしゃくしゃになった顔で祈る。

 すまん……そんな顔をさせて……。


 くそっ……。


 弱えぇな……俺は……。



 結局勝てなかった。


 結局よぉ……。

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