第3話 消えた香料の謎
薄明かりの調香室には、昨夜から作業を続ける涼音の姿があった。
机の上には、無数の小瓶と試験管。
その中に並べられたのは、フロステラに似せて調合された試作の香料たちだった。
彼女は一滴を嗅ぎ、目を閉じる。
香りの奥に何かが欠けていることに気づき、また試験管を取り換える。
しかし、どれだけ試しても「その香り」には辿り着けない。
涼音は思わず呟いた。
「まるで、答えのないパズルみたいね……。」
ふと、机の隅に置かれた古びたレシピノートに目をやる。
その中に書かれた文字が彼女の目に留まった。
「フロステラの代用として使える素材……シルバーミスト?」
涼音はその名に聞き覚えがなかった。
ノートの一文を読み解くと、シルバーミストとは特定の地域でしか採れない希少な香料だと書かれていた。
さらにその産地として示されたのは、「遥か北の氷の谷」。
「なるほど……このシルバーミストを手に入れれば、香りを再現できるかもしれない。」
涼音の心に希望が灯る。
だが同時に、それが簡単な道のりではないことも理解していた。
翌朝、涼音は調香室を後にし、情報を得るために古書店を訪れた。
その店主は、古い香料の資料を多く持っていることで有名だった。
薄暗い店内に足を踏み入れると、涼音の鼻を刺激するのは、湿った紙の香り。
奥から現れた老人が、驚いたように目を細めた。
「これは珍しい客だね。今日は何をお探しかな?」
涼音はシルバーミストについての情報を尋ねた。
すると老人は一冊の重そうな本を取り出し、テーブルに広げた。
「この名前を聞くのは久しぶりだ。この香料を使った調合は数世紀前に記録が残っているだけで、今では採取も難しいとされているよ。」
ページをめくると、そこには青白い霧が舞う谷の風景が描かれていた。
「この氷の谷がシルバーミストの産地だ。ただし、危険な魔物が住む地としても知られていてな……香料を採りに行く者は少ない。」
涼音は本のページをじっと見つめた。
その先に進むべき道が明らかになったが、危険を冒してでも手に入れるべきものか、自問する。
調香室に戻ると
涼音は黒い香水瓶を手に取り
そっと嗅いだ
その香りは
吸血衝動を抑える可能性を秘めている
しかし、それを再現できなければ、自分の内なる衝動を制御することもできない。
彼女は決意を固めた。
「どんな危険があろうとも、この香料を見つける。」
その夜、涼音の調香室を訪れる影があった。
小柄な男性で、軽やかな足音とともに現れた彼は、旅人のような格好をしている。
「シルバーミストを探しているって聞いたよ。」
涼音は警戒しながら彼を見つめる。
「あなたは誰?」
彼は軽く笑いながら答えた。
「ただの情報屋さ。けど、この素材を採りに行くには一人じゃ危険すぎる。協力者が必要だろう?」
「協力者?」
涼音はその言葉に動揺しながらも、彼の提案に一抹の希望を見出した。
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