いんふるえんさー、in full answer

菖蒲 茉耶

第1話 全ての解はここにある

 バリくそ可愛いと噂のこの私、シーシャ(偽名)ちゃんは、今日も今日とて誰もいなくなった放課後教室でスマホを起動。

 カメラのカウントダウンの後、何度も見てきた流行りのダンス音楽が流れ始めて、それに合わせて全力ダンシン。

 最後にキメ顔、決めポーズ。


「っし、今日も完璧っ」

 

 私はインフルエンサーだ。自分で言うと恥ずかしいな、やっぱSNSショート動画発信者ってことにしとく。

 数十秒から数分の短い動画を恥じることなく晒すのが私の仕事(趣味)だ。


「西尾ぉー、まだぁ?」


 誰もいなくなったとは言ったものの、たった一人で教室居残りダンスをするほど、私のメンタルは強くない。誰かと一緒に帰りたい。


「ねぇ小森、本名で呼ぶのやめてくれない? あんたと動画撮るとき、いっつも本名のとこ編集しないといけないからさぁ、普段でもそうしてよ」

「えー? でも西尾は西尾じゃん」

「小森だって裏垢晒されたらヤでしょ?」

「あ、そんな大事だったんだ、本名晒すのって。ごめん今度から気をつけるわ」


 肌も髪も茶色く染めた私の親友は、そう言って軽く謝った。

 見た目だけなら、色白黒髪ストレートの私とは正反対だけど、内面には通ずるものがある。SNS? ノンノン、OTKオタク


「てか手遅れじゃない? ライブ配信のときも西尾って言っちゃった気するし」

「うん。それまで『シーシャちゃんかわいー!』ってコメントばっかだったのに、最近は『西尾ぉ、可愛いぞぉー!』に変わってきた」

「もう西尾にしたら、アカウント名」

「今更ぁ?」


 中三から始めたそのアカウントは、この二年でかなりフォロワーがいる。五桁だぞ、五桁、二桁にKだぞ。すごくね?


「むりむり、シーシャのが可愛いもん」

「てか、そのシーシャってそもそもなんなん? キャラの名前? それともブイ?」

「水タバコ」

「なおさら変えろよ」


 ど田舎と言っても過言ではないくらいには何もないのだ、私たちの岩手には。

 そのため、中学の修学旅行の東京でオシャレな店を見つけて、それがシーシャで注意されたっていう笑い話がアカウントの由来。

 シーシャなんてマジで知らないんだから。オシャレな店があったら、なんでも入りたくなるんだよ、かっぺの陽キャは。


「思い出だもんなぁ」

「めっちゃ気になるけどその顔見てっと聞きたくねー」

「なんでだよ、聞けよ」

「もうわかる。どうせ自慢話か、自信ある笑い話のどっちか」


 いやすごいな。まだちょっとドヤ顔しただけなのに、なんでわかんの? 私のこと好きすぎ。


「てか終わったなら早く帰ろ」

「お、なになに。予定でもあんの? もしかしてコレですか?」


 茶化して小指を上げると、小森が呆れたように言い返してきた。


「どちらかというコレです」


 親指だけが地面を向いていた。 

 MK5みたい。……久しぶりに使ったな、MK5。全然世代じゃないけど。


「ごめんて」

「ほら行くよー」


 近くの机に置いていた私のカバンを掻っ攫って、小森は教室から出て行った。

 私はそれを追いかける。まさか出待ちで投げつけられるとは思わなかったけど。


 今日はそうやって終わっていった。明日は何をしようかな。


 インフルエンサー、シーシャこと西尾のやることに不正解は一つもない。

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