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――そして数日後。
「ただいま~」
とドアを開けても、当然返事は返ってこない。
コンビニで買ってきたカップ麺の袋を持ったまま、アパートのドアについている郵便受けを開ける。
公共料金の納付書だのなんだのの中に、それは混じっていた。
白い封筒に見たことのある有名なロゴ。
「【EPIC】って……あのグローバルワンダーランドの運営会社か!? もしかして、この間のクロスワードの懸賞ってこれ?」
あのときの問題の答えは『EPIC』。この会社のことだったのか?
グローバルワンダーランドとは、アメリカにある世界最大のテーマパークだ。日本にもあり、EPIC社が経営をしている。
もしかして『グローバルワンダーランドのペアチケット』が景品だったりするのか?
確かにここの遊園地のキャッチコピーは、『夢のような時間と素晴らしい体験をあなたに』というものだ。
だとしたら、あの難題を解いた時間を返せと言いたい。
何が夢のような時間だ。彼女もいない、友達もいない。ぼっち上等の俺にペアチケットなんて、皮肉もほどほどにしてくれ。
俺は苛立ちながらEPIC社から送られてきた封筒を開封する。
手でボロボロに破って中の紙を取り出す。
しかし、そこには意外なことが書かれていた。
「『EPIC社面接のお知らせ』……?」
どういうことだ?
そのまま文字を追っていく。
『松山ヒロアキ 様
貴殿は当社が行ったクロスワード式筆記試験に見事合格されました。
もし、入社の意思があるようでしたら、面接会場へぜひともお越しください。
弊社は能力のある社員を求めています。
面接においでくださいましたら、お礼といたしまして10万円をお渡しします』
……聞いたことがあるぞ。
アメリカの大手検索サイトの入社試験。
会社の近くに大きな看板を置く。
そこには数式が書いてあって、よほどの能力者じゃなくては解けない問題らしい。
それに解答した人間を新入社員として雇うようだと、テレビか何かでやっていた。
EPIC社もそれと同じだったということか。
クロスワードという仮面をかぶせた筆記試験。
俺はそれにクリアしてしまったということなのか。
しかも、足代で10万。
ただの面接じゃない。
「……マジでか」
このラッキーなようで面倒くさい権利、どうする?
正直怪しいし、胡散臭い。
こんな筆記試験があるわけない、都市伝説の一種だと思っていた。
だけど……。
スマホの履歴を見ると、ずらっと『実家』、もしくは『母』の文字が並ぶ。たまに『妹』からも。
話を聞いてなくても内容は安易に想像できる。
要するに、実家やおかんからは『就職先は決まったのか?』というお小言だろう。
妹からの電話も、きっと親から。実家や親の電話はこちらが無視しているから、妹の携帯を使っているのだろう。
あー、面倒くせぇ。
就職なんて、できることなら一生したくない。
ともかく働きたくない。
黄ばんだえりのワイシャツを着て、汗臭いスーツを羽織り、満員電車に乗り込む。
想像するだけで吐き気がする。
せめて俺が人並み以上にイケメンだったらなぁ……。
ヒモにでもなれたかもしれないってのに。
しかし、そう簡単にできてないのが社会の構造だ。ちくしょう!
「ま、面接を受けに行くだけでもいいかもしれないな。EPIC社の筆記に受かったってだけでも、ある程度の実績になるかもわからない……何事も経験っつーしな。それになんといっても足代10万だ。1か月これで生活できる」
俺は頭をがしがしかきながら、面接の日にちを確認する。
――7月31日か。
夏休み真っただ中だが、俺に予定なんぞない。
バイトはしてないし、友達皆無、彼女なしのぼっちだ。
「行くしかねーだろ……これは」
チャンスボールは思わぬところからやってくる。
そのときが来たら、絶対打ち取れ。
……なんかそんな言葉があったような。
これがそのチャンスかどうかは知らないが、とりあえず俺の真っ白なスケジュール帳に、黒い文字が書きこまれた。
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