⑫「新月」
◆
シーラのこと、そして自分たちの周辺を探る見知らぬ者たち。
リオンは自分たちの幸せが明確に揺らいできているような気がしていた。
しかし、その少なくとも一方はすぐに解決する。
ある晩、どうにも眠れなかったリオンは夜風に当たるため外に出た。
その時、家の近くに二つの人影があったのだ。
「お前たち、そこで何をしている?」
リオンの声には、ホラズム王国で王族だった時には決して発することのなかった威圧感が滲んでいた。
聞く者を畏れさせるそれは、ほんのわずかな瞬間、人影の両の脚を大地へと縛り付けた。
ややあって、人影の片方がゆっくりとリオンの方へ歩み出てくる。
──刺客か!
リオンは腰を低く落とし、武器になるようなものがないか視線を素早く地面に走らせた。
しかし、リオンの予想は半分は当たり、半分は外れた。
「構えなくても結構です、敵意はありませぬ。我々はエドワード殿下の私兵です。殿下より命を受け、リオン様の様子を伺っておりました。しかしお見事ですね、我々は今日この時まで、リオン様に気配を悟られることがないよう努めていたのですが。外にいた我々の気配に気づいたのですか?」
人影は確かにホラズム王国からの追手のような者たちだったが、彼らは刺客ではないというのだ。
「偶然だ……それより貴様のその言葉を易々と信じると思うか」
リオンの声は刺々しい。
確かに信じる理由はなかったが、心の中はどうかそうであってくれという思いでいっぱいだった。
「信じてほしいところですが、難しいでしょう。エドワード様から金子を預かっております。生活の足しにしろ、とのことです。……あの方はあの方なりに、リオン様を想っておいででした。それは一般的なそれよりも希薄なものかもしれませんが、それでも情は情です。どうぞリオン様につきましては、あの方をお恨みになることがありませんように」
男はそう言って懐から小袋を取り出し、地面へと置き、ゆっくりとその場から立ち去っていった。
リオンはしばらくその場から動かなかったが、しばらくしてゆっくりと小袋を拾い、封を解いてみる。
中には色とりどりの宝石が詰まっていた。
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クラウディアはいつの間にか起きていた。そして隣にリオンがいないことに気づき、外に出ようとしたら、リオンが人影と対峙しているところを見つけたのだ。その場で飛び出そうとしたクラウディアだったが、自分が変に刺激してしまうとより剣呑な状況になってしまうかもしれないと、決定的な瞬間までは飛び出すのを我慢していたということがあった。
リオンはクラウディアに先ほどのことを説明した。
「そういうことだったのね。エドワード様が……」
クラウディアは安堵した。
リオンを想う者が自分だけではなかったことを。
そしてもちろん、刺客という線が消えたことも。
「いつか、兄上に会う様なことがあれば謝罪をしなければならないな」
リオンが言うと、クラウディアは笑う。
「エドワード様は遠目に見たことがあるけれど、あまり感情を出さなそうな方だったけれど、そういう人のほうが怒った時怖いのよね」
確かに、とリオンはエドワードが激怒したところを想像する。
「ちょっと笑えないよ。まあ僕は兄上から怒られたことはないが……説教を受けたことならあるんだ。無表情で淡々と言葉を重ねてくるあの怖さは、説教を受けた者にしかわからないだろうね。説教でそれなら、本気で怒られたらどれほど怖いのか……」
寝室の夜陰に、二人の笑い声がひそやかに響く。
◆
翌日、仕事を終えてリオンが帰宅した時、寝室でクラウディアが死んでいた。
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