⑪「監視者」
◆
もはやジャハムの言葉を疑う余地はない。
なぜならシーラは実際に生き返ってきたからだ。
しかし、不安もある。
それからしばらく、リオンはシーラの様子を注意深く観察した。
シーラが本当にシーラなのか、それとも違う何かなのか。
見ている限りでは、さほど違いがあるようには見えない。
──この臭い以外は。
リオンは内心で顔をしかめる。
ふとした瞬間に、シーラの匂いが漂うのだ。
腐った肉の匂い、墓場の匂い、死の匂い。
生き返ったシーラは、以前のように夕食の時にクラウディアの足にまとわりついたりはしなかった。
食卓から離れた場所で、黙々と餌を食べている。
最初、クラウディアはそんなシーラに怪訝そうな様子を見せていたものの、やがて気にするそぶりを見せなくなった。
シーラに対する愛情はなくなってはいないようだったが、以前のように文字通り「猫可愛がり」することもない。
撫でたりする回数もだいぶ減った。
「うぅん、その……ちょっと匂いがね。どこで遊んできたのかわからないけど、あの日以来、いくら洗っても匂いが取れなくて。あの子自身も参ってるんじゃないかしら、自分の体からあんな匂いがするのよ?」
クラウディアの言葉にリオンも同意した。
もし単に生き返っただけで、シーラがシーラのままなら、自分の体からあんな匂いがしてきたらうんざりしてしまうだろう。
「臭いって一度つくとなかなか取れないものだし、少し時間がかかるのかもしれないね」
リオンがそう言うと、クラウディアは「早くあのお日様みたいな匂いに戻ってほしいな」と疲れたように笑った。
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シーラが戻ってきてから数日がたった。
匂いはいまだにする。
だがその匂いにも慣れてしまったのか、リオンもクラウディアも当初ほど嫌悪感を感じないようになっていた。
その代わりに、気になることが一つ増えた。
「最近、シーラの目が気になるのよね」
目。
そう、リオンも同じことを思っていた。
シーラの目つきに何か含みがあるような気がする。
ふと気づくと、じっとこちらを見ているのだ。
その目つきがどこか虫を思わせるものがあって落ち着かなかった。
この時にはもう、寝室にシーラが入らないように扉を固く閉じて眠るようになっていた。
それともう一つ、シーラのこととは関係なしに気になることがあった。
クラウディアはまだ気づいていないが、ここ最近、見慣れない者たちが二人の家を窺っているのが、どうにもリオンには気になって仕方がなかった。
──気のせいなら良いんだが。
リオンは改めて自分たちの立場を思い返さざるを得なかった。
もしかしたら、という危惧がある。
その夜、リオンはクラウディアに真剣な様子で自分の考えを伝えた。
「クラウディア、ここ最近妙な者たちが家の近くを徘徊している。もしかしたら、ホラズム王国からの追手の可能性もある。僕らは自分で言うのもなんだが、ホラズム王国ではさほど重要な立場にはなかったから軽く見ていたが、考えてみれば、例えば僕の元婚約者などからすればメンツを潰した張本人だ。しばらく注意をした方がいいかもしれない」
「……そうね、リオンの言う通りだわ」
クラウディアは不安そうに答え、その肩をリオンが抱き寄せた。
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