Report25.fall

浅野エミイ

Report25.fall

 12:00ちょっと過ぎ。中学での友達はいない。昼休みになり、こっそりとスマホの電源を入れる。僕以外にもこうした生徒はいるから、いちいち告げ口はされない。

 いわゆるリア充は友達と話しているけども、僕みたいなぼっちはスマホが友達みたいなものだ。

それなのに、圏外表示。

 

「私のスマホ通信障害っぽいわ」

「なんか最近多いよね。あ、こっちも」


 孤独でも平和な日常は、幸せだったのかもしれない。


【Report25.fall】


 学校の時計で16:00過ぎ。今日は塾もないので、帰宅したらスマホゲームをしたり、動画サイトを見ようと思っていた。

平和な日常は、壊れていた。

 ピピーッ! と大きな笛の音と警察官。どうやら信号機が壊れているらしい。手信号で車を誘導している。警察官は忙しそうだけども、信号機も古かったのか? ……いや、最新式のやつに変わったばかりだったよな? それなのに故障なんて。

 中学から僕の家まで、信号機は1つ。あとは住宅街を歩いていく。

 家に着いて、スマホを取り出す。電源をオンにする。あれ? おかしいな。時間が狂っている。今は大体16:30かそのくらいだと思うんだけど、スマホに表示されている時刻は、4:36。これは朝の表記だよな? スマホも古くなったのか? 新しく買って、2年だもんな。

 部屋にリュックを置き、手を洗おうと洗面台に向かう。水が出ない。え? おかしいだろう。水が出ない? 水道管は破裂していないし、工事もやっていないはず。元栓が閉じられているとか、水道代未納だったとか? うちの母はそんなに稼いでいなかったのか?

 とりあえず、除菌用のウェットティッシュで手を拭く。何かが少しずつズレているようなこの感覚。一体なんなんだろう。

 スマホの通信障害も直っていないようだし、仕方ない。携帯型家庭用ゲーム機の電源をオンにして、通信しようと試みる。だが、こちらも通信できない。もしかして、家のルーターもダメなのか? 見てみると、電源がオンになっていない。コンセントは入っているのに。


「何が起きてるんだろう……?」


 秋の夕暮れは早い。あっという間に闇が来る。スマホもゲームもつながらない。仕方なく落書きをしたり漫画を読んでいたのだが、そろそろ腹がへった。普段だったらこのくらいの時間になると母親が都心の勤め先から帰ってくるんだけど、今日は遅い。

 コンビニに行って、おかしでも買ってくるか。

 家を出ると、近くのコンビニへ。しかし、その様子はいつもと違っていた。コンビニに長蛇の列。普段、見知らぬ人に話しかけたりしない僕だけども、気になって列の最後尾の人に声をかけた。


「あの、何の列ですか?」

「レジが使えないんだって。スマホ払いもできないらしいから、電卓集計しているみたいだよ」

 

 おじさんの手には3つのカップ麺。その前の人も、かごにレトルトのものやペットボトルをたくさん入れている。


 嫌な予感がする。僕の知らないところで、何か災害でも起きているのか? でも、地震とかはなかった。だとしたら、一体――?


 買い物は諦めて帰宅すると、キッチンが水浸しだった。何が原因かと寄ってみると、どうやら冷凍庫の霜が解けている。この水はそれか。ということは、冷蔵庫の電源も落ちているのか。コンセントは入っているのに。

 部屋が暗いので電気をつけようとするが、つかない。スイッチひとつでついたはずなのに。これはもしかして、大規模停電か? その可能性だったらあり得る。

 都内にいる母さんが心配だけども、この停電はここ一帯の出来事かもわからないし。慌ててもしょうがないので、懐中電灯を持ってくると、雑巾でキッチンの床を拭く。中のものが痛む前に復旧してくれればいいんだけど。

 

 スマホ時間6:30。家の中にある時計もなぜか狂っているみたいだ。なんで15:00と表示されているんだ? こっちは電池で動いているから、停電とはまったく関係ないはず。おかしい、何かがおかしい。

 母親も帰ってこないし、やることもない。冷蔵庫の中に残り物があったので、それを食べて、ひとりでゲーム。でも、通信していないとつまらないし、充電もなくなった。

 自然と僕は、暗闇の中眠りについてしまった。


 朝。ヘリの音で目が覚める。スマホ時間21:00。21:00なわけがあるか。お日様はそこそこ高い位置。今日は平日。学校はある。でも、誰も起こしてくれなかった。

 そういえば母さんが帰ってきていないみたいだ。いや、もしかしたら一度帰ってきて、僕を置いて仕事へ行った? そんなわけはない。母さんは僕を必ず起こしてくれる。やっぱり帰ってきていないんだ。

 何かがこの街で起きている。何かはわからないけど、多分大規模停電。とりあえず、遅刻でもいいから学校へ行ってみよう。災害が起きているなら何か情報を得られるかもしれない。相変わらずスマホは通信できないし、検索エンジンもSNSも使えない。テレビは電源が入らないし、この間防災用に買ったラジオも反応がない。

 ともかく、学校へ急ごう。


「車は近くの駐車場に止めてください!」


 横断歩道で、警察官が車を一台ずつ止めて、徒歩で移動するように説得している。昨日と一緒だ。信号機が使えない。大規模停電だからか?


 学校に着くと、そこには大勢の市民がいた。避難? いや、何から避難してきたというんだ。多分、僕と同じく何か情報を得ようとして来たんだと思う。

 校庭では、災害用の備蓄が配布されていたり、水道局の給水車が水を配っている。昨日はなんとか昼間に学校で買ったペットボトルでしのいだけど、のどが渇いた。

 何かあったら……いや、多分あったんだけども、僕も非常時だから備蓄配布の列に加わる。すると、前にクラスメイトがいた。


「よ、大変なことになったな」

「何が起きたの?」

「さっきいた自治体の人の話だと、『太陽フレア』の影響じゃないかって」

「太陽フレア? 何それ。大規模停電じゃないの?」

「俺もよくわかんねぇ。でも、この停電が長くて2週間続くって。電車も止まってるらしいよ」


 2週間も……。電車が止まっているということは、母さんは帰ってこられないってことか? 僕はその間まさか、ひとり? スマホも電化製品も使えない中で? どうやって生きていけばいいんだ!


「ほら、順番来たぞ」

「あっ」


 僕はもらったアルファ米と缶詰、ペットボトルの水をリュックに入れると、とぼとぼと帰宅した。すると、家の前に見慣れた姿があった。スマホ時間2:00。学校で見た時計の時間は11:00だったから、正しい時刻は11:30くらいのことだ。


「母さん!」

「よかった、無事だった!?」

「母さんこそ! 電車止まってたんでしょ? どうやってここまで帰って来たの?」

「ずっと歩きよ。都内から。会社用の防災マップを見ながら川を越えたんだから。なんとか生きているみたいで安心したわよ、本当に」

「それはこっちのセリフだって!」

「あんたのことだから、『何が起こっているか把握してない』んじゃないかと思ったわ」


 ……まぁそうなんだけど、とんでもないことが起きていることはわかっている。都内、というか交通網が全部止まっている。多分、電気が止まった昨日からだと思う。母さんだって数十キロくらいを歩いて帰って来たんだし。水道は断水しているわ、時計は正確じゃないわ、色々。

 帰ってきて、ラフな服装になった母親と今後どうするか一緒に考え始めるが、2週間会社にも行けないことはわかっている。学校……授業はオンラインじゃなければできるかもしれないけど、そんな状況じゃないだろう。みんな家庭待機という話だったし。


「とりあえず、冷蔵庫や冷凍庫に入っていたものでしのぐしかないわね。スーパーもコンビニも買い占めがあったみたいだし」

「2週間、何して過ごせばいいの?」

「やることないなら昼は勉強してなさいよ」

「……だよね」


 勉強できるだけマシとも言える。その代り、テレビもゲームもスマホも音楽もラジオもないけど。精神的に苦痛だ。


 スマホ時間8:00。

 すっかり夜も更けた時間。ドンッ! と大きな花火のような音が外から聞こえた。


「母さん、今のは? 景気づけに花火でもあげてくれたのかな?」

「そんな状況じゃないでしょ!」


 窓を開けると、近所のおじさん、おばさんたちが騒いでいる。


「何かが空から落ちてきてるわ!」

「他国からの侵略じゃないか!? 迎撃システムは使えないのか!? 何をやってるんだ、国は!!」


 空を見つめると、火の玉が空を舞っている。あれは……火球かな?


「衛星がぶつかりあってるのかも」


 母さんが小さくつぶやく。


 Report25は、ここまでだ。

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