第8話

「そんなクールなお兄様が弟を溺愛だもんなぁ。まぁ佐奈が弟なら深山先輩の気持ち何となく分かるけどさ」

「……なにそれ」


 溺愛。佐奈は嬉しいと思う反面、自分はやはり弟だという現実を知らされる。それは家族愛に他ならないからだ。

 恋愛の対象として見てもらえればどんなに幸せなのだろうか。叶うはずもない想いの中で、夢を見ては現実を知り、一喜一憂の日々だ。この想いはいつか消えてくれるのだろうか。佐奈は時々ふとそう願うときがある。



「佐奈くーん、高校でも一緒のクラス嬉しーい」


 豊満な胸を、惜しげもなく佐奈へと押し付けて抱きついてくる女子生徒。周囲の男子からは羨望の眼差しを向けられ、佐奈は少し居心地が悪い思いをする。


「し、篠原さん、ちょっと苦しい……」

「あ! ごめん! 大丈夫?」


 綺麗に整った顔で、佐奈の顔を心配そうに覗き込む篠原に、佐奈はこくりと頷いた。


「良かった! あ、安西くんもまた一緒なんだね。よろしくね」

「おう」


 篠原は中等部でも三年間同じクラスであったため、佐奈ら三人は仲が良いのだ。


「そう言えば、さっき見たよ佐奈くん。お兄さんと一緒に来てたね。更に美しさに磨きがかかって、とてもじゃないけど近づけない神々しさだったよ」

「え? あの異様に目立ってた人って、あんたの兄貴?」


 中等部からのメンバーが集まる輪に、驚いた声が割って入ってきた。


「あ、悪い。俺は倉橋愛斗くらはしまなと。ご覧の通りに外部生だけど、よろしく」


 にっこりと微笑む倉橋の笑顔に、女子生徒らは頬を僅かに桃色に染める。そうなってしまうのも仕方ない程に、倉橋はモデルのようにスラリと背が高く、甘いマスクのイケメンだった。

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