第7話

「佐奈! おっはよー」


 ポンと軽く肩を叩かれ、佐奈が振り向くと、爽やかな笑顔の親友がいた。


「あ、元! おはよー」

「いよいよ今日からだな」

「うん」


 小学生の時からの親友、安西元あんざいはじめは快活で裏表もなく、気持ちのいい少年だ。小柄な佐奈に対し元は背が高く、昔から凸凹コンビと呼ばれている。

 そんな元が不意に少しの緊張を滲ませながら、佐奈の隣へと視線を移し、軽く頭を下げた。


「おはようございます……深山先輩」

「おはよう。じゃあ佐奈、俺は先行くよ」

「うん」


 優作は佐奈に優しい笑みを見せてから、校舎へと消えて行った。優作が消えるとギャラリーの視線は、佐奈へと関心が集まる。その視線を避けるように、佐奈は周囲を見ないようにするのが常になっている。


「やっぱ深山先輩、近くで見ると更に圧倒されるよなぁ。どうしても緊張してしまうわ」


 優作を見送ってから、クラス発表の掲示板へと向かう途中、元は男らしく短く刈られた頭をガシガシと掻く。


「元、いつもそう言うよね。もう長い付き合いなのに」

「だってさ、おれが来ると先輩の空気がこう、二度くらい、いや三度くらい下がるんだよな。何かおれはお呼びじゃないぞ! みたいなさ」

「えぇーお呼びじゃないって、それは考えすぎだよ」


 そう佐奈は言ってはみるものの、確かに優作は、佐奈や慎二郎以外の者に対しては、途端に口数が少なくなる。無視などはしないが、馴れ合うことを嫌い、他人に対してドライな面があるのだ。優作の周囲には様々な男女が集うが、親友と呼べる人間を佐奈は見たことがない。

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