武器屋に鞘を求めて

 冒険者ギルドでの用事が終わればようやく宿でゆっくり……とも言えない。


 俺は今日女神の涙という酒場で迷宮の話をすると冒険者達と約束をしてしまったのでコネ作りの一環も兼ねて酒場に行かなければならない。


 他のメンバーも来てくれるので助かるが、一応酒場の場所の確認をしておこうと宿の部屋にお金やバックパックを置いた後に、俺は町をぶらついていた。


 道行く冒険者に女神の涙という酒場の場所を聞いて宿から15分くらいの場所に目的の酒場を見つけた。


 西部劇のカウボーイ達がたむろしているような酒場……(オタクが居たら異世界のベターな酒場と言うだろう)がそこにあった。


 木造の造りで昼間はクローズになっていて、どうやら日が落ちてから店が始まるらしい。


「さて、どう話したものか……」


 包み隠さずに話しても良いし、ミスリルの剣やモーニングスターを見せても良いかもしれない。


 そんな事を考えていると、そうう言えばミスリルの剣の鞘を探さないといけないことに気がついた。


「あー、面倒くさいけど宿から取りに行って鞘を探すか……」


 また宿に戻った俺はミスリルの剣の鞘を探しに武器屋に向かった。


「随分と美人な嬢ちゃんが来たな……あぁ、最近町人の間で噂になっていた竜人の人達か……いらっしゃい」


 目の前に居る武器屋の親父は身長が小学生よりやや大きい程度……150そこらしかないが、毛むくじゃらで腕や足は丸太の様に太かった。


「もしかしてドワーフですか?」


「おうよ! ドワーフを初めてみた様な顔だな! まぁこの国だとドワーフは少ないかもしれねぇが居るところには居るんだぜ! 俺は竜人を見るのが初めてだがどうしてこの町に?」


「転移魔法の失敗で集団転移してソレンス迷宮の深部に飛ばされたんですよ。まぁ事故です、事故……それで冒険者をやって稼ぐ必要が出てきたんでね」


「ほう、それで武器を求めてか?」


「武器というか鞘を探しに……迷宮で武器をモンスターから奪ってそれを使おうとね」


「豪胆なこった……どれ見せてみろ」


 俺はとりあえず石で固めた剣を見せた。


「石の塊じゃねぇか」


「いや斬れ味が凄すぎて危ないので石の中閉じ込めていたんですよ」


 俺は魔法で石を崩すと、ミスリルの剣が現れた。


「お、おお!? ミスリルじゃねぇか! すっげぇなかなかお目にかかれねぇかんな!」


「2本今回の冒険で入手しまして、鞘を2個欲しいのですよ」


「なるほど……これだと皮の鞘だと駄目だな……わかった。金属の鞘を作ってやる。ただこれだけ立派なミスリルの剣だ。焼き直しをしても良いか?」


「焼き直し?」


「剣に特殊な効果を付与するドワーフに伝わる技術だ。ドワーフから技術継承をした鍛冶屋も使えるから今では鍛冶屋の殆どができるが……最低でもステータスが上がるし、運が良ければスキルが付くこともある。まぁその分値段もするがどうだ?」


「じゃあお願いします。今日持ってきたのは1本なので明日の午後にもう1本も持ってきますよ」


「おう、鞘のデザインはどんなのが良いとかあるか?」


「腰に吊り下げられれば良いと思ってます。背中に背負うのはこの翼があるので……」


「ああ、なるほどな……できれば寸法を測っていいか?」


「いいですよ」


「ちょっと待て俺の嫁を呼ぶからおーいジル」


「なんだダンデ」


 出てきたのは黄緑色の髪をした背の高い女性で耳が尖っていた。


「エルフですか?」


「正確にはハーフエルフよ。寿命が人族より少し長いのと、手先が器用なくらいで人族とほぼ変わりないわ」


「なるほど……」


「えっと嬢ちゃん名前なんだ?」


「カネダです。カネと呼んでください」


「じゃあカネ、裏でジルに寸法してもらってくれ。鞘を腰で止めるベルトを作るのに必要だからな」


「わかりました」


「じゃあこっちよ」


 ジルさんに言われて裏で体を測ってもらう。


「エルフとドワーフって仲が悪かったりしないんですか?」


 俺はジルさんに質問してみた。


「エルフの国とドワーフの国は仲が凄い悪いわよ。でも個人単位なら別に気にする人は居ないわ」


「なるほど……」


 まぁ地球でも国家が仲悪くてもそこに住む人同士は仲が良いとかあるしな……そんな感じだろう。


「はい終わり。一応測った体の大きさとかをカードにできるけどします?」


「すると何か良いことが?」


「例えば防具を作ったり武器を作ったりする時にカードを見せれば体の大きさに合った防具や武器を進めることができるの……あと毎回測らなくても良いって利点があるわ」


「じゃあお願いします」


「はーい」


 カードを貰い、お金は前金と商品受け渡しの時の2回払いと言われた。


 焼き直しがミスリルなので1本3000G、鞘が500Gらしい。


 なので今日は4000Gを支払って店を出るのだった。







 ようやく宿に戻ることができたのでラフな格好に着替えてから浴場に移動する。


 他の皆はもう上がった後で俺だけの入浴らしい。


 髪の毛をシャンプーで、体をタオルと石鹸でしっかり洗い、水魔法でお湯を滝のように流して汚れを洗い流す。


 そのまま浴槽に浸かる。


「あぁ~」


 気持ちよくてとろけそう……。


 お湯に浸かっていると皮膚が赤くなってきて体の芯から温かくなるのがわかる。


 たっぷり20分入浴し、もう一度体の隅々まで洗っていく。


 お湯に浸かって垢が浮かび上がって来ることもあるし、迷宮に潜って汚れていたので改めてである。


 隅々までピカピカに洗い終わると、迷宮に着ていったドレスや下着類も洗剤で洗っておく。


 ドレスは一瞬で乾くが、下着は乾かす必要があるので部屋干ししておく。


「これでよし!」


 Tシャツに短パンスタイルになった俺は部屋の中で柔軟をしていく。


「最初は硬かったけど毎日やっているとだいぶ柔らかくなったな……可動域が広がっているのがわかる」


 翼の柔軟とかも必要かわからないが軟骨剥がしの応用で翼周辺の筋肉が固まらないように気をつけている。


 この体になって筋肉の質がかなりえげつなくなっている自覚はある。


 ゴーレムにぶん殴られても全く痛くない体だ。


 それだけ超密度の筋肉が詰まっている。


 まぁ魔力やステータスによって強化されているのはあるだろうが、元の世界の体と比べると筋肉、骨密度、神経伝達速度なと人間としての基礎スペックが上がっているのを感じる。


「今寝ると夜まで寝ちゃいそうだな……しゃあねぇ、筋トレするか」


 元の世界でも自衛隊に入りたかったので暇な時は自重の筋トレをしていた。


 前の世界では絶対にできない、5分間1秒で1回の腕立て(300回)もインターバル無しで普通にできてしまう。


 まぁもっと負荷をかけるために1秒に1.5回の腕立て伏せを2分間行う。


 1回180回……その方が疲れるしトレーニングした気分になる。


 筋トレをして意味があるのかは分からない。


 ステータスやレベルというのがある以上、筋トレをしなくても変わらないかもしれない。


 でもやっていた方が次のレベルアップの時に力の数値が気持ち上がりやすくなっている気がする。


 こういうのもキッチーナさんに聞いておくんだったな……まぁやっていて損は無いと思う。


「ふぅぅ……」


 3セット目を終えると顎の下や腕の周りが汗でびちゃびちゃになっていた。


「でもこうやって汗を体から出すと気持ちいいんだよなぁ……あーサウナどうにかして作れねぇかなー」


 そんな事を考えながらも腕立てから腹筋へと移行する。


 今俺の体は女性だから腹筋が割れにくいというのもあるが、それでもうっすら腹筋が割れ始めていた。


「このまま腹筋割って筋肉ウーマン目指すか!」


 この体でどこまでトレーニングできるか試したくなるのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る