異世界人とのコンタクト

「俺達もソレンス迷宮の第4階層まで降りられるようになったな」


 チームキッチーナ……俺はリーダーのキッチーナ。


 仲間は斥候のリリス、タンクのジューク、魔法使いのミリアの4人パーティーだ。


 俺達は日々の生活をするためにダンジョンに潜る。


 このソレンス迷宮は階層毎に危険度と換金率が変わるダンジョンで、最下層には飲んだら傷や病気が癒える湖やミスリルの製品が出る宝箱があるとされ、全10階層のダンジョンと仮説で言われている……。


 ただ4層の森の階層から下の階層は人の手が殆ど入っていない道のりになり、多くの冒険者は3階層までで鉱石の発掘作業やゴブリン、スライム、角うさぎ、トゲイノシシなんかを倒して生活しているが、第4階層の飛竜を倒せるようになれば生活が全然変わってくる。


 例えば第3階層までで一番高いトゲイノシシ1匹300G(ゴールド)とすると飛竜は1匹で2000Gにもなる。


 強さや危険度もそれだけ上がるが、2匹倒せれば4人パーティーが1ヶ月は余裕で生活することができる金額になる。


 あと飛竜は肉質が柔らかく、味も良く、骨は肥料や錬金術の素材に、皮や爪は装備品に加工され、全身余すとこ無く使えるのも買取金額が高い理由らしい。


 そんな俺達も生活を良くするために第4階層に来たのだが……木の窓から外を見てみると飛竜がやたらと飛び回っていた。


「先客の誰かがしくじったか?」


「あーあ、飛竜を怒らせちゃってるよ……素人が突っ込んだのかもね」


 飛竜を討伐する時は巣で眠っていたり、木に止まって休んでいる飛竜を奇襲で攻撃する必要がある。


 空を飛ぶことのできない俺達人類は工夫をして倒すことをモットーにしている。


 俺達のパーティーが計画していた作戦は、動いていない飛竜や油断している飛竜を斥候のリリスが見極め、魔法使いのミリアが電撃の魔法で飛竜を麻痺状態にさせて、俺とタンクのジュークが首を切断する。


 あとは素早く大樹の中に運び込んで持ち運びしやすいように解体し、地上に運ぶ。


 そういう取り決めだ。


 だから今日は初めての第4階層だが飛竜があれだけ興奮していたら治まるまでだいぶ時間を浪費することになりそうだ。


「窪みで軽食にするか……角うさぎの肉をスープにして食べようぜ」


「「「賛成」」」


 俺達が魔石で動くコンロの上に鍋を置き、水筒から水を、あと肉と干し野菜を入れてスープを作っていく。


「それに味噌! 味噌!」


「あ、リーダー味噌味なんか持ってたんだ」


「あったほうがこういうスープを食べる時とかに便利だろ?」


 そう言って煮込んでいるとなんか階段を登る足音が聞こえた。


 同業者が登ってきたのかと思って斥候のリリスが窪みから顔を出すと、その姿を見て顔を真っ青にした。


「竜人だ! 竜人が居た!」


「は? 竜人!? 遠くの国の少数民族だろ……ここいらにそんな奴が居るなんて聞いてないぞ」


「とりあえずリーダーなんか手を振ってるから何か話したいらしいし交渉して穏便に済ませてよ!」


「おいおい俺かよ!」


 リリスにトンと押されて窪みから出ると確かに角、飛竜の様な翼、太い尻尾があり、竜人の特徴と一致する。


 確かに手を振っているし、ニコニコしているので敵対的ではなさそうだ。


「こ、こんにちは」


 とりあえず挨拶をしてみるのだった。










『こ、こんにちは』


 正面から挨拶を言われたので、俺達も異世界語で返答する。


『こんにちは!』


 一応ここにいるメンバーは全員異世界語の翻訳と発声は取っているので異世界語を聞くことができるし、話すこともできる。


 思った事を異世界語で話すと日本語を話す感覚で発声することができる。


「ファーストコンタクトは重要でござるよ! 慎重にいかないといけないでござる」


 ただオタクは俺に交渉役をやらせたい様で、前には決してでなかった。


 こいつさては人見知りだな……行動力あるのにと思いながら、俺は前に出てきた金髪で胸に金属の鎧を着た兄ちゃんに声を掛ける。


『いやぁちょっと色々聞きたいことがあるのですが、食糧渡しますので話だけでも聞いてくれませんかね』


 俺の言い分に金髪の兄ちゃんは


『ちょっとチームメンバーに確認する』


 と言い、窪みに戻ってしまった。


 金髪の兄ちゃんはすぐに出てきて、代表者だけで話し合おうということになった。


 とりあえず俺が代表役らしく、金髪の兄ちゃんと話すことになる。


『俺は人間族で冒険者のキッチーナ』


『俺は一応ドラゴンの金田……カネと呼んでくれ』


『じゃあカネ、一応ドラゴンというのはどういう事だ?』


『元々さっき居た俺達の仲間も人間族だったし遠くの場所で生活していたんだが、気がついたらドラゴンの体になっていて容姿も性別も変わったのが多い。だから一応だ』


『変身術の実験の失敗で容姿が変わる事はあっても種族が変わるというのは聞いたことが無いな……俺が知らないだけで町の魔法学校とかの教官なら知っているかもしれないが』


『あぁ、やっぱり近くに町があるのか……俺達ダンジョンの最深部に飛ばされて外に出ることを目標に探索をしていたんだ』


『マジか……ダンジョンの最深部ってここのダンジョンは未踏破だからどこまで底があるか分からないんだが』


『巨大な湖があるぞ。首の長い竜とかが生息している』


『……伝承にあった回復の泉か? 何か証拠になりそうな物はあるか?』


『これなんかどうだ? ミスリルの武器を持った機械人形? みたいなモンスターの頭部にある宝石だが……』


 俺はポケットから真っ赤な宝石をキッチーナに手渡す。


『最上級の魔石だ……こんな上質なのは見たことが無い……売れば大金が手に入るぞ』


『やっぱり高価な品だったか……譲っても良いが条件がある』


『なんだ? これを譲ってくれるなら可能な限り答えるが』


『なに、町の事やこっちの常識を教えて欲しい。おそらく別の地域から飛ばされた可能性が高いからここらへんの常識は疎いんだ』


『なるほど……なら話し相手は沢山いた方が良いな……窪みに入れよ。カネの仲間も入ってくれ』







 キッチーナに言われ、俺、野村、オタク、中園さんは窪みの中に入る。


 窪みの中には魔女っぽい格好をした女性、軽装備の女性、キッチーナよりも重装備の男性が座っていた。


『紹介する、魔法使いのミリア』


『よろしく』


『斥候のリリス』


『こんにちは』


『タンクのジューク』


『どうも』


『じゃあ俺も改めてカネです。こっちがノム(野村)、角が立派なオタク、焦げ茶の髪のナカ(中園)です。故郷の呼び方だと呼びづらいので略称ですが許してください』


『カネ、ノム、オタクにナカね。わかったわ』


『よ、よろしくお願いします』


『よろしくでござるよ』


 とりあえず俺達も座り、先に宝石から渡す。


『キッチーナ、先に渡しておく』


『おう、サンキュー。でもこっちの常識だと報酬は原則後払いか前後の分割払いが基本だ。前払い一括だと持ち逃げされるぞ』


『助かる』


 とりあえず俺とキッチーナの会話を周りが聞く感じになる。


『まずこのダンジョンって幾つ階層があるんだ? 俺達はここまで登ってくるのに6つの階層を踏破してきたが』


『6つも!?』


『どんな階層があっか教えてくれないか!』


 魔法使いのミリアとタンクのジュークが反応する。


『落ち着けお前ら……悪いな冒険者だからダンジョン深部の情報は命に直結するからな』


『まず広い湖がある階層……俺達が飛ばされた階層で、主にそこで俺達の仲間は生活している。次に地底湖のある階層……洞窟を幾つも重ねた様な構造をしていてゴーレムや機械人形が出てくる。さっきの宝石……魔石とこっちでは言うんだったな。魔石も機械人形から剥ぎ取った物だ』


『その次はピラミッドのある階層。ピラミッドの中にはミイラが沢山居た。炎の攻撃に弱い。その上は紫の水晶が幾つも生えている階層で鉱石の様な石が飛んでくるし、オークが徘徊していたし、オークの居住区もあった。キッチーナ達が持っている鞄みたいなのもオークの居住区に何個も持ち運ばれていた』


『次が石畳の階層で、オーク、人型の犬や猫みたいなモンスター出てくる。そして今の森の階層になる』


『となるとこの迷宮は実際には9階層の迷宮だったのか……凄腕でも5階層以下に潜った冒険者が居なかったから類似の迷宮で考えられていたが……』


『9階層ということはここより上にあと3階層があると?』


『ああ、ただ上の階層は採掘場みたいになっていて迷宮内部も看板が立てられていたりと整備されているんだ。整備されていないのはこの階層の下の5階層からさ』


『なるほど……一応聞きたいのは種族についてだ。俺達はドラゴンという種族と認識しているんだが、類似種族が居たりするのか?』


『俺も聞きたかった竜人じゃないのか?』


『そもそも竜人が分からないんだが竜人とはなんだ?』


『軽く言うとお前達の様な姿をした戦闘民族で遠くの国に居ると言われている。ドラゴンだと巨大なトカゲに翼が生えているモンスターの方を想像するんだが』


『いや、俺達もそう思っていたんだが、ステータスにはドラゴンと出るんだよな……ちなみにステータスは見られるか?』


『もちろん、この世界の人類ならステータスは皆確認することができるし、冒険者ギルドや役所では相手のステータスを確認する事ができるの魔道具があったりするぞ』


『冒険者ギルド!!』


『オタク落ち着け』


 オタクが興奮しているが落ち着ける。


『悪いな、俺達が住んでいた場所にはモンスターが居なかったり、冒険者ギルドが無かったから書物でしか言われていなかったんだ』


『どんな辺境だよそれ……多分詳しくないからギルドで軽く説明される程度の事を教えておくと、冒険者ギルドは世界中にある機関で、そこに所属するのが冒険者。冒険者は町の商売ギルドを通さなくても物品の売買をすることができたり、冒険者ギルドが発行する依頼を受けて物を運んだり、日雇いの作業をしたり……そして迷宮やダンジョンに潜って一攫千金を狙う者達の事だ』


『なるほど……となると他の町とかに移動するにしても冒険者になっておいた方が良いんだな』


『まあそうだ。ドラゴンが冒険者になるって話は聞いたことが無いが、戦える者は冒険者ギルドは歓迎してくれると思うぞ』


 その他にもお金について聞く。


『俺達の元いた地域だと円という通貨が使われていたが、こっちではどんな通貨が使われているんだ?』


『通貨はゴールド、文字だとGと書く。だいたい1Gで野菜が1つ買える値段、10Gで泊まるだけの安宿、30Gで風呂と食事が朝と夜の2食付く。50Gから個室の宿だ。だいたい日雇いの仕事で20Gから30G、鉄の剣が100Gと言った感じか?』


『なるほどなるほど……冒険者に登録するのに費用は必要か?』


『登録だけならタダだが、技能研修を受けるには金がかかる。剣を持った素人だとゴブリンでも苦戦するからな。それに迷宮内で応急手当とか火の起こし方とかを知ってないと、長い時間潜ることができないだろ?』


『そりゃそうだ』


 その後もキッチーナの話は続いていく。


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