中年になると体が機敏に動くだけでも嬉しい
食事を取って、俺とオタク、それに俺達に習って土魔法のスキルを習得した面子で、広場の周りに空堀を掘った。
空堀と言っても1.5メートル程度の穴と内側に軽く土を盛った感じで外部からモンスターが入ってこないようにした。
これをしないと見張りを必ず1人以上しないといけないと思ったからだ。
休憩はなるべく集団かつ同じタイミングで取りたいので、安全を考慮しての空堀であった。
三方に俺とオタクと宮永さんで作った角材を橋代わりに設置し、皆が寝る時に橋を外す様にした。
前田先生も前日寝てなかったからか、空堀が出来て安心すると泥の様に眠ってしまった。
そんな前田先生を見て俺達生徒は一人大人ということで異世界でも生徒の安全を第一に考えて動いてくれていることに元の世界での評価を一変させて頼りになる大人と見られていた。
ステータス的には野村や佐々木みたいに上回っている生徒も居るが、それでも年長者ということで、クラスは前田先生を中心に纏まっているし、クラス内も前の世界での仲の悪い……というより相性の良くない生徒達も緊急事態として協力していた。
先生の次に株を上げているのは元野球部の野村と委員長の前園、女子達を統率しているギャルだった和田さんだろうか。
野村はステータスが一番高いし首長竜を倒した事でレベルも一番高い。
ただ野球部の元キャプテンらしくリーダーシップを取れる人格で、スポーツが得意な生徒達をよく纏めている。
委員長は元からクラスの調停役として活躍していた為に異世界に来てから女子や元男子の仲介役になりクッションとして機能していた。
異世界でパニックになっていた生徒も委員長が説得して仕事を振り分けて動くことで異世界の恐怖を和らげている。
そしてギャルのリーダーだった和田さんはギャルグループを纏めて異世界の詳しい知識を持っているオタクや藤原さんから情報を仕入れたりしながらこの空間の探索を続けていた。
彼女のチームはこの状況を楽しもうと明るく振る舞ってクラスの雰囲気を良くしているようにも見える。
あとは陰キャ組と呼ばれる子達……オタク……はちょっと違うかもしれないけど藤原さんみたいな大人しい子の大半がネットなどで異世界小説やゲームをやったことがあり、陽キャ組から情報源として期待されるので生き生きとしていた。
まぁ大学受験の鬱憤が溜まっていたりしたのでそれが容姿が美少女に変わったし、いつもよりも体が機敏に動く為にストレスの発散が出来ているようにも見える。
まだ2日目……常に明るいから曜日感覚が分からないが、ギスギス感は無く、現状を良くしようや、体の変化を知ろう等の達成可能な目標があるので少しずつ異世界の新たな発見による好奇心が勝っている状態なのだろう。
この空間の探索が終わり、次に進むにはどうすれば良いかと考えるようになったらまた関係性やクラスの雰囲気が変わりそうであるが……。
俺も横になりながら明日中園さんと一緒に行動するなら、川の上流に向かうか、湖の奥に島っぽいのがあるので泳いで向かってみるのも面白いかもしれないと思うが、中園さんが新しい体になったからといって流石に長距離遠泳は厳しいかと川の上流の洞窟を探索してみることにしようと思うのだった。
皆起きると、顔や体を洗うために湖に向かう。
流石に元男子と女子は入る時間を分けたが……他の男子達もオタクと話したように美少女や美女が居るのに性的に興奮しないと言っていた。
「でも今でも俺は原村さんのことをLikeじゃなくてLoveの方で好きだけど」
豪炎寺が皆の意見に異を唱えようとしたが
「気持ちはそうだろうが性的に興奮するか? 襲いたくなるような衝動や自慰行為をしたいみたいな衝動が湧き起こるか?」
「……起こらないな」
「やっぱり性欲が減衰しているでござるな」
オタクの言葉に元男の皆が注目し、オタクも体が女になったから好意の対象が変わったというよりは性欲自体が薄くなっていると指摘する。
「集団生活をしている以上他人の自慰を見たいとは思わないでござるが……これはドラゴンという種族になった事で普通の人間みたいに年中発情するのではなく、発情期の期間だけ発情する感じに体が変わった感じではござらんかと拙者は思っているでござる」
「確かにそれなら納得いくが、女の生理周期みたいなのも関わってくるとしたら月物が来たら体調不良になるのか?」
とガリ勉元ヤンの里崎がオタクに質問する。
「創作物のドラゴンは1000年以上生きる生物でござるよ。生理周期も人間の10倍の周期と考えても良いかもしれないでござるし、これもあくまで仮説。実際に生理が来ないと分からないでござるが、不安ならば病気等の各種耐性を上げておけば良いと思うでござるよ」
「生理で動けなくなるのは嫌だな」
「女の体も大変だな……女性になって苦労が分かったわ」
「まぁこんなに胸が大きかったら普通なら肩が凝ったりするだろうな……今のところ体に不調は無いけどラジオ体操とか柔軟は結構やっておいた方が良いかも?」
「柔軟みたいなスキルって無いよな?」
「体力に組み込まれてるんじゃね? 物を食べれば経験値が上がるんだから、トレーニングでも経験値が入るかもしれねぇ。ちょっと俺トレーニングをしてから探索とか行くようにするわ」
「元男組は全員参加でいいんじゃね?」
「そうだな。女子の希望者も募ってトレーニングするか」
野村と委員長の意見で元男達は軽くトレーニングや柔軟をすることに決めた。
女子とも共有するとギャルグループも賛同し、同調圧力じゃないが、皆やるならと全員で行う事になるのだった。
水浴びが終わるとさっそく皆で体操とストレッチを始め、ラジオ体操と体育でやるような柔軟、そして軽い腕立て伏せや腹筋、背筋、スクワット等をやるようになる。
俺は元の世界で自衛隊を目指していたからある程度鍛えていたけど、今の体だと女子を含めて簡単に各種自重トレーニング100回3セットを達成した。
多少疲れるが多少だ。
腕がプルプルするとかそういうのも特に無く、本質的に筋肉の質が変わっていることや超人みたいになっていることを改めて実感した。
各種トレーニングをしても1時間かからないし、体を軽く動かした様な疲れ方なので皆出来そうだと喜んでいた。
今まで腕立て伏せが1回も出来なかった中園さんも皆と同じ様にトレーニングが出来て嬉しそうに笑っていた。
前田先生も痛風の痛みから解放されたのと、昨日はしっかり寝れたから元気でトレーニングとかも積極的にやって体が軽いと大喜びしていた。
50歳という体の衰えが顕著に現れる体からピチピチドラゴンに変わった為に動けるというだけで凄い嬉しいらしい。
そんなこんなで皆とのトレーニングが終わり、委員長の提案である程度どう動くかを言ってから行動しようとなった。
全員が探索して食材が無いというのを防ぐためである。
「先生も俺達と一緒に鍛えようぜ」
と野村が誘って先生は今日は野村のグループと動き、野村のグループはワニ擬きか首長竜、もしくは水辺に居る恐竜みたいなモンスターの集団討伐に動くらしい。
とにかくレベルを上げたいとのこと。
「じゃあ僕達のグループは昨日と同じく果実の森の探索をしようか」
委員長のグループは食材集め、ギャルグループはバロメッツの綿を使って糸を作る事が出来ないか挑戦してみるらしい。
糸もしくはロープが出来ればやれることが更に増えるので皆から頑張ってくれと言われた。
残りのメンバーは2人か3人組になって探索の続き。
元水泳部の梶原さんと元陸上部の桑原が泳いで湖の奥に見える島に行ってみると意気込んでいた。
俺と中園さんは川の上流の先の洞窟を調査してみると言って向かうのであった。
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